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53.デジャヴ

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 ホットミルクを飲み終えて、片付けて、さあ寝ましょう、となった時。
 瑛士さんが、オレを振り返った。

「凛太」
「はい」

「嫌だったら言って」
「――? はい」

「別に何かしようとか、思ってないからね」
「?? はい」

 なんだか前置きが長いな?? なんだろ? と瑛士さんを見つめると、なんか、ぽりぽりと頭を掻いてる。――なんか照れてる?

「ただ、なんとなく、なんだけど――ここで、一緒に寝ちゃダメ?」
「一緒に、ですか?」

 ん? と聞き返すと、瑛士さんは、オレをまっすぐに見つめた。

「なんか、昨日、凛太の横で、すごくよく眠れたからさ」

 なるほど。そういうことか。オレは少し考えて、「別に、いいですけど」と言った。「いいの?」と瑛士さんがオレを見つめる。

「瑛士さんがよく眠れるかもしれないなら、試すのもありですね」
「――ありがと」

「別に。ここのベッド大きすぎて、広いので、全然いいですよ。ていうか、この部屋も、元々瑛士さんのですし」

 ――と、言うことで。歯を磨いて寝る準備をして、瑛士さんとオレは、一緒に寝ることになった。
 昨日のままだったシーツと枕カバーは洗濯機につっこんで、新しくしてから、瑛士さんが掛け布団も出してきてくれて、一緒にベッドに乗った。


「じゃあ、おやすみなさい」
「うん。おやすみ」

 電気のリモコンで、小さなライトにして、二人で横になる。ベッドはひとつだけど、掛け布団は二つで分かれてるから、雑魚寝、みたいな気分だけど。

「――凛太、手、貸して」
「手? はい」

 差し出すと、そっと、手に触れてくる瑛士さん。オレの手は、瑛士さんの手の上に乗っかってる感じ。


「――なんか、ちょっと、ほっとする」
 

 外に居る瑛士さんは、ちゃんとしてて、カッコよくて、頼れそうで。弱いとこなんて無さそうだけど。

 なんか。
 ――やっぱりちょっと、可愛いなぁ。とか言ったら怒られるかな……? 
 
「おやすみなさい、瑛士さん」

 軽く触れてるだけなんだけど。
 すごくあったかく、感じる。ほっとするって。分かるかも。

 ていうか、オレはもっと、分かるかも。

 母さんが亡くなってからは、いつも一人で生きてきた。父には頼りたくなかったし。
 平気って思って頑張ってるけど――こういう触れ合いって、ほっとする。


 そんなことを、ぼんやりと考えていたら、すぐに眠くなって――瑛士さんは寝れたのかな、と思いながら、あっという間に、眠りに落ちて行った。


 で。
 いまは、朝。

 よく眠って目が覚めたら、なぜか瑛士さんの腕の中。
 デジャヴだ。完全に。まあ、裸じゃないし、一緒に寝た記憶があるから、今日は驚きはしないけど。

 ぐっすり寝てる。瑛士さん。
 昨日すぐ、眠れたのかな。

 何でオレは、この腕の中に、はまっているんだろうか。
 瑛士さん、誰かと間違えて――今まで一緒に寝てた女の人とかと間違えて、オレを抱き締めちゃうのかもなぁ……。

 辛うじて見えた壁の時計は、瑛士さんが起きるって言ってた時間より、まだ少し早い。もう少し、このまま。眠らせておいてあげたい。

 目の前にある、綺麗すぎる顔をじっと、眺める。
 睫毛、長すぎ……。朝日の光で、まつげで影が出来てる。――綺麗。

 ふ、と微笑んだ瞬間。ぱち、と瑛士さんの目が開いて、いきなり目が合う。

「あ。……凛太。おはよ」

 ねぼけてるのか、くしゃくしゃに髪を撫でられる。んん、と起き上がって髪を直しながら、笑ってる瑛士さんに、「よく眠れましたか?」と聞くと。
 ふ、と思い出してるみたいに考えて、それからすぐに「うん――寝れたみたいだね」と、不思議そうに言ってる。その顔を見て、試したいとか言ってたけど――ほんとに眠れるとは思ってなかった、のかな。と、思った。


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