【恋なんかじゃない】~恋をしらなかった超モテの攻めくんが、受けくんを溺愛して可愛がるお話。

悠里

文字の大きさ
上 下
46 / 838
◇2人の関係

「野矢蒼くん」*優月

しおりを挟む

 4限の後、家に寄って画材を取って、電車で絵の教室にやって来た。

 ――――……何度も何度も、絵を描く手が、止まる。
 ぼーーーー、としていたら。


「優月、調子悪いのか?」

 急に後ろから声を掛けられて、驚いて振り返る。

そうくん、来れたんだ」
「ん。仕事終わったから」
「そっか。お疲れ様」

 オレの絵の先生は、小学生2年生の時からずっと、野矢 久のや ひさし先生。もう今は、70歳越えのおじいちゃん。元々資産家で、有名な芸術家。広い自宅の敷地内の、離れの家を絵の教室に開放してくれている。

 近所の子供達も来るし、結構な遠くから習いに来てる大人も居る。

 オレの実家からは、駅3つ離れていて、小さい頃は母と電車で。途中からは一人で自転車で通った。
 
 野矢蒼のや そうくんは、久先生の一人息子で、30才。メインの仕事はカメラマン。絵描きでもあり、個展を開く時は、どちらも一緒に発表してる。

 オレが7歳で、高校生だった蒼くんがお絵描き教室を手伝ってる時に出会った。呼び方はその時から今も変わらず、「蒼くん」のまま。

 好きな事を自由にしてるからなのか、すごく若く見える。
 20代前半とか言われても通じちゃうような気もする。
 でも、スーツを着てまじめな顔してると、見るからにすごく仕事のできそうな、大人の良い男、にも見える。誰もがイケメンだと認識するんだろうなとは、思う。思うのだけれど……。
  
「今日は何のお仕事だったの?」
「今日は写真集の撮影。モデルさん、超美人だった」
「へえそうなんだ」

 答えてると、蒼くんは、ふ、と笑って、オレを見下ろした。

 良い男、なんだけど。

 ……中身は、いたずらっ子みたいな……。
 オレの前に居る蒼くんは……正直、会った高校生の頃と、あんまり変わらない気がする。小学生のオレをからかって、笑って、ちょっと意地悪して、でもちょっと優しい。あの頃とあまり変わってない、気がする……。

「で、さっき、何でぼーっとしてたんだよ?」
「――――んー……オレ、今ね」
「うん」
「人生で最大の、考え事があるんだよね……色々悩んでるんだよ」

 言うと、一瞬黙って、それから、ぷっと蒼くんが笑い出した。

「何それ。おもしれーな。内容、言ってみな?」
「……おもしれーってなんだよー」
「あー、嘘嘘。……って面白れぇけど。 聞いてやるよ?」

 クスクス笑ってる蒼くんを、じ、と睨む。その視線をものともせずスルーして、外から戻ってきた先生に「あ、父さん、あと優月だけ?」と聞いた。そうだよ、と先生が頷くと。

「優月は任せて、休んでいいよ」
 そう言って笑う。先生がオレに視線を向けて。

「今日はずっとぼうっとしてたけど。大丈夫?」
「大丈夫。オレが今から、全部聞くから」

 オレのかわりに、蒼くんが答えると、先生は、ふ、と笑って。

「じゃあまた来週ね、優月」
「ありがとうございました」

 オレが笑いながらそう言うと、ぽんぽん、とオレの肩を叩いて、先生は部屋を出て行った。

「で?」
 蒼くんは椅子をオレの隣に置いて、まっすぐ、見つめてきた。

「……オレ、蒼くんに全部話すとか、言ってないじゃん」
「は? ……話さず帰れると思ってんのか?」
「……っ」
「無駄な抵抗してないで話しな。つかお前、オレに悩んでるとか言った時点で、内容話さないなんて選択肢無いから」

 ……確かに。蒼くんに言った時点で、そうなるって、分かるべきだった。
 ……オレってほんと、迂闊……。

 はー、とため息をつきながら、目の前の良い男を見つめる。

 あ。そうだ。
 ……蒼くんも、昔から超モテてたっけ。

 モテる人の意見、聞きたいかも……。

 
「蒼くん」
「ん?」

「オレ、超真剣に聞くからね?」
「ああ」

「からかわないでよ?」
「……ああ」

 変な間があったけれど、じっと、見つめて、思い切って聞いてみた。


「……蒼くん、セフレって、居る? 居た??」
「――――…………」


 質問後。数秒…いや、十数秒後。
 ぶは、と笑い出して。

 蒼くんはかなり長いこと、肩を揺すって、笑い続けた。
 

「……も、蒼くんとは話さない……」

「ごめんごめん――――……ってか、だって笑うだろ」
「なんでだよう」

「だってお前、未経験からの急にセフレって……」
「……っ」

「何? 恋人は嫌だけど、セフレなら良いって言われたの?」

 再びヒーヒー笑い出しながら、そう聞いてくる。

 ……この姿を、蒼くんを、イケメン写真家だの芸術家だの言ってもてはやしてる人達に、見せてやりたい……。くそー。 この人のこういうとこ、ほんとに高校生から変わらないぞー……。

 
 

 
しおりを挟む
感想 790

あなたにおすすめの小説

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

偽物の僕は本物にはなれない。

15
BL
「僕は君を好きだけど、君は僕じゃない人が好きなんだね」 ネガティブ主人公。最後は分岐ルート有りのハピエン。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

【Stay with me】 -義理の弟と恋愛なんて、無理なのに-

悠里
BL
高3の時、義理の弟に告白された。 拒否して、1人暮らしで逃げたのに。2年後、弟が現れて言ったのは「あれは勘違いだった。兄弟としてやり直したい」というセリフ。 逃げたのは、嫌いだったからじゃない。ただどうしても受け入れられなかっただけ。  兄弟に戻るために一緒に暮らし始めたのに。どんどん、想いが溢れていく。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

狂わせたのは君なのに

白兪
BL
ガベラは10歳の時に前世の記憶を思い出した。ここはゲームの世界で自分は悪役令息だということを。ゲームではガベラは主人公ランを悪漢を雇って襲わせ、そして断罪される。しかし、ガベラはそんなこと望んでいないし、罰せられるのも嫌である。なんとかしてこの運命を変えたい。その行動が彼を狂わすことになるとは知らずに。 完結保証 番外編あり

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

処理中です...