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51.運命

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 片付けとか全部済ませて、瑛士さんと一緒に、またローテーブルの方へ。
 本を流し読みしながら、クッションが気持ちよすぎて、ころんと転がっていると。

「――気持ちいい?」

 くす、と笑って振り返って、瑛士さんがオレを見つめる。

「こんなに気持ちのいい座るものがこの世にあるんだ、って思ってます」
「そっか」

 頷きながら笑う瑛士さん。

「――瑛士さんて、どうしてここに居るんですか?」
「ん?」
 クスッと笑って聞き返してくる。

「だってなんかこのクッションは、オレがいっぱい座っちゃってるし……会社とか、瑛士さんの部屋の机とかの方が、お仕事しやすそうだなーって」

「……ここ、居心地、良いから。凛太は、オレと居るの居心地、悪い?」
「いえ。全然」

「じゃあよくない?」

 ふふ、と笑う瑛士さん。
 ……そっか、いいのか。

 またしばらく、静かな空間。ふと、本を閉じて、SNSを開いた。

 なんか長文の相談が来てる。さっと目を通すと、運命の番について、だった。

 婚約してたαに、運命の番が現れた。最初は、運命なんか関係ないって言ってくれてたのに、なんだかどんどん態度がおかしくなっていって、問い詰めたら、運命の人と会ってるって。結局、別れることに。――運命の番って、そんなに、そこまでのものなんですか、というような話。

 ――そういえば、運命の番がいるって話は聞いたことがないな。誰からも返事がなかったら、何て入れようかなぁ……。

 ていうか、運命の番、か。

 聞いたことしかなくて、そういう人達を直接見たことはない。
 感情に関係なく、αとΩが、本能的に「運命の番だ」と感じるらしい。

 相談のケースみたいに、もともと好きな人が居ても、どうしてもその本能に逆らえない、なんて。
 そんなこと、あるのかなあ……。

 オレは、フェロモンさえ感じないのに、「運命だ」なんて感じることは無いだろけど。
 瑛士さんの、運命の番は、どこにいるんだろう。

 もしかしたら、もう近くに居て――……ってことはないのか。
 瑛士さんは感じる人なんだから、近くにいたらもう気づいてるもんね。

 運命の番は出会えば分かるって。――出会っただけなら、その後ずっと会わなければ結ばれないこともあるみたいだけど。一度、結ばれちゃうと、体だけじゃなくて心も、他の相手を受け入れられなくなるって、聞いたことがある。普通の番でも、番ってからのΩは、番以外のαのフェロモンを受け付けられなくなるみたいだし。

 相談者の相手は――最初は関係ないって言ってたんだから、相談者を愛してたんだろうに。
 ……本能に左右されて、愛情が消えるとか。悲しいよね。
 投稿の時間は三十分前か。……少し考えてもいいかな。

 んー、と考えながら、いろいろチェックしていると、ふと、瑛士さんが振り返った。

「険しい顔。どした?」
「――」

「SNS?」
「……まあ。そうですね。ちょっと相談されてて。考え中です」
「そっか……」

「そういえば、瑛士さんはSNSやってないんですか?」

 そう聞くと、瑛士さんは「昔やってたよ」と苦笑した。

「昔って?」
「学生の頃はずっとやってた」
「なんでやめちゃったんですか?」
「んー……なんていうか……芸能人みたいな感じになってきちゃってさ」
「どういう意味ですか?」

「ただの一般学生だったのにさ、隠し撮りされて、それをこっちに投稿してきたり、学校周りに追っかけみたいなのが押し掛けてきたり」

 苦笑する瑛士さん。

「わー。さすが、て感じですね。……ていうか、ちょっとおもしろいですね」

 あはは、と笑ってしまうと。

「笑い事じゃないんだよ。なんか四六時中視線を感じるって、ほんとよくないしさ」
「まあそうですよねぇ……」
「そういう有名になり方は、もういいかなって思って。社会人になるのでやめます。肖像権、プライバシー権、主張しますって。これ以降は、弁護士とともに対応しますとか、色々書いたら、すぐやんだ」

「わー、良かったですね」

 ふふ、と笑いながら。

「さすが、なんか、瑛士さんのエピソードって、普通じゃない物、多そう……あ、オレも見たかったです、瑛士さんの若い頃」
「写真はあるよ。見る?」
「えっいいんですか?」

 スマホを出すと少し弄ってから、渡してくれる。

「ここらへん。高校の時のグループのアルバムにまだ残ってる」

 スクロールしながら一枚ずつ見ていく。今より大分若い瑛士さんの写真。

「わあ、カッコいいし、なんかまだ、可愛いですね。制服似合う」
「可愛い?」

 なんかちょっと複雑そうな顔をしてたけど、「今の凛太より年下かぁ」と苦笑してる。


「瑛士さんがクラスメートだったら、楽しそう。あ、でも、オレきっと、一言も話さず終わってたかも」
「そうかな?」
「瑛士さん絶対、真ん中でわーわーいってる人たちの、ど真ん中にいて、オレはきっと端っこで、うろうろしてたと思います」
「んー……どうだろ。分かんないけど」

 瑛士さんはじっとオレを見つめて。

「今はこんな風に出会って、一緒にいるから。――いつどう出会うかも、運命なんだよ、きっと」
「運命、ですか」 

「少し違う時に出会ったら、違う関係だったかも知れないし。違うところにいたら会わなかったかも。運命って、抗えないもの、あると思わない?」
「――確かに。そう、ですね」

「だからオレは、こないだ、あそこを歩いてて、凛太がウロウロしてるの見つけて、良かったよ」


 ふ、と優しく笑う瑛士さんに、何だか嬉しくなって、頷いて笑い返した。
 




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