【恋なんかじゃない】~恋をしらなかった超モテの攻めくんが、受けくんを溺愛して可愛がるお話。

悠里

文字の大きさ
上 下
24 / 838
◇初めての夜

「気になる」*玲央

しおりを挟む


 2人でバスルームを出る。後ろをついてきた優月は、またリビングに入ると、立ち止まった。

「飲み物もってくるけど。どした?」
「なんか、広すぎて……、どこに座ってたらいい?」
「とりあえずソファに座ったら」

 ふ、と笑いながらそう言うと、ゆっくりソファに近付いて、座ってる。


「……なんか、下、履いてないの、変」

 そんな事を言って、少しもぞもぞしながら座り直してる。


 ぷ。……可愛い。


「ん、水」

 ペットボトルの水を入れたコップに氷を浮かべて、優月に渡す。


「ありがと」

 ふわ、と笑う優月。

 なんだろうこの。……ほんわかした雰囲気。


 特別可愛いとか。特別綺麗とか、そんなんでは、ないと思うんだけど。
 至って普通で、全然目立たない感じ。

 でも――――……まっさらで、綺麗。

 もとは悪くない。
 瞳や唇も可愛いし。
 細めの体は、均整がとれてるというか。腰、細くて、抱き締めてしまいたいし。

 服とか髪形とか、色々いじれば、結構良くなるかも。

 バスローブから見える、首筋と鎖骨が、……結構、エロイ気もするし。
 そのうえに、無邪気な顔が乗っかってるのがなんだか……可愛いし。


 ――――……つか、オレ、今日こいつに何回、可愛いって思ってるんだ。


「……優月、お腹空いた?」
「……あー……言われてみれば……空いたかも……」

「言われてみればって?」

 ……変な回答。

「玲央といたら……なんかそっちに神経がいってなかったっていうか……」
「――――……」

 何気ない言葉で、何となく人の言葉奪ってる事には気づかず、こくこくと水を飲んでいる。

 ぷ、と笑ってしまう。

「ん?」

 きょとん、と見られて、何でもない、と、首を振りながら。


「……下に入ってるレストランに頼めばすぐ来るから頼もうか?」
 
 そう言ったら、んー、と首を傾げて。

「なんか食材あるなら作るよ……?」
「……食材、ここ、一切ない」

 なぜならここで料理なんか一切しないから。
 ここ、連れ込んでやるだけか、あとはバンドの奴らと夜を通して作業する時の部屋、みたいなとこだし。

「和食、中華、イタリアン、オレはなんでもいいけど」
「じゃ和食がいい」
「適当に頼んでいい?」
「うん」

 メニューを見ながら、スマホで注文を頼む。

「20分でくる」
 言いながら、優月の隣に腰かける。
  
「お前料理すんの?」
「うん。……小4の時に双子の弟と妹が生まれてさ。母さんが大変そうだったから、料理はそこら辺からやり始めた」
「へえ……」

 双子の弟と妹。
 面倒見、よさそ……。

「玲央は全然料理しない?」
「いや。するよ。――――……習ってたし」
「え、そうなの?」

「うち、一通りなんでもやらされるから。習い事多すぎて、小さい頃はすげえ過密なスケジュールだった」

「……なにそれ、例えば?」

「バイオリンとかピアノだろ。料理と……空手、合気道、剣道とか。そろばん、水泳と英語。と何だっけな。ダンスとか乗馬もやったし、茶道もやらされたし」
「うわー……」

「ギターはやりたくて習ったけど。まあもう一通り。どうしても嫌でやめたもの含めたらもっとあるな。変な右脳教室みたいなのも行ったし……」
「すごいね。そんなに習えるものなの?時間的に無理そう……」

「まあ全部がかぶってやってた訳じゃないから。家に教えにきたりもあったから通わないのも多かったけど」

「んー、玲央、戦う感じの、多いね?」
「ああ、護身用な……。親が金持ちだとそこそこ危険も想定されるから」

「そうなんだ……今まで、あった?」
「ん?」
「……危険なこと、あった?」
「送迎兼ボディーガードみたいのも居たし、無かった」

「そっか。良かった」
 ふ、と笑って、優月が見つめてくる。

「そんないっぱい習って、できるようになるものなの?」
「良い先生選んでるらしいから、なんとなくできるようにはなるけど…… つか、囲碁将棋も、完全にじーちゃんの趣味で習わされた。オレとやりたいからってさ」

