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◇週末の色々

「ライブ当日」*優月

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 一緒にシャワーを浴び終えた。いつものようにドライヤーをかけ終えて。
 リビングに戻って水を飲んでると、玲央のスマホが震え出した。

「こんな時間に誰――――……あ……」

 少し眉を顰めてスマホを見た玲央は、ため息をつきながら、通話ボタンを押した。


「……もしもし、親父?」


 ――――……玲央の、お父さん。
 なんとなく、静かにしとこう、と思う。


「……あぁ、ん、そう。明日。ああ。…は? 母さん?」

 お水を飲みながら、大人しくしていると。
 少しして、玲央が電話を切った。

「……急に母さんが来たいとか言い出して」
「明日来るの?」

「断った。来ると面倒臭いんだよ……」
「めんどくさい?」

「いつも忙しくて放置してっから、思い出したようにたまーにうるさいんだよ……来ると、オレの知り合い皆に挨拶して回る感じ……」

 あは、と笑ってしまう。

「可愛いお母さんだね」
「いや、可愛くねえから。……人数も多くて相手も出来ねえからって断ったけど……来ると大変だから敢えて言ってねーのに……」

 ふふ。お母さん、玲央が可愛いんだろうなー。
 何かぶつぶつ言って困ってる玲央は、オレから見ても可愛い……。


「……笑ってねーで、寝よ」
 
 クスクス笑ってたら、苦笑いの玲央にそう言われた。

「あ、うん」

 髪も乾かしたし。歯も磨いたし。水も飲んだし。
 寝る準備完了、て事で、二人で寝室に向かう。

 ベッドに乗って、並んで布団に足を入れて。
 オレは、隣の玲央を見上げた。

「明日、頑張ってね、玲央」
「ん。待ってるから、なるべく早く来いよな?」
「うん」
「お前も仕事頑張れよ?」
「うん!」

「――――……おいで、優月」


 腕を優しく引かれて、ぎゅ、と抱き締められると、向かい合わせで横になって、少し見つめあった。

 なんだか、自然と、笑みがこぼれる。

「触りたいけど――――……明日早いから我慢する……」
「――――……」
 
 ふ、と苦笑いしつつ、うん、と頷くと、頬にキスされた。


「――――……おやすみ優月」
「ん。おやすみ……」

 髪に触れる優しい手に、すぐに眠気を誘われて。
 あっという間に眠りに落ちた。



◇ ◇ ◇ ◇
 

 翌朝、玲央と朝食を済ませてから、オレのマンションに寄ってもらった。
 久しぶりに着るので、ついたままだったクリーニングのタグを外してから、シャツを着て、パンツを履いてベルトをしめる。襟を立ててネクタイを締めていると、玲央がふ、と笑った。


「……似合わない?」
「いや。似合う」

「何で笑ったの?」

「スーツってさ……初めて思うんだけど」
「うん」

「すげえ脱がせたくなるんだなあって」
「……っ……着たばっかりだから、やめて」

「今じゃなきゃいーって事?」
「……そ、んな事は、言ってない……」

「きっちり着こまれると、崩したくなるなー……なんか、エロいな腰回りとか……」
「わー、触らないで……っ」

 腰に触れてくる玲央から一歩引きながら、ネクタイを締め終えて、ジャケットを着た。


「……崩さないでね」
「……今度崩させて」

「……えっと……いつかね」

 真っ赤にならないよう、何とか対応してるのに、楽しそうな顔をした玲央に手を引かれて、キスされてしまうと、また頬が染まる。

 もうどうしようもない……。



◇ ◇ ◇ ◇


 それから、駅に向かって、電車に乗った。
 ドアの隅に玲央と並んで立つ。


「チケットを受付に見せれば案内してくれるから。あと、打ち上げどーする?」
「とりあえず蒼くん来てからにする。あんまり玲央の近くに居れないだろうし、邪魔になっても困るから」
「分かった。……って、邪魔にはなんねーけど」
「うん」
「あのさ」
「ん?」

「オレ、もう誘いには乗らねーから」
「――――……」
「オレからも誘わないし」
「――――……」

「今日はまだ周りにそういう奴ら来ると思うけど……気にしなくていいから。その内来させなくするし」

 黙って玲央を見上げて。
 うん、と頷いた。

 とりあえず。
 今の玲央がそう思ってくれてるんだって事は分かった。

「じゃあな、優月。あとでな。気を付けて来いよ?」
「うん」

 ポン、と頭に手が置かれて、くしゃ、と撫でられた。

 さすがにこんなに人が居るとこでは、キスしないんだ。

 って当たり前か。なんて、可笑しくなりながら、玲央が電車を降りていくのを見つめる。
 玲央は、歩いて行かずに、電車が出るのを、待っててくれてるみたい。

「玲央、オレすっごく楽しみにしてるから」
「――――ああ」

 くす、と笑う玲央は。
 本当、カッコいいなと思う。


「ライブ終わったら、とりあえず電話するから」
「うん」

 頷いた所で、アナウンスが流れて、ドアが閉まった。ドア越しに見つめあって。ふ、と笑う。電車が進んで、離れていく玲央に、バイバイと手を小さく振った。


 こんなにずっと居るのに、離れるのが寂しいとかまた思っちゃうし。
 でも、別れる前の玲央を想うと、心が、ふわりと、弾むし。


 どんだけオレ、玲央のこと、好きなんだろ。



 今日。ライブ、ほんとに、楽しみだなあ……。




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