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62.教授たちの診察 1

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 昨日教授たちに声を掛けられて、今日、授業の隙間で、大学病院の方の診察室にやってきた。
 診察したい、は真面目に言ってたみたい。

 前の病院の診察のデータが必要か聞いたけど、とりあえず自分で分かる限りでいいと言われて、ここに来た。ちょっとドキドキしながら、診察室のドアをノックすると、「どうぞ」と内海教授の声。失礼しますと入ると、佐川教授も待っていた。
 白い光の降り注ぐ、診察室。内海教授の机の上にはパソコン、隣に座ってる佐川教授は、記入用のボードを膝にのせていた。

「座って。悪いな、忙しいのに」
「いえ。教授たちこそお忙しいのにすみません。よろしくお願いします」

 こうして、二人の前に、患者として座るのはなんだか変な感じ。

「今まで凛太が診察を受けてきた病院は、特にオメガの研究に詳しいってわけでもないよな?」
「診断がメインの病院ですからね。通常の診察には問題ないでしょうけど、凛太くんは少し特殊かもしれないですよね」

 内海教授は、オレを凛太って呼び捨て。誰のこともそうなんだけど。佐川教授は、君付け。こちらも、誰のこともそう。呼び方だけでも、全然違う。
 佐川教授は、いつも冷静だし、理論的。今日も、多分、オレからデータとして受け取ろうって感じがするんだけど、内海教授は、好奇心なんだろうなーって顔をしていて、苦笑してしまう。

「ここで話したことは、ここだけの話。他の誰にも話さないって約束するからね」
「守秘義務ではあるが、教授間とかでも、話さない」
「あ、はい。というか……オレは、それを誰かに話してもいいんですか?」
「それは凛太の自由だろ」
「分かりました」

 お願いします、と言ってから、色々質問される。
 今までの診察で言われたことで、覚えてることをまず全部話した。検査結果とかも取ってあるのは全部渡した。

 判定不能なほどΩの要素が弱いと言われてること。妊娠とかもしにくいだろうって言われてる。ヒートの時でも、オレの匂いは、αは気づかないだろうと言われてる。でも、なぜかヒートが終わった後に、竜が気づくことがある。竜がよっぽど、フェロモンの感知がすごいのかと思って、聞いたことがあるんだけど、他の奴のフェロモンに、そこまで人並み以上に感じたことは無いって言ってたこと。
 
 それとともに、血液検査やフェロモンを測る検査もして、最速で分かるデータだけ、見せられる。

「フェロモン分泌量は通常のオメガの、二、三十分の一、にも満たない……ですね」
「こりゃ判定不能って言われるか。初めて見たな。それでも、わずかにでもΩのフェロモンだから、Ωとしては診断されたんだな……」

「一応、不定期にヒートは来るので、Ωだっていうのは、あってると思います。その時はさすがに少しは分泌量上がると思うんですけど……」
「上がっても、そこまで行かないだろ――通常のオメガが、ヒート時に五から十倍になるとして、凛太が十倍されたって、普段のオメガよりずっと低い」
「……というか、そんなに低いって、初めて知りました」

 すごいなー、やっぱり、特殊だったなぁ。思っていたよりも、ずっと低かった。

「詳しい検査に出しておくから、また結果は後日ね」

 佐川教授に、はい、と頷いて、「ちょっと楽しみですね」と笑ってしまうと、二人は苦笑した。

「今まで、一度も、αのフェロモンに反応したことはないか?」
「ない……と思います」

 絶対ないと思うんだけど、無いって言っちゃうと、瑛士さんとの結婚がおかしくなっちゃうかなと思って、少し弱めの言葉を付け足した。……でも、別にフェロモンを感じるかどうかで、全てが決まる訳じゃないから……大丈夫かな? とか、咄嗟にいろいろ考えてると。

「婚約者は、トリプルSなんだろう? そっちはそっちで、診察したいな」

 内海教授が楽しそうに笑う。

「婚約者は、お前のフェロモンを感じるのか?」
「……いえ。多分、無い、かと……?」

 ものすごくしどろもどろになってしまう。瑛士さんとは、フェロモンの話、あまりしてない。お互いに感じないね、くらいしか話してないんだけど、婚約者なのに、それは変かな、と、思って。

 うぅ。今度瑛士さんと、話しとこう。おかしくないように打合せ……。

 別にフェロモン感じるから、そういうことするって訳じゃない。特にβ達はそんなものなくても、普通に恋愛して、そういうことして、結婚して、子供作ってる。――でも、基本、αとΩだと……フェロモンを感じ合わない結婚なんて、無いのでは……。まあ、教授たちみたいにこんなツッコんでくる人は居ないだろうし、フェロモン感じないとかいう話だって、婚約者は感じてるって言えばいいのかな。あー、なんか……聞かれた時に困るから、瑛士さんと打合せしとこう。

「――お前は? 婚約者のフェロモンは、感じるか?」

 だからこれは、何て答えればいいんだろう。と迷っていると。「内海教授、その質問は詳しく聞くと、セクハラになりますよ。生徒ですし」と佐川教授が苦笑した。

「でも結婚決めたからには、そういうことだって、あるだろ。まだ番にはなってないのは――何でだ?」
「あ、の――まだご家族に会えてないので」

「ああ、なるほど――ってその状態で、オレ達に話したのか? 絶対結婚はするって意思表示かよ」

 クックッと笑って、内海教授が言う。「しかもよくトリプルSなんかとそうなったよな?」
 その言葉に、はは、と笑って交わしていると、佐川教授もクスクス笑った。

「トリプルSに実際に会えたのは、僕は初でした」
「オレは一回見たことがあるけど」
「どこでですか?」
「何かのパーティだな。もう忘れたけど。威圧感だけ覚えてる」
「話したんですか?」
「いや。パーティーに居て、あの人がトリプルSだ、と聞いただけだな」
「なるほど」

「教授たちでもそのレベルでしか会えないんですね」

 二人の会話に、オレも、なるほどー、と頷く。

 あんなところで偶然会って、こんなことになってるのは、奇跡みたいな確率の出来事なのかも。
 ――多分瑛士さんて、フェロモン、大分抑えてるんだろうな。オレは感じないけど……トリプルSのランクがつくフェロモンなんて凄そうだし。




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