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◇約束の日

「月曜の朝」*優月

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 月曜の朝になってしまった。

 今日の5限が終わったら、約束の時間になってしまうのに。
 どうしたらいいのか、最終的に決められてない。


 金曜、智也と美咲に話して、物凄い止められて。
 土日は引きこもって、めちゃくちゃ、考えた。

 考えたというか――――……。

 玲央の事が、勝手にずっと頭にあって。
 ――――……嫌でも、ずっと、考えさせられたという方が正しい。


 目の前に、玲央を描いたスケッチが2枚。
 ずっと考えてたら、ついつい、玲央の顔を描き始めてしまった。

 オレ、似顔絵、超うまいかも……。そっくり。
 自画自賛しつつ、自分で描いた玲央を眺めながら時を過ごしてしまった。

 智也と美咲には、「絶対行っちゃだめ」と何度も念を押された。
 今日の昼は、学食に来てと、言われている。

 ……はー。絶対行くなと念押しされるんだろうな。


 ……分かってる。2人に言われなくたって。
 オレだって、セフレなんて嫌だし。今迄考えた事すら無かった。

 大好きな人になった人と。
 愛して、愛されて、キスとかエッチとかもして、
 出来たらずっと、同じ人と一緒に生きて、添い遂げたい。
 何となくオレは、漠然とだけど、そう思ってる。それが、理想。

 セフレなんて、それの真逆にある関係だって事も、分かってる。

 しかも好きになったら終わりとか。
 ……オレ、きっと、玲央とキスとかそういう事なんかしちゃったら、多分、どんどん好きになっちゃうと思う。

 キス、めちゃくちゃ、優しくて、気持ち良かった。

 乱暴な身勝手なキスだったら、こんな、土日考える事もなかったし。そもそもキスされた時点で殴ったと思うし。

 あんなキスされて……あの延長で、「寝る」なんて行為が存在するなら、
 心と体を別にして、体だけとか割り切った関係なんて、絶対無理。

 抱き合ってたら、好きになっちゃう気がする。
 金曜の、キスだけだって――――……優しくてやばかったのに。

 好きになって、でも好きって言っちゃいけないまま、関係を続けるしかないなんて切なすぎる。
 好きって言ったら終わり、なんて、絶対嫌だ。

 だから、絶対に行っちゃだめだし。分かってるし。

 もう関わらないで過ごした方が、いい。
 関わらなければ、玲央に会う前の、平穏な日々が続くはず。

 それで、きっといつか、好きな女の子とか、できて……
 きっと、平凡だけど幸せな日々が来るはず。

 理性的な自分は、理屈で、絶対そう思ってる。


 問題は。
 目の前の玲央の絵をじー、と見つめてる、自分。


 感情だけなら。理屈なしの感覚だけなら。

 ――――……玲央と話したい。
 玲央の近くに、居たい。このままなんて、嫌だ。
 この前みたいに、見つめてほしい。触れてほしい。

 ……キスしたい。
 玲央がしたいなら、そうなっても、いい。

 初めてを、玲央に捧げるのもあり……かもしれない。
 ――――……というか、玲央以外だと嫌かも。

 ……土日でそんな風に思うようになってて。
 ――――……こんなの美咲と智也には絶対話せない。


 1限に間に合うには、あと20分で家を出きなきゃいけない。
 ――――…ああ、もう、どうしよう。


 理屈と感覚で、真逆の気持ちに、揺れすぎて、
 全然、気持ちが決まらない。



『来いよな。すっげえ優しくしてやるから』

 最後にそう言って、頬に、キスしてくれた玲央。

 オレが目の前にしてた玲央は、美咲の話とは少し違う気がした。

 好きと言ったらすぐに捨てるような、くそ野郎、て、美咲は言ってたけど。
 ――――……そんな風には、見えなかった。

 ……優しかった、けどな。 ずっと。

 オレの前に居た玲央だけを、オレが見ていられるなら。
 それはそれで、幸せなんじゃないかな……。

 キスは、する前に、聞いてくれてた気がする。
 ――――……いい、と言っても、様子見ながら、してくれてた気がする。

 そういう事に慣れてて、手が早いとかは否定しようがないとは思うけど。
 
 「最低」な「くそ野郎」とかじゃなかった気がするんだけどな。
 ……多分これを言っても、美咲は、否定すると思うけど。

 もう、感覚だから、どうしようもない。

 玲央に、「忘れて」と離れられそうになった時。
 切なくて、辛かった。

 どんな意味か分からないけど、一緒に居たいと思った。

 キスは、嫌じゃなかった。
 たぶん、その後の事も――――……玲央がするなら嫌じゃない気がする。

 自分が嫌じゃないのなら、何がいけないんだろ。

 玲央がたとえ、誰かにすごく冷たかったとしても。
 もしかしてすごく、誰かにとって嫌な奴だったとしても。

 ――――……オレが、オレの前に居る、玲央と居たくて、

 オレの前に居る玲央を好きで、
 オレの前に居る玲央とキスしたいなら……。

 ……それは、いけない事なのかな。

 もし本当に、オレにとっても冷たくて嫌な奴だって事が分かったなら、その時離れればいいだけなんじゃないのかな。


 大学2年生。
 良くも悪くも。今、すごく、自由。
 人生で一番自由な時期なんじゃないだろうかと、思う。

 大学受験も終わって、大学にも慣れて、ゼミもまだ本格的に始まってないから、課題もそこまで厳しくない。でもって、就職活動もまだ全然なくて。

 ――――……だめかなぁ、この、すごく自由な今。

 生まれて初めてな位、どうしてかすごく惹かれる人と一緒に居てみるの……。
 ――――……だめ、なのかなあ。


 別にそれで、傷ついても。
 ――――……少しの間だけでも、玲央と居れるなら、良いとか。


 オレ、今思っちゃってるんだけど。




 でも、これを美咲と智也に納得してもらえる気がしない。

 玲央と居たい理由を、理屈では言えない。

 絶対、関わらない方が良いと警告してる自分も、居る。
 智也と美咲にすごく心配かけてまで、選ぶ関係じゃない、とも、思う。

 だけど――――……。


「はー……時間だ……」

 この2日間、堂々巡りの思考を、また同じように辿った。

 時間切れで、仕方なく、学校に向かう事にした。


 玲央の絵を、机に置いて、じ、と見つめてから。
 部屋を後にした。







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