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◇約束の日
「会えた」*優月
しおりを挟む辿り着いた時に居たのは、ベンチの上に、クロだけ。
玲央の姿は、無かった。
帰っちゃったのか。
――――……もともと、来てないのか。
はぁ、と息をつく。
――――……時計を見ると、もう、5限が終わってから1時間。
どっちにしても。
もう、会えない。
少しでも、一緒に居られる可能性――――……もう無いんだなと思うと、胸が締め付けられる。
……なんで、オレ――――……来なかったんだろ。
「……クロ、何でベンチにいるの?」
あんまりクロが自分でベンチに座ってる事はないので、ちょっと珍しい姿。
「……クロ」
ベンチのすぐ側に立って、クロを撫でていたけれど。
はー、と息をついて、芝生にぺたん、と座り込んだ。
こんなに急いで来て、バカみたいだ。
来ないって決めた時点で、もう、諦めるべきなのに。
――――……智也と美咲に言われたからじゃなくて。
自分で、行かない方が良いって一旦、決めたのに。
……もう間に合いそうにない時間になってから、後悔して。
「おいで、クロ」
言うと、クロがベンチの上から降りて、オレの隣に丸まった。
ふ。可愛い。
少しだけ緩んだ気持ちのまま、よしよし、と撫でる。
しばらく無言で、撫で続けてから。
「クロ、いつからここに居たの?」
クロが撫でられながら、オレを見上げる。
「……玲央、ここに居た?……って、分かんないよね」
クロが分かる訳ないし。……分かってくれても、答えてくれる訳もないし。……何言ってんだ、オレ。
はあ、とため息。
玲央、待っててくれたのかなあ……。
――――……こないだの感じだと……来てはくれたかもしれない。
来いよ、て言ってくれたから。
でもきっと……オレの事なんか、そんな待ってくれるわけないから……。
少し遅れただけだって、きっと会えなかっただろうし。
……ていうか、そこらへんだって、分かってたのに。
こんな遅れてから急いできたって、居る訳ないのに。
俯いてた瞳から、ぽつ、と涙が零れ落ちた。
うわ。
……なに泣いてんだ、オレ。
……自分で来ないって決めたのに。
――――……泣く権利なんか、無いのに。
「……バカだなー……オレ……」
クロのふわふわに癒しを求めて、なでなで触れていると。
急に、人の気配。
「え……」
驚いて、人の気配を振り返った瞬間。
そこに居たのは。
玲央、で。
え、なんで?
そう思ったきり、何も頭が働かない。
涙で視界が、少し滲む。
「優月……」
願望の幻かなと思い始めていたところで、そう呼ばれて。
玲央は、オレの前に、膝をついて座った。
まっすぐに、見つめられる。
「れ、お……?」
「猫に会いに来た、とかじゃないよな?」
「……え?」
猫に会いに来た?
何て答えたらいいのか分からなくて、見上げていると。
「今ここに居るって事は……オレに会いに来たって事で良いか?」
「……っ」
…うん。
――――…玲央に、会いに来た。
そう思ったら、玲央を見つめていた瞳から、涙が零れ落ちた。
分かってはいたけど、それに構っていられないくらい、もう、頭の中が、いっぱいいっぱいで。聞きたいことだけが、口から零れた。
「なんで……ここにいるの、玲央……」
「……お前、待ってたから」
1時間も経ってるのに。 ……待っててくれたんだ。
あれ、でも今、居なかったのは……。
1回帰ったけど、また来てくれた、とか……?
「……何で今……居なかったの?」
「――――……これ」
玲央は、ちょっと微妙な顔で。
手に持ってたものを差し出してきた。
クロの、おやつ?
「……? クロの??」
受け取って、何でこれを玲央が持ってるのか分からず、首を傾げる。
「……お前、もう来ないと思って、そん時こいつが来たから……何か食べさせて帰ろうと思って、コンビニ行ってた」
クロのおやつを?
――――…玲央が、わざわざ、買いに行って、きたの?
「……なにそれ」
何だか泣き笑いみたいな感じで、笑ってしまったら。
すぐに、玲央の指が、オレの頬に触れて。
涙を、ぐい、と拭ってくれた。
「……キスさせて?」
そう言われて、玲央の瞳を見つめ返す。
今、オレに、キスしたいって、思ってくれてるんだ。
そう思ったら。 もう、嬉しいって気持ちしか、なくて。
迷ってたこととか。
悩んでたこととか、全部消えて。
ただ、玲央と、キスしたい、としか、思えなくて。
「……うん」
頷いて、玲央を見つめた。
「――――……優月」
良い声が、優しく、名を呼んでくれて。
首の後ろにまわった手に、引き寄せられて。
キスされた。
「――――……」
触れるだけのキスが何回か続いて。
それから。一旦唇が離れて。すごく近くから、じっと見つめられた。
少し見つめあった後。
また重なってきた唇は、さっきよりも、深く重なって。
舌が、中に入ってきた。
「……んっ」
……舌、熱い。
玲央の、手が触れてる部分も、熱い。
つられて体温が、上がってく。
はぁ、と息をついてると、舌を絡めてた玲央が、ふ、と笑って。
「……鼻で息しろよ」
「……っふ……」
言うと同時に、また舌が入ってきて。
鼻で少し息を吸ってみる。
あ。少し、楽かも……。
思った瞬間。待っててくれたみたいに、もっと深く、舌が滑り込んできた。上顎を舐められて、ぞく、と震える。退こうとした頭を、玲央の手が押さえつける。
「……んンっ……ん、う……っ」
鼻で息とか、もう訳が分からなくなって。
玲央の、服を握り締める。
「……っ……」
心臓が、ドクドク言ってて、血が、熱すぎて、のぼせそう。
「ンッ……」
否応なく絡め取られた舌を、玲央の口内に引かれて、吸われて。
その感覚に、体が、しびれる。
ただ、キスしてるだけなのに、熱くて熱くて。
息が上がって、汗が滲んでくる。
「ん……っン――――……」
あまりに力が抜けすぎて、ふっと後ろに倒れそうになって、玲央に支えられた。
「っ と――――……」
支えながらオレをまっすぐ見下ろして、玲央は一瞬黙って。それから、ふ、と笑った。
「――――……すげえ、気持ち良いって顔」
頬にすり、と触れた玲央が、こめかみあたりにキスしてくる。
ぞく、と体が震えて、玲央の服をまた掴んだ。
「……優月――――……このまま、部屋、来る?」
「――――……」
「来たら……もっと、色々しちまうけど」
「――――……」
玲央をじっと見上げて。
もう、素直に思ったのは。
「……行く」
その答えに、玲央は、ふ、と笑って。
オレの手から、クロのおやつを取って袋を開けると、戻してくれた。
「食べさせたら、行こうぜ」
「――――……ん」
しゃがんで、クロに、おやつをあげる。
あげてる間も。なんだか、体が、ぽわぽわと熱くて、奥がしびれる。
あ、なんか――――……変、オレ。
膝を抱えて、きゅ、と体を丸くしてみる。
キスって、こんな風に、なるんだ……。
玲央のキスは、もう、なんか、体をどうにもできなくなって。
自分の体なのに、自分の体じゃないみたい。
「――――……」
もう少しでクロが食べ終わるという所で、横に立ってた玲央の手が、そっと伸びてきて触れた。え?と振り仰いだら、髪を撫でられて、そのまま首筋に手が滑った。
「っあ……」
ぞく、と震えて。
その瞬間。
「――――……お前ほんと、良い反応……」
言った玲央に、右手首を掴まれる。
「――――……行ける?」
「……うん。クロ、またね」
左手で、クロを撫でて、立ち上がる。
玲央は、オレの手を繋いだまま。歩き始めた。
「――――……玲央、手……」
「ん。……嫌?」
ふ、と笑って見下ろされて、ふと考える。
繋ぐのは、嫌じゃない。
……人もあんまり歩いてないし。
――――……見られても……別にいいや。
そう思ってしまった。
「……や、じゃない」
そう言ったら。
余計にきゅ、と握られて。
そのまま、すごく、くっついて。
ドキドキしながら、歩いた。
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