110 / 825
◇お互いに。
「夕陽」*玲央
しおりを挟む「……玲央がやじゃなければ、も少し、見ててもいい?」
「ん? 空?」
「うん。もうすぐ沈むんだよね……沈むとこが、好きで」
「――――……いーよ。気が済むまで見てな」
うん、と嬉しそうなので。ふ、と笑い返して。
2人で並んで夕陽を瞳に映す。
「すごい綺麗……」
「……絵に描きたいとか、思うの?」
「うん。思う……」
優月は視線を逸らさず夕陽を見続けていて。
オレは、たまに空を見ながら、その優月を眺める。
まっすぐに空を見上げて、楽しそうな姿も。
猫と戯れている姿も。
ほんと。無邪気で。
――――……純粋な、感じ。
きっと、まっすぐまっすぐ、生きてきたんだろうと。
……優月の事をまだそこまで知らないのに、そう思ってしまう。
まっすぐな瞳で、見つめられると。
ちょっと恥ずかしいと思う位。
なんか、違う世界で生きてきた、気がする。
「――――……」
そっと手を伸ばして、優月の頭に触れる。
髪の毛、さらさらと撫でると。
優月がふ、とオレを振り返って。
嬉しそうに、にっこり笑う。
邪魔だろうかと思って、そっと手を離した。
空を見ると、もう本当に沈む所で。
もう空の大部分は暗くて、下の方に微かに、太陽の光が残ってる。
こんな風に、太陽が沈む所、見続けたのは、生まれて初めて。
いつもの自分なら、見てと言われても、興味がなくて見なかった気がする。
手を伸ばせば、すぐ触れられる。
こっちを見て、嬉しそうに微笑む。
――――…オレとはまるで、接点の無さそうな優月と。
触れ合えば、接点ができる。
完全に光が消えると、優月がオレを見上げた。
「ありがと、玲央。付き合ってくれて」
「…ん」
「――――……暇だった?」
「……いや? 暇じゃない。綺麗だった」
「……うん」
思うまま答えると、優月がまた、ふわっと笑顔になる。
「優月」
ぐい、と腕を引いて、口づける。
優しく、キスして、少しだけ絡めた舌をゆっくりと離して。
至近距離で、優月を見つめると。
「――――……なんかさ……」
「……ん?」
「……夕陽が沈むの一緒に見て……すぐ、こんな優しくキスされるって」
「――――……」
「すっごい、ロマンチックだなーて。思っちゃうんだけど」
玲央の真下で、そんな風に言って、クスクス笑う。
「――――……」
なんか気恥ずかしくて。返事が出来ない。
「あ。……そんなの思うの、オレだけ?」
照れたみたいに、ふっと視線を外して離れようとした優月の頬に触れて。
もう一度、ゆっくり、キスした。
「――――……なんかオレ……」
「……?」
「――――……色んな事、割と何でも知ってると思ってたんだけど」
「うん?」
「見ないで過ごしてきた事……すげえあるのかも」
「……え?」
優月は、オレの言った意味が良く分からなかったみたいで。
きょとん、として、見上げてくる。
「とりあえず、夕陽が沈むとこ、初めてちゃんと見た」
「? ――――……うん。……え? 初めてなの?」
「こんな風に見たのは初めてだな」
「……そう、なんだ」
――――……夕陽見て、楽しそうな優月を、好きだなんて思うのも。
今も、何だか――――……自分でも、よく分からないのだけれど。
「……玲央が知ってて、オレが知らない事は、いっぱいあると思うけど」
優月が、んー、と考え込んでる。
「……オレが知ってて、玲央が知らない事、あるかなあ」
「……あるよ」
「ある?? そうかな……――――……今、浮かばないけど」
優月がクスクス笑い出す。
「……知らない事、教え合っていけたら楽しいね」
まっすぐな瞳でそんな風に言った直後。
「あ、でも多分、玲央が10こ教えてくれる間に、オレ1こかも… いや、20この間に1こ……」
だんだん眉をハの字にしながら。優月がぶつぶつ言ってる。
「……ンなこと、ねえから」
ぷ、と笑ってしまって。
優月の頬にキスした。
「――――……飯食いに行くか? 食べて帰る?」
「うん」
一緒に、立ち上がる。
「優月、何食べたい?」
「んー……。あ。オムライスは? 玲央、好き?」
「いいよ。どこで食べる?」
「あるんだよー、駅のとこに。美味しい、オムライスのお店」
「へえ……」
「知らない?」
「ああ」
優月は、ふ、と嬉しそうに笑って、オレの腕に触れた。
「じゃあ、1こめ、教えてあげるね」
「――――……ああ」
嬉しそうな笑顔に、ぷ、と、笑んでしまう。
……1こめじゃ、ねえけど。
お前と居ると、なんか。
今まで思わなかったことを思うし。
――――……楽しそうに隣を歩いてる優月と、駅に向かいながら。
なんだか気持ちが穏やかすぎて。
……穏やか?――――……。
んー……。
「優月」
「え?」
くい、と腕を引いて、囁く。
「悪いけど早く食べて、早く帰ろうな?」
「え?」
「……早くお前に触りたいから、オレ」
「――――……っ……」
また、赤くなる。
んー。穏やかな時間もいいけど。
こういう顔見てると。
――――……早く、泣かせたいなー。と思ってしまう。
「さ、早く店行こうぜ」
「……うん」
赤いまんまで、優月が頷くのを見て。
よしよし、とまた、撫でた。
309
お気に入りに追加
5,207
あなたにおすすめの小説
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
浮気されてもそばにいたいと頑張ったけど限界でした
雨宮里玖
BL
大学の飲み会から帰宅したら、ルームシェアしている恋人の遠堂の部屋から聞こえる艶かしい声。これは浮気だと思ったが、遠堂に捨てられるまでは一緒にいたいと紀平はその行為に目をつぶる——。
遠堂(21)大学生。紀平と同級生。幼馴染。
紀平(20)大学生。
宮内(21)紀平の大学の同級生。
環 (22)遠堂のバイト先の友人。
こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件
神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。
僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。
だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。
子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。
ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。
指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。
あれから10年近く。
ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。
だけど想いを隠すのは苦しくて――。
こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。
なのにどうして――。
『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』
えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をご覧になるとより一層楽しめるかもしれません)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる