79 / 825
◇進展?
「好き」*玲央
しおりを挟む本気になったら終わりと言ってあるから。
好きと言えなかった……?
もう、さっきの優月の頑なな「嫌いじゃない」の理由は、もうそれしかないと、思えてしまって。
――――……マジで。オレ、最悪。
固まってるオレを見つめて、3人は顔を見合わせる。
「……分かりにくいけど、あれは落ち込んでる?」
「とりあえず、固まったな……」
「……絶対、練習無理だろ、あれ……」
ぼそぼそ。勇紀、甲斐、颯也の声。
「……あのさ、玲央。優月さ、一番でかい教室って言ってたから……3号館の1階の教室だと思うんだよね」
勇紀の言葉に、続いて。
「練習、歌無しでやってるから、謝ってきたら?」
「……ここに居たって、練習ちゃんと出来ねえだろ」
甲斐と、颯也の声も続く。
聞き終えると同時に、立ち上がった。
「悪い。行ってくる」
そう言ったら、3人とも、何とも言えない顔をした。
「……んだよ?」
「いや。……いつも、そういうの面倒くさがるのに」
「今日は行くんだなー、と思って」
甲斐と勇紀が面白そうに言って、颯也も、ふ、と笑ってる。
「仲直り出来たら、連れておいでよ。いってらっしゃーい」
勇紀に言われながら、部室を出る。
――――……嫌いじゃない。
言われて、腹が立った。
好きだと、言わない優月に。
……本気になったら終わり、と言ってあるから――――……。
本当に好きだから、好きだと言えなかった、て、事なら――――……。
もし、優月に確認して、オレの事が、好きだと分かったら。
――――……好きだと分かったら、どうするんだ?
セフレが何人も居て。
――――……恋人は、欲しくなくて。
男同士で。
セフレ位なら良いけど、感情込で男と付き合うって――――……。
まだ全然、整理できない。
正直まだ会ったばかりで、知らない事ばかりだし。
でも。
――――……ただ、思うのは。
優月の事が――――……可愛くて、しょうがない、て事で。
教室の出入り口の前で待ってると、授業が終わった学生たちが次々に出てくる。何だか、すごく、ソワソワして落ち着かない。
出てきて――――……オレを見つけたら。
どんな顔をするんだろう。
――――……離れていくかも……?
気付かないふりして――――……素通りするか?
それも仕方ないけど――――……そうだったら、追いかけるか?
普段なら、そんなの絶対、追いかけない。
別にそれまでの関係だと思う。というかそもそも、ここに来てない。
全然考えがまとまらないまま、ずっと優月を探しながら待っていたけれど。
出てくる列が途切れても、出てこない。
――――……見逃した? はずは、ねえんだけど。
オレが買った服、ちょっと目立つ青だし……。
思いながら、中を覗くと、1人、机に突っ伏していて。
洋服からも、形からも、優月――――……。
――――……何だか……ドキドキする。
話しかけた時、あいつは、何て言うだろう。どんな顔、するだろ。
――――……でも、授業が終わっても、一人立ち上がらずに、伏せているのは、きっと、オレのせいで。
――――……きっと、オレの事を考えてくれているのだと。思って。
「……お前、何、してンの……?」
自分で、少し、緊張気味な声だと、思ってしまう。
ば、と顔を上げた優月は、ただただ驚いた顔。
「ドアんとこで待ってたのに出てこねえから、見逃したかと思った……」
「……何で?」
「勇紀が、お前が一番でかい教室に居るって言うから、待ってた」
まっすぐに、見つめてくる瞳。
良かった。まだ、ちゃんと、オレを見つめてくれて。
「――――……さっき、置いてって、ごめんな」
後悔してる事を、まず口した。
優月は、何も言わず、ただ、見上げてくる。
まっすぐな瞳。
さっきは、視線を外して、置き去りにした。
「さっきの、嫌いじゃないってやつさ……本気になったら終わりって、オレが言ったのが、関係ある?」
そう聞いたら。
優月は何も答えなくて。
ふっと一瞬眉を寄せた後。俯いてしまった。
「優月?」
――――…泣いてる?
「――――……優月?」
たまらなくなって、顎に触れて、顔を上げさせる。
一瞬見つめあった瞳は、涙で潤んでて。
見た瞬間、色んな感情が湧いてきて。
何もまとまらないまま。
勝手に、体が、動いて。
「……っ……」
ゆっくり。キス、してた。
触れるだけの。それ以上は、今はできなくて。
「……っ……?」
見上げてくる瞳を見て、強く思うのは。
優月を、泣かせたくない、という想いで。
「……れお……」
「――――……ごめん、泣かせて……」
頬をなぞる。触れてると、余計に、思う。
――――……こんなに可愛いって思ってんのに。
……オレ、何してんだ。
「――――……あー……なんか……」
思わず呟いて、抱き締めてしまう。
「……ごめん――――……何かオレ、まだ、分かんねえ事ばっかで」
「――――……」
「……お前と会ったばっかりだし――――……今思う事しか、言えねーんだけど……」
「――――……」
腕の中にある、優月の存在が。
――――……すごく大事だと、思う。
「……オレ、お前のこと―――……可愛くて、たまんねえ」
「――――……」
「――――……お前と一緒に居たいって、すげえ思うし……お前の事、好きだと思う」
「――――……っ……」
優月が下から、見上げてくる。
お前を、好きだと思うのに――――……セフレとかって……。
じ、と見つめ返す。
「……お前にセフレになりたいとか言われると――――……なんか、ムカつくのも、初めてだし」
「……え?……ムカつく……の?」
「――――……セックスだけしてえの?って、思うし」
「え――――……っ……ちが……うん、だけど……」
「違うのは分かってるけど――――……なんかむかつく」
「――――……」
そんな風に言っていると、困った顔してる優月が、なんか、可愛い。
「オレ、お前と、終わりにする気なんかねえから。……セフレとか言ったのも……もう1回、考えさせて」
まだ、分からない。
今のこの気持ちが、この先どうなってくとか。この関係がどこに落ち着くとか。全然、はっきりは言えない。
でも――――……お前の事は、ずっと好きな気がする。
何か本気でそう思う位――――……気に入ってる。
そんな風に思ってる自分が、少し不思議で。
黙って優月と見つめあってると。
「……玲央、あの……オレも……まだ会ったばっかりで――――……」
「……ん」
優月が、そんな風に、話し出した。
「……多分、オレの方が、全部、色々わかんないんだけど……」
「――――……」
「あの――――…… とりあえず、なんだけど……」
しばらく待つけれど、言葉が続かない。
「とりあえず、なに?」
「――――……」
聞くけれど、続きが出てこない。
「……黙んなくて良いよ。つか、何でも言えよ。多分、オレ、お前の言葉、何も嫌じゃねえと思うから」
…何だか、ほんとに、そう思う。
優月が素直に向けてくる言葉なら、何でも、受けれそうな気がする。
「とりあえず、何? 優月」
もう一度促すと。
心を決めたように、顔を、上げてきた。
こんな必死な顔をして、何て言うつもりなんだろう。
「あの――――……玲央のこと、好きって」
「――――……」
「……言っても良い?」
優月はそう聞いて、少し不安そうな、一生懸命な顔をして、見上げてくる。
好きって言っても良いかって。
何だそれ――――……。
……やばい。
――――……可愛すぎる。
「はー…… お前、ほんと可愛い」
優月に触れて、まっすぐ自分の方を向かせて。
その瞳を見つめる。
……ごめんな、好きって言って良いか、なんて聞かせて。
――――……言って良いに、決まってるし。
ていうか――――……むしろ……。
「ずっと、言ってて良いよ」
自然と、そんな言葉が出ていた。
キスしたくてたまらなくて、唇を重ねさせる。
――――……可愛い。
「――――……ん……ふ……っ」
ふ、と感じた視線に目を開けると、優月の瞳に涙が潤んでて。
「……泣くなよ」
拭いながら言うと。
「……なんか……嬉しくて、だよ……」
とは言うのだけれど。
「……それでも、泣くな」
言いながら、ちゅ、と頬にキスする。と。
「――――……玲央」
「……ん?」
「……玲央のこと、好き」
一生懸命な顔で、そんな風に言われる。
「……ん」
ダメだな。
――――……可愛すぎ。
キスして、抱き締める。
「優月」
「…ん?」
「……オレ色々あって、恋人は要らないって思ってて――――……。本気になられると困るから、好きだとか、可愛いとか、言わないようにしてた訳」
「……うん」
「……でもオレ、お前が、可愛くて。言わないようにしてたのに、つい、言っちゃうんだよな……」
「――――……」
「……好きって思われるのも、面倒で嫌だったんだけど……お前が、嫌いじゃないとか、言うのなんかイラついて。何で好きって言わないんだって、すげえ思って…」
優月が、じっと見上げてくる。
「オレは、お前に、好きって言って欲しい」
優月はしばらくオレを見つめていたけれど。
少し泣きそうにも見える、でも、嬉しそうな笑顔で。
オレの瞳を見つめたまま、頷いた。
「オレ、お前のこと可愛いって思ったら言うし、好きだってのも、お前には言う。だから――――……お前も、言って?」
「……うん」
嬉しそうに笑った優月が愛しくて。
もう、思うまま、抱き締めて。
よしよし、と、頭を撫でた。
395
お気に入りに追加
5,207
あなたにおすすめの小説
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件
神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。
僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。
だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。
子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。
ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。
指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。
あれから10年近く。
ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。
だけど想いを隠すのは苦しくて――。
こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。
なのにどうして――。
『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』
えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をご覧になるとより一層楽しめるかもしれません)
身代わりになって推しの思い出の中で永遠になりたいんです!
冨士原のもち
BL
桜舞う王立学院の入学式、ヤマトはカイユー王子を見てここが前世でやったゲームの世界だと気付く。ヤマトが一番好きなキャラであるカイユー王子は、ゲーム内では非業の死を遂げる。
「そうだ!カイユーを助けて死んだら、忘れられない恩人として永遠になれるんじゃないか?」
前世の死に際のせいで人間不信と恋愛不信を拗らせていたヤマトは、推しの心の中で永遠になるために身代わりになろうと決意した。しかし、カイユー王子はゲームの時の印象と違っていて……
演技チャラ男攻め×美人人間不信受け
※最終的にはハッピーエンドです
※何かしら地雷のある方にはお勧めしません
※ムーンライトノベルズにも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる