【恋なんかじゃない】~恋をしらなかった超モテの攻めくんが、受けくんを溺愛して可愛がるお話。

悠里

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◇出逢い

「幼馴染に報告」*優月

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 学食について、2人がいつも居るあたりを探す。

 あ。居た。良かった。
 しかもちょうどよく、2人きりで、他に誰も居ない。
 
 こちら側を向いて座ってた、村澤 智也むらさわ ともやが、「あ、優月」と笑った。それを聞いて、川島美咲かわしま みさきも振り返る。


「おはよ、優月」
「優月、どうしたの? クロのとこいってたんじゃないの?」 

 美咲の隣に腰かけて。
 何から話すべきなのか迷って、言葉に詰まる。

「優月?」

 何も答えないオレを、2人がじっと見つめてくる。

「あの……」

 智也も美咲も、幼稚園からの幼馴染。小中学校までは一緒、高校は別々だったからたまに会う程度だったけど、大学が一緒になってまた仲良く3人でつるんでる。

 智也は、一言でいうなら、優しいお兄ちゃん。
 美咲は、一言でいうなら、きつめだけど、優しい、お姉ちゃん。

 同い年ではあるけれど、早生まれで背も小さくて、色々とできないことも多かったオレを、この2人はいつも助けてくれていた。
 小学校の時の、美咲のオレに対する口癖は、「ほんとにトロいんだから」だったけど、そう言いながらもいつも構ってくれて。成長するにつれて、その口癖が良くないと思ったらしく言わなくなった。けれど、何かと助けてくれるのは変わらなかった。
 智也も、同じ。もともと面倒見がいい智也は、いつも優しかった。

 高校で、2人が居なくなったことで何とか独り立ちして、自分でやらなきゃいけないことや、頑張らなきゃいけないことを初認識して、3年間、頑張った。 智也と美咲がいなくても、忘れものや宿題、勉強等から始まり、その他諸々ちゃんとできるように、やっとなった。 大学生活で一人暮らしを始めたけれど、生活においても2人に頼ることはもうほとんどない。

 けれど。「世話焼き」の2人と、「世話やかれ」のオレ。
 長年染みついたその関係は、微妙に残っていて。

 何かあった時に相談してしまうのは、いつもこの2人。
 信頼してるし、大好き、ではあるのだけれど。


 ――――……だからと言って。
 さっきの出来事をそのまま話したら、何て言われるんだろう。
 ……特に美咲に……。


「――――……優月、何かあったでしょ」

 美咲はルックスは超キレイ。
 「美しく咲く」という名前が、本当にぴったりだと、いつも思う。

 今日は長い髪を綺麗にまとめていて、大きめのピアスがキラキラ揺れる。
 大きな目が、けれど今はものすごく細められて、優月を見つめてくる。

「休み時間もそんなに無いし、隠してないでささっと言って?」
「美咲、言い方……心配ならもっと優しく聞けよ」

 智也は、中高とサッカー部のキャプテンを務めていた。サッカーの時だけ人が変ったみたいに好戦的になるけど、それ以外はいつもほんとに優しいので、皆に慕われる、お兄さんタイプ。


