上 下
60 / 77

60.癖になったら。

しおりを挟む

「……瑛士さんて、変わってますよね」
「うん? そう?」
「――そんなこと、言われたの、初めてかも。そんな意味で、感謝、なんて……」

 じわ。と。何でか涙。
 ――あれ? なんだろ。気づかれないように、ちょっと顔を背けたのだけど。息を吸ったら、鼻が少し音を立てた。え。オレ、泣いてる??

「凛太?」
 瑛士さんが、多分変にしてる。「何でもないです」と言って、オレもお布団にくるまって横になった。――何でオレ、涙? 良く分かんないな……。情緒不安定、みたい……飲みすぎちゃったかな……?

 瑛士さんが動く気配がして、部屋の電気が消された。

「凛太」

 瑛士さんの手が、肩に触れたと思ったら。体の下に瑛士さんの手が入って、そのまま、あっという間に抱き寄せられた――みたいな。

 後ろから、ぎゅ、と包まれる。

「なんか凛太って――ちっちゃいよね」

 くす、と笑う、優しい声。

「瑛士さんがでっかすぎるんですよ……」

 オレも笑って返すと、瑛士さんは、「そっか」とまた笑った。それは、本当に、全部包まれちゃうような気がする、優しい声で。

「何か、オレ――凛太がここに居てくれて、嬉しいんだよ。会ったばっかりで、何言ってんのって感じかもしれないけど」
「――」
「知り合えて本当に良かったと、思ってるんだよね……」

 ぽつぽつ、ゆっくりと話す瑛士さん。なんだか、胸の奥の方が、きゅうって、痛い。この感覚は、何なんだろう。良く分かんない。

「あのさ――オレがすることで、凛太が嫌なこと、あったら言って。言ってくれたら、ちゃんと考えて、自重できるところは、するから」
「……はい」
「言われなかったら、オレ、したいようにするから。嫌ならすぐ言って」
「……したいようにするって……αっぽいですね……」
「――」

 瑛士さん、黙ってしまった。オレの言う「αっぽい」はきっと嫌な意味で取れるんだろうと気づいたオレは。

「とりあえず……いまのところ、瑛士さんがオレにしたり、言ってくれたことに、嫌なことは、ないです」

 そう言ったら、後ろで、ホッとしたように息をつく瑛士さんに、きゅ、と抱き締められた。抱き締められたというよりは、なんか、包まれてる感覚だけど。瑛士さんの鼓動が、背中越しに伝わってきて――なんか、すごく、安心する。

「……嫌なことあったら、すぐ、言いますから。言わない限り、好きにしててください」
「――ん、分かった。少しでも、ん? て思ったら、言ってね」
「分かりました……」

「――これ、嫌じゃない?」
「……嫌、ではないですけど」
「けど?」
「……抱き枕化されてる気分ですね」
「――」

 少し間を置いて、瑛士さんは、ぷは、と笑い出した。クックッと、揺れてる瑛士さんの震動が、ダイレクトに伝わったくるから、なんか、楽しくなってくる。

「可愛い抱き枕だよね」
「あ、やっぱり抱き枕……」
「オレが言ったんじゃないよ」

 クスクス笑う瑛士さん。

「さっき、凛太さ……くっついて寝てるから邪魔じゃないか、とか言ってたでしよ?」
「あ、はい」

 頷いて、次の言葉を待っていると。

「あれ……凛太がくっついてきてる訳じゃなくて、夜中にオレが引き寄せてるだけだから。ちなみに、連れて帰ってきた時もね」
「……あ、そうなんですか……?」
「なんかスヤスヤ寝てるの可愛くて、つい……凛太抱っこしてると、なんか安眠するみたいで」
「――やっぱり抱き枕みたいですね」

 ふふ、と笑うと。「可愛い抱き枕だよね」と、瑛士さんも笑う。

「瑛士さん、可愛いって、言いすぎですよ」
「嫌?」
「嫌とかじゃないんですけど……あまりに言われ慣れてなくて、言われるたびに、不思議な気持ちになります」

 そう言うと、瑛士さんはクスクス笑って――「オレも不思議」とか言う。
 ……不思議?? 瑛士さんも?
 言ってるの瑛士さんなんだけど……不思議?
 良く分かんないなあと思いながらも、大きなあくびが。

「ん。おやすみ、凛太」
「はい……おやすみなさい……」


 なんか、全身、ぽかぽか暖かくて。
 ――こんな寝方、癖になっちゃったら、どうしよう……なんて思いながら。でも、抜け出す気分にはならなくて。そのまま、あっという間に眠りについた。


しおりを挟む
感想 53

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

孤独を癒して

星屑
BL
運命の番として出会った2人。 「運命」という言葉がピッタリの出会い方をした、 デロデロに甘やかしたいアルファと、守られるだけじゃないオメガの話。 *不定期更新。 *感想などいただけると励みになります。 *完結は絶対させます!

鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?

桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。 前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。 ほんの少しの間お付き合い下さい。

ベータですが、運命の番だと迫られています

モト
BL
ベータの三栗七生は、ひょんなことから弁護士の八乙女梓に“運命の番”認定を受ける。 運命の番だと言われても三栗はベータで、八乙女はアルファ。 執着されまくる話。アルファの運命の番は果たしてベータなのか? ベータがオメガになることはありません。 “運命の番”は、別名“魂の番”と呼ばれています。独自設定あり ※ムーンライトノベルズでも投稿しております

総長の彼氏が俺にだけ優しい

桜子あんこ
BL
ビビりな俺が付き合っている彼氏は、 関東で最強の暴走族の総長。 みんなからは恐れられ冷酷で悪魔と噂されるそんな俺の彼氏は何故か俺にだけ甘々で優しい。 そんな日常を描いた話である。

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

処理中です...