「トリプルSの極上アルファと契約結婚、なぜか猫可愛がりされる話」

悠里

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67.自由すぎる。

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 瑛士さんが、ごめん、待ってて、と立ち上がった。

「もしもし。ああ、じいちゃん? いや、今日はもう仕事は終わって、今はマンション」

 瑛士さんの声を聞きながら、ふっと我に返る。

 ……何でオレ、泣きそうになったんだろ??
 我に返ると、何でだか全然、理解不能。

 どんな感情? オレ今、楽しいって、思ってたのに。
 瑛士さんも、オレのご飯とか、楽しみにして帰ってきてくれた、とか。
 オレも、瑛士さんにご飯作ろうって、楽しみに買い物してきたし、すごく張り切って、いっぱい作ったし。

 楽しいのに、なんか、涙が浮かぶとか。
 なんだろ? 全然分かんない。情緒不安定かな。

 何が良いんだっけ。運動かな、気分転換……。こういう時は、勉強ばっかりしてちゃだめだな。
 ――何がいいかなあ。
 むむ、と考えていると、瑛士さんが、「は?」と眉を顰めて、オレを見た。

 ……ん??
 もうすっかり涙とかは引っ込んでるので、普通に瑛士さんを見つめ返す。
 瑛士さんは「今行く」と言って電話を切ると、なんだか困ったような顔でオレを見つめた。

「――じいちゃん。今、下に居るって」
「えっ。下に??」

 へんな感傷的な気持ちはどこかに吹っ飛んでしまった。


「とりあえず迎えにいってくる――オレの部屋に連れていくから。凛太、先に食べてて。ごめん。長くなるかも。オレが帰ってこなかったら、寝ててもいいからね」

「――あの、瑛士さん」
「ん?」
「オレも――会った方が良いなら、会います、けど……?」

 そう言うと、瑛士さんはじっとオレを見つめた。

「んー……まだ結婚の話もしてないからさ。したら乗り込んできそうだからもう会ってから話そうと思ってたんだけど」

 苦笑いの瑛士さん。

「今からさ、凛太と色々打ち合わせておこうかなとも思ってたんだけど……」

 んー、としばらく考えてから。

「凛太、心の準備、出来てる?」
「――瑛士さんと結婚したいって気持ちで全部答えれば、いいですよね」
「そう、だね。――うん」

 ふ、と瑛士さんは「オレの一目惚れスタートってことで口裏合わせてもらえる?」と笑う。「はい」と頷くと、瑛士さんは、分かった、と笑った。

「じゃあ――連れてくるか考えながら、迎えにいってくる。この部屋に帰ってこなかったら、それは、明日の方が良いって、オレが判断したんだって思って?」
「はい」
「じいちゃんが泊まるとか言うなら、今日はこっちに戻らないかも。そこら辺は連絡入れるから」
「分かりました」

 出て行く瑛士さんを玄関で見送った後、リビングに戻ると、なんとなく一人では勿体ない気がして、電気をつけて、ろうそくを吹き消した。

 ――たくさん並べた料理。
 一口も食べて貰えなかったな……。ちょっと悲しいけど、仕方ないよね。

 ていうか――瑛士さんみたいな、カッコいい大人の人が「じいちゃん」って呼ぶの可愛いなあ。子供の頃のまま、そのまま呼んでるのかな。小さかった頃の瑛士さんとか思い浮かべると、すごく可愛い気がする。なんて考えて、ふ、と顔を綻ばせて数秒。ちょっと現実に戻って、眉が寄った。

 んー、どうしよ。

 瑛士さんのおじいさんに会う前に、瑛士さんと話しておこうと思ってた、フェロモンのこととか話してない。瑛士さんのおじいさんは、αだろうし、オレがΩなのにまったくなにも感じないってなると、そんなΩと瑛士さんが結婚なんて――しかも、まだ番にもなった訳でもないし。反対されちゃうかなあ……。瑛士さんは感じるってことにしておいた方がいいのかなあとか……。
 
 十分待って、来なかったら――軽く食べて、あとは明日に回そうかな。そう思いながら、テーブルに座る。

 会うなら、瑛士さんの部屋に呼ばれることになるよね、と時計を見る。さっきから五分、経過。
 もし向こうの部屋に行くことになるなら、今片付けておいた方がいいのかなと思った時、玄関の方で音がした。

「凛太」
 瑛士さんの、オレを呼ぶ声が聞こえる。

 あれ、向こうに帰るんじゃなかったのかな、とか、向こうの部屋に一緒にいた方がいいなら、やっぱりご飯はしまった方がいいな、とか。色々考えながら、玄関に出ると。

 瑛士さんと、もう一人、一緒にそこに立ってるのは、おそらく――。

「オレのじいちゃんね。北條 雅彦ほうじょう まさひこ
「あ、はい――三上 凛太です」

 瑛士さんに紹介されて、目に映したその人は。
 背の高い人だった。一目で、身分が高そうって、誰もが思う気がする。

 瑛士さんに似てる。というか、瑛士さんが似てるんだ、と思い直す。

 貫禄があるというのかな。なんとなく笑みを浮かべているし、全然偉そうにはしてないんだけど、なんだか少し緊張する。
 スーツは離れて見てても高そうで、よれた感じとか全くない。第一ボタンが外されていて、濃い緑色のつやつやしたネクタイも少し緩められているけど、だらしない感じとか無くて、優雅な印象。

 おじいさんは、挨拶したオレを見て、ふ、と微笑んだ。

 なんだか――圧倒されるというか、見惚れてしまう。


「ごめん、凛太――食事を食べてないから外に行こうって言われたんだけどさ。だったら、一緒に食べようって、誘っちゃった」
「あ、そう、なんですね。――って、いいんですか、オレのごはんで」


 普通に頷きそうになって、えっ? と瑛士さんを二度見してしまう。


 オレのごはん、こんな、ものすごく、高級なもの食べてそうな人に、食べさせるつもりなのですか???
 とは言えないけど。いやほんとに。いいのだろうか。


「凛太のごはん、おいしいから食べてって。まだ、それしか話してない」


 ――……それは、結婚のこととか、オレのこととか、何も話さず、ご飯のことだけ話して連れてきたってことですか?? この微笑みは、結婚相手とか何も思ってないからこその、優しい感じなんだな。なるほど……!


 もうもう。
 瑛士さんにとっては、自分のおじいさんだからかもしれないけど。

 自由すぎる……。

 
 なんだか、くらくらしながら、スリッパを出して、瑛士さんのおじいさんを迎え入れた。 





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