160 / 825
◇そばに居る意味
「可愛がられてる」*玲央
しおりを挟む……なんか、優月。
めちゃくちゃ可愛がられてる気がする……。
優月の希望で、和食メインの居酒屋に来た。
六人掛けのテーブルに通され、優月を奥に入れてしまおうとしたら、勇紀に止められた。
「優月、初参加なんだから、真ん中に決まってるし」
そう言った勇紀に、優月は、
「え、オレ端っこで……」
と言っていたが。
勇紀が、ダメダメと言いながら、あくまで真ん中に座らせようとしている。
いいのかな?と聞いてくる優月にオレが頷くと、颯也と甲斐も、座んなとか言いながら、優月がそのまま真ん中に座る事を促していた。
と言う事で、五人でどう座ったかと言うと。
通路側から、勇紀、優月、オレ。オレの真正面に甲斐、隣に颯也。
これで座る事になった。
優月は最初はど真ん中でどうしようかなと、少し居心地悪そうに座っていたが、普通に皆と話し出すと、楽しそうに笑い出した。
一時間位経過して、今はもう、いつも通りの優月。
「優月、これ美味しいから食べてみて」
「何?これ」
「盛り合わせんなってたから良く分かんないけど……何かの刺身」
「何それ」
クスクス優月が笑って、勇紀の前の刺身を口にする。
「うん。美味しい。――――……けど何か、分かんないね」
「だろ」
あはは、と笑いあってる二人。
……こいつらほんと、仲いいな。
「玲央も食べてみて?」
皿をもって、優月が楽しそうに振り返る。
これ、優月と二人きりだったら、食べさせてっていう所だけど。
――――……んな事言ったら、確実に、餌食だ。我慢。
箸を持って、その刺身を口にする。
「玲央、何か分かる??」
期待してる瞳だけれど。
「さあ。全然わかんね」
言うと、優月が、くすっと笑った。
「美味しいからいっか」
あは、と優月が楽しそうに笑う。
「颯也も甲斐も、食べる?」
そんな風に言って、目の前の二人にも差し出してる。
最初は、颯也と甲斐の名前を呼びにくそうにしてたけど、「ちゃんと呼べよ」と二人に言われて、何回も呼ばされてる間に、すっかり慣れたらしい。
――――……何か、優月が居るだけで、いつもの四人の空間と、全然違う。
まず勇紀がいつも以上に、はしゃいでるし。
颯也の、たまにひどく冷める口調も、なぜか優月に対しては出ない。
……まあ、冷めた口調でつっこむような事を、優月が言わないからかもしれないけれど。
甲斐は基本ニヤニヤしながら優月を見てるし。
で、たまにオレに視線を向けて、面白そうにしてる。
ものすごく、何か言いたげなので、完全に無視を続行中。
「明日優月来るんだろ? 一番前とか来させんの?」
颯也がオレにそう聞いてくるのを聞いて。
「遅れて行くから、後ろから見ると思う」
と、優月が答える。
「遅れるのか?」
「うん。絵の先生の個展の受付のお仕事があって。お願いして、少し早く帰してもらえる事にはなったんだけど……」
ね、と優月がオレに視線を投げてくる。
あ、その話で思い出した。
「なあ、勇紀」
「んー?」
勇紀が、優月の後ろからこっちに顔を向けてくる。
「優月のチケットにサイン書いとくから、受付の奴に伝えといて?」
「OK。今回オレの知ってる子だから、頼んどく。優月入ったら、入り口のライトを一度光らせてもらおっか」
「ああ」
オレと勇紀の会話に挟まれて、優月がオレを見てる。
「お前来たら、こっちから確認できるようにしてもらうだけ」
「――――……」
良く分からないのか、ただ、うん、と頷いてる。
「なあなあ、そろそろ聞かせて、優月」
「ん?」
甲斐が少し乗り出してくる。
「うん、なに?」
あー、何か。
嫌な予感しか、しない。
「玲央のどこがいーの?」
皆それぞれ、ぴた、と止まる。
颯也はため息をつきながら甲斐を見てるし。
