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◇出逢い
「初kissと」*優月
しおりを挟む最初は、何が起きているのか、さっぱり分からなくて。
オレは、至近距離の整った顔を、ただ見つめていた。
ふ、と唇が、離れて。
呆然としたまま、数秒間、綺麗な瞳と見つめ合ってしまう。
「――――……なに……?」
「なにって……キス」
その答えを聞いた瞬間。かあっと、顔に血が上った。
あんまりびっくりしすぎて、返事が出来ない。
だって。
オレ、キス――――……初めて、だったのに。
いきなり。数分前に現れた人に、ファーストキスを奪われた、なんて。
ただただ謎すぎる、目の前の整った顔を見つめていると、また顔が近付いてきて。指で、唇に触れられた。
ぞく、と背筋がざわついて、自分でも驚く。
「――――……口、少し開けれる?」
「……っ」
触れそうな位近くで、囁かれて。
――――……なぜなのか、オレはつい、唇を薄く開けてしまった。
すると、ふ、と笑んだ唇が重なって、少しして、舌が入ってきた。
その未知の感触に、ぎゅ、と目をつむる。
オレ――――……なに、してんだろ……。
突き飛ばせば、いいだけ、なのに。
「……っふ……」
「――――……」
「……っ……」
「――――……抵抗、しねえの?」
唇が離れたかと思ったら、そう囁かれて、見つめられて。
動けずにいたら、また唇が重なってきて、さっきよりも遠慮なく入ってきた舌に、舌を絡め取られた。
「……っん……」
……舌って、こんな、熱いんだ……。
なんだか、熱くて、すごく動いて。……舌じゃなくて、別の生き物みたい。
激しすぎて。
――――……振りほどけない。
口内を好きに舐められて、感覚全部が甘く、蕩けていく。
頭の中が、真っ白。
「……っん……っ……ふ、っ……」
酸素を求めて少し顔を背けた。
少し離れた唇に、すぐにまた、舌が捻じ込まれた。
「――――……ん、んん……っ」
何。
――――……何、これ。
「…………ふ……っ……」
息が、できなくて。
自然と瞳に涙が滲む。
頑張って瞼を開いて、瞳の伏せられた目の前の顔を、見つめて。
また、ぎゅ、とつむる。
しばらくして、ゆっくりと、唇を離された。
やっと息ができて、目の前の整った顔を、ぼんやりと、見上げる。
じ、と見つめあって。そしたら、彼は、少し眉を寄せた。
なんか戸惑ってるみたいな顔で。
「……悪い――――……なんかあんまり無邪気に猫と戯れてるから」
「……え?」
……クロと、戯れてるから……?
今何を言われてるのか、頭がぼんやりしすぎて、よく分からない。
「……感じたらどーなんのかなって、すっげえ、興味が湧いて……」
……クロと無邪気??……無邪気に、戯れてるから?
…………感じたら……? 興味……?
意味の分からない言葉を、平気で色々並べて。
呆然としてる、オレに向けて。
「……そんな顔、すんだな……」
超イイ声でそう言って。
ふ、と笑って、頬に触れてきた。
「なあ――――……オレと寝てみない?」
ほんとに、頭が、真っ白になる。
――――……なんか……
怒っても、いいとこだと、思うんだけど。
なんでなのか、もう。
全然、分からないけれど。
――――……すごい、ドキドキする。
この状況でドキドキするのって――――……
絶対おかしいぞ、オレ。
まっすぐ見つめてくる、瞳を、ただ、見上げる。
「正直、好みのタイプじゃねえんだけど……」
「……っ」
「そんな顔されると……すげえ興味ある」
クスっと笑って、頬に触れられる。
好みじゃないなら、しないでよ……。
興味って。……興味って……っ。
……ていうか、好みじゃないって、ちょっと傷つくし……。
と、冷静な自分は、頭の隅っこの方でその言葉に反応してるんだけれど、なぜなのか何も言葉に出てこない。
心臓が、ドキドキしすぎて、
その瞳を見上げるしか、できない。
そしたら、ふ、と笑う、形の良い唇。
――――……この唇が、オレの、口に……
意識した瞬間、かあっと、顔に血が集まるのを感じる。
……っていうか。
オレは本来、こんないきなりなキスに、怒るとこじゃないのかな?
ファーストキス、だったんだよ?
いいのかオレ、こんなとこで、こんな意味分からなく、奪われて。
――――…………
――――……だめだ。オレ、おかしい。
……いいかも、と、思ってしまった。
「……何で、お前、何も言わねえの?」
「――――……びっくり、して」
声が、掠れてしまう。
そしたら、ふ、と彼の瞳が緩んだ。
ドキ、と、また心臓が、音を立てる。
自然と、胸を手で押さえてしまう。
「……っ」
目の前に居るだけで、こんなにドキドキして惹かれる人。
……今まで、居ただろうか。
何なの。ただでさえカッコいいのに。
そんな風に、瞳を細めて笑ったり、しないでほしい……。
「……い、いつも……こんなこと、してるの?」
「ん? こんなことって?」
「会って、ちょっとで、こんなこと……」
「んー……こんな所で、こんな風にはしたことねーな。完全に合意の、してほしそうな奴にしかしないんだけど……」
「……っ――――……じゃ、なんで、オレに……」
オレ、絶対、してほしいなんて、思ってなかった。
……しかも好みじゃないとか言われてるし。
そう聞いた優月に、彼は、少し黙って。
それから首を傾げた。
「……悪い。ほんとに、わかんねえ。 すっげえ興味が湧いたとしか……
びっくりさせて、ごめんな」
言いながら、そっと、頬に触れられる。
触れ方がくすぐったくて、びく、と、体が震える。
「……なあ、どうする?」
「……どうするって?」
「――――……オレと寝てみる?」
「――――……」
ほんとに、この人は……
謎すぎて……。
全然、分からない。
寝てみるって……
オレ達が、エッチな事、するってこと……だよね…?
オレ、会ったばかりの人に、そんなことに、誘われてるの?
そんなのに乗るように、見えてるの??
……しかも、好みじゃないって言われてるのに??
好みじゃない、てのが、かなり引っかかってる自分。
……引っかかるべきは、そこじゃないと、思うのだけど。
……じゃあ何、好みだって言われたら、良いのか、オレ??とも思うのだけど。
「……会ったばっかり……だし」
「――――……こういうのって感覚だから、したいかどうかなんてすぐ分かると思うけど。 無理な奴はどんなに会ったって、無理」
「――――……」
「お前は? ――――……オレ、無理?」
瞳が、妖しく、揺れる。
ダメだ。
なんか……吸い込まれそう。
少なくとも、オレの平穏な世界には、さっきまで微塵も存在してなかったような無茶苦茶なこと、されてるし、言われてるのに。
なんでオレ――――……
全然嫌だって、思えないんだろう。
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