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◇お互いに。

「優月を観察」1*玲央

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 翌日。1限と2限の合間。

 席を取って、廊下から、下を覗き込んだ。


 なぜかと言うと。
 この窓は、優月と出会ったあの場所の斜め上にあり、下を見ると芝生とあのベンチが見えるから。

 ――――……優月、居ないか。
 ……まあ、昼時でもねえし。 居る訳ないか。

 ていうか、ここから見てる奴が居たら、オレ達がキスしてたの、丸見えだったな。……まあ別に良いけど。


 ――――……今日、風、気持ちいいな。

 なんとなく、ぼーーっとその場所を見つめながら、風に当たっていると。昨夜から、ついさっき迄の事が思い浮かぶ。


 昨日も結局最後まではしないで終わらせた。
 散々イかせて、キスして、後ろ慣らして。
 そこまで結構な時間もかけてたし――――……。

 「大好き」とか言った後くらいからは、半分、うとうとし始めて。
 あまりに可愛く思えてしまって、一緒にイって、寝かせてやる事にした。 
 まあ。別に、今更急いでもねえし。

 朝起こしてシャワーを浴びさせて食事して、1限の優月に付き合って学校に来た。1限は部室のソファに寝転んで、ライブの曲を聞きながら過ごした。

 優月とのこんな生活が、何だかおかしい。

 朝が早くて、一緒にしっかり朝飯を取って、朝に学校に来て。しかもオレには1限がないのに。

 ――――……健康的な生活が、笑えてくる。


 優月と会う前まで、誰かとセックスして、夜中まで起きていて、朝遅く起きて、2限に間に合うように学校について。授業を受けて遊びに行って誰かと会って――――……みたいな、そんな生活だった。 食事も、特に朝はまともに取ってなかった。

 

「クロー?」

 そんな声に、ふと下を見ると。

 ――――……優月だ。
 昼だけじゃなくて、こんな隙間の時間にも、ここに来る訳?


「あ、クロいた、おいでー」

 3階だけど、優月の声が結構聞こえる。優月の声がわりと高めだからだろうか。一瞬呼びかけようとしたけれど、何だか少し観察したくなって、口を閉じた。ちょっとした、好奇心。


「おはよークロ」

 よしよし、とクロを撫でながらそう言って、優月はその場にしゃがみこんだ。急いでコンビニに買いに行ってたのか、はあ、と息を整えながら、缶詰を開けて、紙皿みたいな物に移してるのが見える。

「食べていいよ」

 クロの頭を撫でながら、優月が言うと、クロは食べ始めた。

 角度的に、ちょうど優月の顔が、何となく見える。
 ふ、と微笑みながら、クロを見つめてるのが分かる。


「今日お昼来れないからさ。ちょっと早くてごめんね」

 なんて、話しかけてる。

 はは。 なんかほんと――――……無邪気。

 クロは食べ終わると同時に、すり、と優月の脚にすりよった。


「んー、なんでお前はこんなに可愛いかな~…… 美味しかった? 明日はおやつ持ってきてあげるからね」

 そんな風に言いながら、クロを撫で回している。


 ――――……は。なんかあいつって、いつか騙されそう。
 ちょっと心配になる。

 ……つか、今オレと、色々なってる時点で、ちょっと騙されてねえかな?



 ほんとなら、優月とオレなんて、接点も一切無く、少しも絡むはずの無かった関係な気がする。

 あそこでクロを挟んで会って、会話が無ければ。
 学校ですれ違うだけなら、一切触れあわずに、過ごして終わった筈。


 知り合う事もなくて。 
 触れ合う事もなくて。


 可愛いなんて、思う事も、無く。



「――――……」


 何だか。
 ――――……すごく、ざわつく。



 会えて、良かったな、なんて。
 思っているような、気がする。



 
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