「あの……」

 うう。
 なんて言ったら良いんだ。

 いきなりキスされたとか言ったら、美咲が切れかねない。

 3人の間に、恋愛関係は一切ないけれど、長年一緒に居た時間が長すぎて、正直、家族よりもお互いが大事なのかもと思う瞬間がある。

 特に美咲は、オレの敵とみなすと、その相手には容赦がない。過去にオレにちょっかいかけてきた悪ガキたちが全員泣かされていたのを、何だか久しぶりに思い出す。


 ……どうしよう。
 言いたくなくなってきた…。でも。今更隠せる気がしないし。


「……あのさ。玲央って……知ってる??」

 そこから聞いてみることにした。

「れおって……神月こうづき玲央?」

 美咲がきょとんとしながら、そう聞いてくる。
 うん、と頷くと。

「超有名人。知ってるわよ? ……優月の口から出てくると不思議だけど」

 美咲の言葉に、苦笑い。
 うん。オレも、さっきまで、ほぼ知らない人だった。ていうか、今もだけど。

「神月玲央、オレは学部一緒。知ってるよ。去年ゼミも一緒だったし」
「あ……そう、なんだ」

 それきり、3人一旦黙る。


「……それで? 神月が何?」
 首を傾げながら、智也が聞いてくる。

「……うん、あの……どういう人?」

 優月が聞くと、2人が顔を見合わせて、数秒黙った。
 その中、美咲が話し出した。

「スペック的には最高よね。ルックスもだし、歌もうまくてバンドも大人気だし。ライブのチケットとか手に入れるのすごい大変なんだって。あと、超大金持ちの息子らしいし」

 なるほど。そうなんだ。さすが美咲、よく知ってる……。
 
「まあ見た目は文句なしだよな。デビューの話もあるって聞いたし、超派手で。 でも結構ゼミとか授業はちゃんと出てて、ちゃんと意見とかも言ってて超意外だった。見た目があれだからさ、討論の時とか、すげえ真面目な事、言ってると、なんかびっくりする」

 ……おお。同じ学部ならではの……。 
 てか、まじめなの? あの人。意外。

 ここまでの評価は、そんなに悪くないのかな。
 そう思った時。 美咲と智也がまた顔を見合わせた。

 智也がちょっと言いにくそうにしながら、話し出す。 

「ただ、男女関係なしにそういう関係があるって。恋人とか何股とかじゃなくて、完全にセフレらしいけど。ゼミ始まる前の教室で話してたの聞いたけど――――……相手も納得してんなら、別にいいだろって感じだったかな」

 それを聞いてた美咲が、はー、とため息をついた。

「実は友達に、あいつのセフレだった子が居るんだけど……本気で好きって伝えたら、もう終わりにしようって言われて、それきりだって」
「……それ、なんで?」
「重いのが嫌いって、言われたって。 好きとかいらない、体だけでいいじゃんって」
「――――……」

 ずーん……。
 ……なんでこんなにショックなんだろう。

「普段はまあ普通に優しいらしいし、お金あるから欲しいものとか買ってくれたりするし、気に入られてる間はライブにも呼んでくれたり、甘いこともしといて、 本気になったら切るんだよ。セフレに愛情とか好きとかめんどくさいの、いらないんだって。 束縛するとかありえないって。 どんだけ友達が泣いてたか……ほんと、最低のクソ野郎だと思ってるけど、あたしは」

 美咲が、綺麗な顔を歪めて、ものすごく嫌そうに、そう言う。


 ずずずずーん。
 ……だめだ、これ。

 美咲がここまで言ってる人……。
 さっきあったことを言ったら……。



「……んで? 神月がどーしたの?」

 智也に促されても、何も言えず黙っていると、二人が、じーーーっと、黙って優月を見つめてくる。

「いや、あの……どんな、ひと、なのかなあって思って……」
「ふうん……? それで?」

 美咲が真横から、じっと見つめてくる。

「聞いてみただけ……なんだけど」

 そう言って済ませようとしたのだけれど、美咲が冷たく一言。
 
「――――……優月、嘘つけないんだから、本当の話の方、早く言って」
「……っ」

「……優月、さすがに無理があるかも」

 智也も苦笑い。


「――――……えと……」

 めっちゃ怖い。特に美咲。 いつもは居心地の良い、楽しい3人の関係なのだけど、こういう時は、ほんと、ビビる。

 まず智也だけに言えばよかったかな。
 でもそれ隠してて、後でバレたら、またそれはそれで、怖い。

 とにかく今更、隠せない。
 嘘ついたって、バレるんだ。
 しょうがない……。


 どこから話せばいいのか、整理しながら、正直逃げ出したくなる。




 ……言い方をどんなに考えても、そのまま言うしかない。
 諦めて、話し出した。

「……あの、さっきね。クロのいる所で会って……」
「神月玲央に?」
「うん。そしたら急に……されて」
「何?」
「だから……されて」
「……何されて?」
「……っす…」

「優月、何も聞こえないんだけど…」

 相槌がだんだん険しくなってくる美咲に苦笑いしながら、「優月、はっきりいって?」と、智也が優しく言う。

 頑張って、次こそ。で口を開いた。

「…………きす……されて……」

 今度は聞こえるかなという声で、なんとかかんとか、言葉を出した瞬間。

 二人は、ぴし、と固まって。あ、聞こえたなと、分かる。
 まじまじと、数秒、無言で、見つめられた。

「きす?」

 先に声を出したのは、美咲だった。

「きすってキスのこと?――――……唇に?」
「……は、い」

 なぜか敬語で答えてしまう。

「……どんなキス? 間違って触れちゃったとか?」
「……いや……あの」

「……濃いキス? ディープなやつ?」
「美咲、声押さえて」

 智也が、眉をひそめながら、美咲に突っ込んでる。


「……間違ってとかじゃなくて……なんか、クラクラするような……長いやつ」

 そう言うしか無くて言ったら、美咲の目が据わる。

「……だって、優月、ファーストキス……よね?」
「……うん。そう……なんだけど」


「……は? なにやってくれてんの、あいつ。 ぶん殴りに行こう、智也」
「えっ、待って」

 がたん、と立ち上がった美咲に驚きすぎて、咄嗟にその手を掴む。

「いやいや、待って、待ってよ、美咲」
「なに?」

「オレが、良いって、言っちゃたんだよ」
「……?」

「……していいかって、聞かれて――――……頷いちゃったんだ」

 美咲は何か言おうとしたけれど、言葉にならなかったみたいで。
 そしてまた何か言いかけて、また止まって。

 すとん、とまた椅子に座った。
 握った手を、口に押し当てて、眉をひそめたまま、オレを見つめてくる。

 …美咲が、言いかけて黙るなんて、初めてかもしれない。
 うう。どうしよう。


「……整理、しようか、優月」

 黙ってやり取りを見ていた智也が、ゆっくり口を開いた。
 うん、と頷くと。

「会って、キスしていいか、聞かれて、優月がオッケイして、それで、キスされて――――……まではあってる?」

「……あってる」

「それで? キスのあとは?」

「……バンドの練習があるからって電話で呼び出されてたから、行っちゃったんだけど……オレと寝る気になったら、月曜あそこに来てって言われた」

「は?」
 美咲のたった一声が、怖い……。


「……なに、あいつ、頭おかしいの?」
「――――……う、うんと……」

「優月、なんであいつは、お前にそんなこと言ったの?」

「……興味が湧いたって言ってた。オレと寝てみない?て聞かれて」



「……サイテー野郎……」

 あ、やばい。
 美咲がどんどん口調が荒くなっていく……。






「……優月、何て答えたんだ?」
「……答えてない。無理なら来なくていいけど、来いよ、て言われて。そのまま返事しない内に、もう行っちゃったから」

 そこまで言うと、もう何も言うことは無い。

「……何で、良いなんて、言ったの?」

 美咲の、思ったよりも静かな声。

「……それが……よく分かんなくて」

 2人が黙って、まっすぐ見つめてくる。
 そこから。ながいこと何も言わない。

 オレは、もう完全に無言で。
 テーブルの上のペットボトルをひたすら目に映しながら、2人の言葉をただひたすら待つ。

 智也が、ふ、と息をついて、沈黙を破ってくれた。

「……オレは、優月がいいなら、男でも気にしないけど――――……あいつかあ……」
 うーん、と、頭を掻いてる。

「あたしだって、優月が幸せならいいよ」

 美咲もそう言ってから。
 ちら、と視線を向けてくる。

「でもそれ、付き合って、じゃないのよね。 キスしよう寝ようって事よね?」
「……うん、そう」
「セフレって、事よね?」
「……そうとも言われてない」

「1回だけってこと?」

 ますます機嫌が悪くなる、美咲。

「てか、分かってるの? セフレって何かちゃんと知ってる? しかも、あいつ、一夜限りとかも入れたら、履いて捨てるほどセフレが居るって。そんなのに、優月がなれるの?」
「――――……分かんない」

 答えた一言に、美咲どころか智也まで、急にオレをまっすぐ見てきた。

「分かんない??」

 2人が当時に、同じ言葉を口にした。


「――――……だって……オレ」

 俯いてしまう。


「……玲央の側に、居たいって、思っちゃって……」


「――――……」
「――――……」


 2人にまじまじと見つめられる。


「……ダメ。優月の気持ちは尊重してあげたいけど、それだけは、ダメ」
「オレもこれは……賛成はできないな。優月、きっとすぐに辛くなっちゃうんじゃないかと思うから」

「――――……だよね……」

 うん。分かってるんだ。
 普通に考えたら、ありえない。
 さっきのキスだけだって、ありえない。

 でもって、あんなありえないことをする人だから、きっと他の人にも、そんなありえないことをしてるんだろうとも予想できるし。


 ……分かってる。
 2人の言う事、ちゃんと、分かってるし。
 ……そう言われるだろうなと、思った。

 言ってほしくて、話したのかも。




 1人じゃ、もしかしたら、行ってしまいそうで。





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