 言うと、優月はクスクス笑いだした。

「その話はなんか可愛いね」
「……は?」

 ……可愛いっつわれた。
 なんだか、納得いかない。

「オレもちっちゃい頃、おじいちゃんと将棋はやったなー。囲碁はよく分かんないまま終わっちゃったけど」


 ……でも、なんだか、優月が楽しそうにしてんのは、
 ちょっと、イイ、気がする。


「――――……」


 連れ込んだ誰かと、こんな風に話す事がほとんどない。
 色々話して聞いて、情がうつるのも、執着されるのも、嫌だから。

 家に着いて、シャワー、ベット、コトが済んだら帰ってく、てのが常。泊まらせる事も殆ど無い。他人が居ると、眠りが浅くなって疲れる。

 我ながら最低だなと思わなくもないけれど、もともとそれで納得した上で関係を持つから、特に文句を言われる事もない。

 夜中まで遊んでセフレの家になだれ込み、気付いたら朝だった、という事はあるけれど、それも、余程疲れてる時くらい。

 そういえばこないだの金曜、優月と会ったのは、セフレ宅から車で送られた時だった。疲れていて、ベンチで休憩した所で猫と優月に会ったっけ……。

 とにかく、普段はあまり話はしないのだけれど。

 ……でもなんだか。
 やっぱり、聞きたい。


「――――……優月は? 何か習ってたか?」

 こいつは、どうやって生きてきたんだろう。
 こんな素直な感じで生きてくるの、どんなふうに生きれくれば。

 やっぱり、オレは、優月に興味がある。らしい。


「んー……ピアノは中2まで習ってた。習字と絵とそろばんとプールかな。いっぺんには習ってないよ。ピアノと習字とか。ピアノとそろばん、とかって感じ」
「オレもいっぺんには習ってねえよ。何個かかけもちして、級とか段とかとったらやめるとか。ある程度弾けるようになったら終わりとか」
「それでもすっごく大変そうだけど」
「まあ。すげえ忙しかったから、何回かキレたけどな……」
「キレたんだね」
「脱走した」

 あは、と優月が可笑しそうに笑う。

「じゃあ、優月、ピアノ弾けんの?」
「うん。まあ、普通には」 

「連弾したことある?」
「え、玲央、できる?」

「できる。つーか、最後の方、それの練習ばっかしてた」
「オレも。小6でやめようかなーて時に先生が連弾、楽しいよって教えてくれて。それで中2まで続けたの」

 嬉しそうに笑う優月に、ちょっとワクワクする。

「譜面、オレんちのどっかにあるから探しとく」
「うん」

 と。そこで、はっと気づく。
 探してどーすんの、オレ。
 ……こいつと、ピアノ、弾きたいのか?

 ………ほんと、何、楽しく話してんだろうか。


「なんかさぁ……?」
「……ん?」

「玲央のその見た目で、ピアノとかバイオリン弾くのって、反則……」
「反則?」

「カッコ良すぎて、ずるい気がする」
「………」

 自分で言って、なにやら納得して、うんうん頷いてる。
 そんなまっすぐな瞳で、何言ってんだか。

「茶道はちょっと意外で笑っちゃうけど――――……ダンスとかはすごく似合いそ……?」

 首から顎にかかった手に、優月が上向く。
 話の途中で開いてる唇にキスして、舌を絡め取った。


「……っ……ん……っ?」

 ひく、と喉が引きつって。
 ぎゅ、と目が伏せられた。


「ん、ふ……っ……」


 幼い位の笑顔が――――……また急に、トロン、とした表情に、変わる。

 ……なんか、これ。もとからエロイ奴のそれより。






 ……たまんねー、かも。




しおりを挟む
感想 791

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。 ※(3/14)ストック更新終わりました!幕間を挟みます。また本筋練り終わりましたら再開します。待っててくださいね♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

花婿候補は冴えないαでした

いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。 本番なしなのもたまにはと思って書いてみました! ※pixivに同様の作品を掲載しています

その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。 というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

それ以上近づかないでください。

ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」 地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。 まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。 転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。 ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。 「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」 かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。 「お願いだから、僕にもう近づかないで」

処理中です...