勇紀は、あー…と、優月を見てるし。
オレは、甲斐をじろ、と睨んで。
で、優月はと言うと。
「え」
と言ったきり。かあっと赤くなって固まった。
「あ、と…… どこ、が……」
優月は、パッとオレを見て、さらに耳まで真っ赤に染まった。
「――――え…………全、部……??」
優月のセリフに、三人が、一斉に、ぷ、と笑い出した。
「全部なの? マジで?」
「いーの? 優月、全部とか言っちゃって、玲央が調子に乗るから」
甲斐と勇紀が騒いで、颯也は、クックッと、珍しく笑いを抑えきれないと言った風に笑ってる。
あー……ダメだな。これ。
さっきからずーっと、隣で触りたいの我慢してたんだけど。
……無理。
「え?――――……ン……っ」
オレに肩を抱かれた優月は瞳を見開いたまま、オレの腕の中に引き込まれて。キスされた瞬間、ぎゅ、と目をつむった。
退こうとするけど、逃がさず。
ほんの数秒、深くキスして。ぱ、と唇を離す。
「……っ……れ……」
もはや、オレの名も呼べないらしい。
見開かれた瞳に、ぷ、と笑いながら。
「何で、こんなかわいーかな?」
優月をよしよし、と撫でながら、思わず3人に向けて、そう言った瞬間。
優月がもう火が付いたみたいにさらに真っ赤になって。
三人が信じられないといった顔で、オレを見た。
「マジでやばいな、玲央……」
「ヤバいしか言えない」
「……あーあ、優月真っ赤……」
颯也と甲斐と勇紀が顔を寄せて、ブツブツ言ってる。
「つーか、ずっと我慢してンのに、お前が全部とか言うから……」
ぶに、と赤い頬を摘まんでそう言うと。
オレのせい……??という顔で優月が見つめてくる。
323
お気に入りに追加
5,207
あなたにおすすめの小説
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
転生令息の、のんびりまったりな日々
かもめ みい
BL
3歳の時に前世の記憶を思い出した僕の、まったりした日々のお話。
※ふんわり、緩やか設定な世界観です。男性が女性より多い世界となっております。なので同性愛は普通の世界です。不思議パワーで男性妊娠もあります。R15は保険です。
痛いのや暗いのはなるべく避けています。全体的にR15展開がある事すらお約束できません。男性妊娠のある世界観の為、ボーイズラブ作品とさせて頂いております。こちらはムーンライトノベル様にも投稿しておりますが、一部加筆修正しております。更新速度はまったりです。
※無断転載はおやめください。Repost is prohibited.
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
浮気されてもそばにいたいと頑張ったけど限界でした
雨宮里玖
BL
大学の飲み会から帰宅したら、ルームシェアしている恋人の遠堂の部屋から聞こえる艶かしい声。これは浮気だと思ったが、遠堂に捨てられるまでは一緒にいたいと紀平はその行為に目をつぶる——。
遠堂(21)大学生。紀平と同級生。幼馴染。
紀平(20)大学生。
宮内(21)紀平の大学の同級生。
環 (22)遠堂のバイト先の友人。
【完結】お嬢様の身代わりで冷酷公爵閣下とのお見合いに参加した僕だけど、公爵閣下は僕を離しません
八神紫音
BL
やりたい放題のわがままお嬢様。そんなお嬢様の付き人……いや、下僕をしている僕は、毎日お嬢様に虐げられる日々。
そんなお嬢様のために、旦那様は王族である公爵閣下との縁談を持ってくるが、それは初めから叶わない縁談。それに気付いたプライドの高いお嬢様は、振られるくらいなら、と僕に女装をしてお嬢様の代わりを果たすよう命令を下す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる