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◇気持ち
「立場?」*玲央
しおりを挟む食事を終えた時に、スマホが小さく震えたのでポケットから取り出した。
『玲央、今どこ?』
勇紀からそんなメッセージが入っていた。
「裏のカフェに来てる」
『じゃあ部室には来ない?』
「昼は行かない。4限の後、行く」
『今日、17時からラストまで、場所は第1で、予約取れてるから』
「OK」
そう返して ――――……何気なくスクロールして。
優月の所に、新着メッセージがある事に気付いた。
メッセージが来てるのは、2限が終わった時間。気づかなかった。開いてみると。
『玲央が買ってくれた洋服、友達に似合うっていっぱい褒められたよ。イイ感じって。ありがとね』
そんなメッセージと、ありがとうと揺れてる猫のスタンプ。
『なんのお礼すればいいか、考えといてね』
――――……なんだかな……。
……ほんわかしすぎな、メッセージ。
……あー。なんか……。
イライラしてたのは、急激に、引いた、のだけれど。
違う感情が、急に沸く。
……優月に、触りたい。
そんな風に思っていた時。
目の前で由香が自分のスマホを見て、ちょっと眉を顰めた。
「……どうした?」
「あの……ごめんね、玲央、ノート借りてた子に呼び出されちゃた」
「あぁ」
「3限の前に返してって言うから、あたし、行かないと」
「ああ。オレ、コーヒー飲んでから行くから。先行っていいよ」
伝票を自分の方に引き寄せながらそう言うと。
「ありがと、玲央。ごちそうさま」
立ち上がった由香が、きょろ、と周りを見て、頬にキスしてきた。
「連絡待ってるね?」
「……ああ」
急いで立ち去っていく姿を何となく見送って。
スマホに視線を落とす。
「――――……」
……なんか……。
――――……ほんとによく分かんねえけど。
……オレが今、一緒に居たいのは
――――……優月なんだと思う。
別に、他の奴が嫌になったとかじゃなくて。
ただ……他の奴と居ても、思い出してしまう。
優月の画面を開いて、メッセージを送る。
「優月、3限、必修か? 必修じゃないなら、サボれる?」
数秒して、既読が付く。
『一般教養だから……1回くらいサボっても大丈夫だけど……何で?』
そう返事が入ってくる。
「今お前どこに居る?」
『クロとご飯、食べ終わったとこ』
その返事に、ふ、と笑ってしまう。
「とりあえず、そこに行っていい?」
すぐに既読がつくけれど――――……返事が少しの間来ない。
待っていると。
『うん』
それだけ入ってきた。
立ち上がって、会計を済ませると、優月の居る場所に向かった。
恋人とか……。
男同士で、どうかと思う。
ただでさえ、恋人なんて要らないと、自ら決めて、生きてきたのに、
しかも、当人が、恋人なんか無理で、セフレが良いって、言ってるのに。
何だかもう、考えはまとまらねえし、
全然分からないけど。
会いたくて、足早に歩いてしまうのが、全て、な気がする。
あと少しの所で、優月の頭が、見えた。
余計、進みが、速くなる。
「……優月」
「あ。玲央」
ベンチに座って膝にクロを抱きながら、優月が見上げてくる。
その隣に座って、優月の膝にいるクロの頭を少し撫でた。
「……玲央は、3限大丈夫なの?」
「ああ」
「あの……もしかして、さっき会った時、オレが何も言わなかったから?」
「――――……ん?」
困ったような顔で、優月が見上げてくる。
「玲央、女の子と一緒だったし。邪魔しちゃダメかなと思って。普通知り合いなら話すけど……でもなんか、オレの立場からだと、声かけていいのかなーとか……」
「……何、オレの立場って」
「……あ、変な意味じゃなくて――――……さっきの子がセフレ、なら……何か……セフレ同士に挟まれて玲央が話すのも……変かなとか」
んーーー、と、どんどん首を傾げていく。
「それで、とりあえず声かけなかったんだけど、ここ来てから、話しかけた方が良かったのか、さっきので良かったのか、すっごい考えてて」
「――――……」
優月の眉毛が、ハの字になってる。
「考えてたから、会えて良かった。……玲央は、どっちが良いの??」
「――――…………はー……」
膝に肘をついて、頭を下げて。深く、ため息、ついてしまう。
セフレを連れてる時に別のセフレに会って、密かな火花を散らされた事はあるけど。
――――…こんな風に聞かれたのは初めて。
……つか、優月に、対抗心とかは、無いのか。
――――……無さそうだな。
「玲央……?」
「……オレは、お前が何も言わないで通り過ぎてって、なんかムカついた」
「え?」
そんな答えが返ってくるとは思ってなかったらしい優月が、目をぱちくりさせて、オレを見た。
「え、だって――――……え、ムカつくって……何で?」
言いたい事は物凄く分かる。
……オレが女を連れて歩いてたんだし。
邪魔しなかった優月に、ムカつくとか、普通、ねえよな。
話しかけた方が良かったかどうか聞きたかったか位で、まさか、オレの方がむかつくなんて、そんな事を言われるとは思わない、よな。
でも。
「……無視すんなよ」
片手で、ぶに、と優月の頬を寄せ、唇を突き出させる。
「……そんな事、言ったって……」
困った顔で、少し退いてる優月に。
また少し心が穏やかじゃなくて。
ふざけた触れ方はやめて、普通に顎押さえて引き寄せて。
唇を重ねさせた。
「……すげえ気分悪いから、無視すンな」
「――――……」
じ、と見つめ返してきていた優月は。
少しして、目をパチパチ瞬かせて。
「……でもオレ、さっきもさ、目合わせたし、無視はしてないよね??」
「そうだけど」
優月は少し黙って、それから、ふ、と、笑って、頷いた。
「じゃあ、声、一応かけるね」
一応って何だ。
またそんな言葉にも、引っかかる。
けれど、ふふ、と笑ってる優月が。
…なんか。
なんだか。
よく分からないけど、なんだか。
……優月を見てると、あったかい。
それから、あったかいのとは別に。
……すげえ、触りたくなる。
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