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◇気持ち
「らしくない」*玲央
しおりを挟む優月と朝食を食べ終わって、すぐマンションを出てきた。
5分の道のり。
優月は楽しそうに、絵の習い事の話をしてて。それを聞いてる間に、あっという間に、学校に着いていた。
ギリギリまで寝かせていたせいもあって、あと5分で講義が始まる。
「あ、もうこんな時間だ。オレ一番遠いとこだから急がないと。玲央、じゃあね?」
オレが頷くと、優月は急いで走り去っていった。
何となく、その後ろ姿を見送ってから、2限の教室に向かう。
広い教室に入って、誰の所にもよらず、窓際の端に座る。
肘をついて、窓から外を見てると、誰かが近寄ってくる気配。
「おはよ、玲央。隣座っていい?」
「由香……ああ」
通路から声をかけてくる由香に、頷いた。
一瞬躊躇ったけれど……別に、断るほどでもない。
「……眠そうだね?」
「……ああ……寝不足かも」
長い髪。ぱっと目立つ、派手な顔。
「そうなんだ……」
「……ん?」
「玲央今夜空いてるかなーて思ったんだけど……元気じゃないなら諦めようかな?」
「――――……別に元気じゃないって訳じゃねーけど」
言うと、ぱっと嬉しそうに由香が笑う。
「じゃあ行ってもいい?」
「んー…今日バンドの練習があるから。週末のライブで新曲やるし、練習何時までか分かんねえ」
「あ、そっか。ライブ、行くよ」
その時、少し遅れて教授が現れた。
私語にうるさい教授なので、由香も黙る。
今は都合が良かった。
――――……練習が何時までか分かんなくても……。
別にその後、終わったら連絡すりゃいいだけ、なんだけど。
なんか気分じゃねえっつーか……。
小さくため息をつきながら、ノートを取る。文字をなぞってるだけ。何を書いてるかすら、いまいち良く分からないレベル。
講義も耳に入ってこない。
――――……つか……。
……昨日、優月と、セフレの事を話した時。
自分でも分からないままに「恋人」という単語を出して。
即、無理と言われて。
男同士でさすがに恋人は、無理。遊び程度のセフレでちょうどいいか、と、自分でもすぐに思ったのに。
――――……苛つきが半端なくて。
そこから優月にした事は、正直、ひどかったと思う。
最大限気持ちいいと思う事をし続けて、限界で止めて、イかせず焦らして、また――――……あんなやり方で、あんなに泣かせたこと、今まで無かった。
ふっと意識を手放した優月の顔を見ていたら、急に罪悪感が襲ってきて。
色々考えていたら、全然眠れず、朝になった。
あんまりなやり方を、怒っても良いと思っていたけれど。
朝目が合った優月の瞳に、嫌悪はなくて。怒ってもいなくて。
何だか心底ほっとした。
ごめん、と、柄にもなく謝ったら、何でだか、真っ赤になって。
優月に嫌われてなくて、良かったと、思ってしまった。
昨日も、優月を駅で待っている時間、最初は何となく色んな店をぶらついていたら、優月に似合いそうな服を見つけて、つい、買ってしまった。
勝手に買ったんだしそんなの気にしなくていいのに、服代払ういくら?としつこいので、金はいらないから今度、別の形で何か返してもらう、と言ったら、何で返せるか、真剣に考えてるし。
なんだか可愛くて笑ってしまうと、ん?と怪訝な顔。
つーか。
1時間もわざわざ待って、そいつの服買ってとか。
優月はオレの事を知らないから、オレが元々そういう奴だと思ってるんだろうけど……オレ、待たされるとかすげえ嫌いだし。
用もねえのに、朝イチから一緒に学校なんか来ねえし。
ていうかそもそもよっぽどの事が無い限り、夜一緒に過ごしたりしないし、寝顔見ていたりもしない。
誰かの事をこんな風に考えるとか――――……。
正直、あんまり、しねえし……。
一緒に過ごす時は、そこそこ普通に優しくもするし、何か買ったりおごったりとかはするけど――――……一緒に過ごしてない時、セフレの誰かの事を思うなんて、殆どした事が無い。むしろ、しないようにしてきたし。
優月と会ってから、相当、オレらしくないのは、自分でも、分かってる。
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