107 / 838
◇お互いに。
「夕方まで待てない」*玲央
しおりを挟む食事を取り終えて、ぼちぼち皆で立ち上がり、3限の教室に向かう。
途中途中で皆と別れながら、5号館の前に通りかかった時。
前方に優月を見つけた。
今まで、これっぽっちも視界に入ってきた事のない奴なのに。
――――…目が勝手に、探しているんだろうか。
なんか、ものすごく、見かける気がする。優月は村澤智也と歩いていた。
優月は、村澤の方を向いて、楽しそうに笑ってる。
ふ、と顔が綻びそうになったのに気付いて、引き締めた。
隣で話しかけてくる友人に応えながら、視線は前方、階段を上っていく優月に向いてしまう。3階まで上って廊下に出ると、優月と村澤も、先の廊下を歩いていく。
次の授業。同じ校舎の同じ階なんだ。と、気付いて。
何だか、少し――――…… 気持ちが弾む気がして、おかしい。
優月が笑顔で頷いた後。
村澤の言った何かの一言で、かあっと赤くなって。
村澤に、肩をポンポンされてあやされてる。
そのまま押されて、優月は教室に入って行き、村澤は、これからオレが向かおうとしている教室に入って行った。
――――……つか。
優月、すぐ赤くなる……。
……可愛いから、他の奴の前であんま、赤くなるなよな。
なんて、ムカつくのは。
ほんと、何なのか。
「……悪い、先行ってて」
一緒に居た皆にそう言って。
優月が入っていった教室に、足を踏み入れる。
――――……居た。
誰かと話しながら、列の端に座ろうとしてる優月の腕に触れた。
「?」
不思議そうに、くる、と振り返った優月が、オレを見て、えっ?と目を丸くした。
「玲央……? え? どうし」
「4限の授業って時間に厳しい?」
「え? えっと……ううん、そんなんでも……」
「――――……この授業終わったら、この階の奥のトイレに来て?」
まわりには聞こえないように、優月にそう伝えた。
「――――……う、ん……わかった」
優月はすごくびっくりした顔のまま。
ただ、頷いてる。
その手を離して、オレは優月の居る教室を出る。前のドアから教授が入れ替わりに入ってきた。廊下に出ると、オレの教室に向かって歩いている教授の後ろ姿も見えたので、足早に向かい、後ろのドアから教室に滑り込んだ。
5限が終わるまで待てば、思う通りに触れるのに。
朝別れて。2限の前に上から優月を見て。
昼の前に、少しだけ、触れて。
――――……今、別の奴に赤くなってる優月を、見て。
夕方まで待てない。 と、思うなんて。
――――……オレ、絶対、おかしいよな。
なんでこんなに、触りたいんだか。
そうも、思うのだけれど。
やっぱりどうしたって、触りたくてしょうがないのは誤魔化しようがない。
――――……早く、終われ。
始まったばかりの授業に対して、そんな風に思って。
片肘をついて、ノートに視線を落とした。
446
お気に入りに追加
5,436
あなたにおすすめの小説
オメガの復讐
riiko
BL
幸せな結婚式、二人のこれからを祝福するかのように参列者からは祝いの声。
しかしこの結婚式にはとてつもない野望が隠されていた。
とっても短いお話ですが、物語お楽しみいただけたら幸いです☆

学園の俺様と、辺境地の僕
そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ?
【全12話になります。よろしくお願いします。】
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
【完結】守護霊さん、それは余計なお世話です。
N2O
BL
番のことが好きすぎる第二王子(熊の獣人/実は割と可愛い)
×
期間限定で心の声が聞こえるようになった黒髪青年(人間/番/実は割と逞しい)
Special thanks
illustration by 白鯨堂こち
※ご都合主義です。
※素人作品です。温かな目で見ていただけると助かります。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。

公爵家の五男坊はあきらめない
三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。
生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。
冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。
負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。
「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」
都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。
知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。
生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。
あきらめたら待つのは死のみ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる