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46.部屋の真ん中で
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豆をミルで挽いてから、コーヒーメーカーにセットする。読みたい本など諸々を持ってきて、ローテーブルの上に置いた。
スマホを出して、SNS。昨日夜は全く見なかったから、連絡がちょっとたまってた。手早く返していく。
こんなに規模が大きくなるなんて最初は思わなかった。
でも、だんだん人が増えてって、鍵垢を作って、そっちも増えてきた頃には、このアカウントは、オレが将来、薬を作る時とかにも、使えるかもしれないと、ちょっと思っていた。
だって、Ωって、なかなか表には出ようとしない人が多い。薬を作るうえで、困ってる色々などを聞くのも大変だし、いざ治験となる時も、募集も、大変なのを聞くし、考えただけだって、容易に大変さの想像がつく。
Ωはとくに、信用してない人の治験には参加したくないと感じると思う。
Ωのヒートに関わる、そんな、治験。――性被害だって、ただでさえ多いのに。ほんと、ヒートとか発情とか。理性の利かないものは、厄介だ。
オレは、年齢や素性はまったく明かしてはいないけれど、ずっと前から交流して活動してるってこと。ずっと見てる人達がいる。それでも、実際、なにかするってなった時に、信じてもらうのは、まあ色々大変だとは思うけど。
それでも、いろいろ重ねていけば。きっと、何かの役にはたつ。困ってる人の話を聞き合うだけだって、絶対、役に立ってる。と思って。
途中からは覚悟を決めて、忙しい中、ずっと続けてきた。
医大に入ってからは、相談を受けることもあった。
まだ医者の卵だし、そんなことをしていいのかって思ったけれど、いくつかルールを決めた。
本当にやばいものは医者とか専門の機関に行ってもらう。
仲良しの友達にするような雑談みたいな相談なら、個人じゃなくて何人か居る、相談ルーム。「これについて相談したい」と言われたら、詳しい人や同じように困ってる人を募ったりして、コメントしあう。まあ今のところは、あくまで、雑談レベルに、敢えてしている。でもそれでもきっと、一人で抱えてる人には、助けになってる。だからこその、フォロワー数。やり取りが多いのも、その証だと、思って――。
「凛太―!」
「え。はーい」
なんか大きな声で呼ばれたので、急いで玄関に向かうと、瑛士さんが、なんだかものすごくでっかい、クッション? ふとん? を持ってきた。
「なんですか?」
寝るつもりなのかな? と笑いながら、差し出されたそれを受け取る。
「これ、座り心地いいから。下に座るなら使おう。お尻、痛くないから」
「そうなんですか」
「運んでおいて」
でっかすぎて、手に余るクッションを抱えて、オレはリビングへ。瑛士さんはまた出て行った。
ローテーブルの横に置いたら、ちょっと確かめたくなって、座ってみる。
「うわー何これ」
肌ざわりしっとりしてて、座ったり触ったりすると、動くのだけれど、ちゃんと体を包んで支えてくれるような。
「ひゃーきもちいい……」
くるんとひっくりかえって、むぎゅ、と抱き着いてみる。
気持ちよすぎる。
全然眠くなかったのに、眠たくなってきそうな気が……。
「きもちー……」
うわぁぁ、と心のなかでちょっと叫んでる気がする。完全に埋まってたところに、瑛士さんが戻ってきて、オレを見て笑う。
「それ気持ちいいでしょ」
「これだめですね……勉強できないです」
「まあまあ。寄りかかって、本読んだら?」
「んー……」
むぎゅ、と抱き着いていると、瑛士さんは、オレの横にしゃがんで、クスクス笑いながら、オレの頭を撫でた。
「――ほんと可愛い」
その言葉に、オレは瑛士さんをちらっと見つめた。
「瑛士さん、あの……」
「ん?」
「……可愛いって――口癖ですか?」
「え?」
「すごくよく言われてる気がするのですけど」
「――そう、だっけ? ああ、まあ……言ってるかな」
顎に手を当てて、考えてから、瑛士さんは再び、オレを撫でた。
「だって、なんか、すごく可愛いから」
「――口癖ですよね、きっと」
色んな人に言ってるんだろうな……。だとしたら言わないでっていうのも自意識過剰かな……。うーん。
と思った瞬間。コーヒーメーカーが鳴った。あ、と起き上がって、コーヒーを淹れに行く。なんとなく一緒にきた瑛士さんが、ふと、オレのスマホの画面が目に入ったみたいで。
「SNSやってるの?」
「――あ、はい」
「情報収集?」
「んー……Ωの情報収集というか。集まるとこ、というか」
「ああ、そうなんだ……少し、聞いてもいい?」
マグカップを出してくれながら、瑛士さんがオレを見つめる。
「はい?」
「そういうΩが集まるSNSって、たくさんあるのかな」
「……どう、でしょう。わかんないですね。オレは、オレのとこにしか居ないので……」
「ああ、そっか。んー」
「何でですか?」
「いや。知らないならいいよ。ありがと」
「いえ……すみません、知らなくて」
言いながらオレが、牛乳を片方に入れる。瑛士さんは「軽く聞いただけだから」と笑いながら、コーヒーをテーブルの方に持っていってくれた。
「どっちに座りたい? 凛太はテーブル使う?」
「はっ。オレ、読書なので、そのクッションの上に乗りたいです……!」
「めちゃくちゃ乗りたいんだね」
食い気味で言うと、瑛士さんは、ぷ、と笑った。
「じゃあオレ、この端座って、テーブル使うね」
「はーい」
こうして。でっかいクッションにオレは埋まって読書。瑛士さんはその端に座って、パソコンでお仕事。
めっちゃくちゃ広い部屋なのに、なんだか真ん中でひっついて座ってて、変だなぁ、と思うのだけど。どうしても、顔が勝手に綻んだ。
スマホを出して、SNS。昨日夜は全く見なかったから、連絡がちょっとたまってた。手早く返していく。
こんなに規模が大きくなるなんて最初は思わなかった。
でも、だんだん人が増えてって、鍵垢を作って、そっちも増えてきた頃には、このアカウントは、オレが将来、薬を作る時とかにも、使えるかもしれないと、ちょっと思っていた。
だって、Ωって、なかなか表には出ようとしない人が多い。薬を作るうえで、困ってる色々などを聞くのも大変だし、いざ治験となる時も、募集も、大変なのを聞くし、考えただけだって、容易に大変さの想像がつく。
Ωはとくに、信用してない人の治験には参加したくないと感じると思う。
Ωのヒートに関わる、そんな、治験。――性被害だって、ただでさえ多いのに。ほんと、ヒートとか発情とか。理性の利かないものは、厄介だ。
オレは、年齢や素性はまったく明かしてはいないけれど、ずっと前から交流して活動してるってこと。ずっと見てる人達がいる。それでも、実際、なにかするってなった時に、信じてもらうのは、まあ色々大変だとは思うけど。
それでも、いろいろ重ねていけば。きっと、何かの役にはたつ。困ってる人の話を聞き合うだけだって、絶対、役に立ってる。と思って。
途中からは覚悟を決めて、忙しい中、ずっと続けてきた。
医大に入ってからは、相談を受けることもあった。
まだ医者の卵だし、そんなことをしていいのかって思ったけれど、いくつかルールを決めた。
本当にやばいものは医者とか専門の機関に行ってもらう。
仲良しの友達にするような雑談みたいな相談なら、個人じゃなくて何人か居る、相談ルーム。「これについて相談したい」と言われたら、詳しい人や同じように困ってる人を募ったりして、コメントしあう。まあ今のところは、あくまで、雑談レベルに、敢えてしている。でもそれでもきっと、一人で抱えてる人には、助けになってる。だからこその、フォロワー数。やり取りが多いのも、その証だと、思って――。
「凛太―!」
「え。はーい」
なんか大きな声で呼ばれたので、急いで玄関に向かうと、瑛士さんが、なんだかものすごくでっかい、クッション? ふとん? を持ってきた。
「なんですか?」
寝るつもりなのかな? と笑いながら、差し出されたそれを受け取る。
「これ、座り心地いいから。下に座るなら使おう。お尻、痛くないから」
「そうなんですか」
「運んでおいて」
でっかすぎて、手に余るクッションを抱えて、オレはリビングへ。瑛士さんはまた出て行った。
ローテーブルの横に置いたら、ちょっと確かめたくなって、座ってみる。
「うわー何これ」
肌ざわりしっとりしてて、座ったり触ったりすると、動くのだけれど、ちゃんと体を包んで支えてくれるような。
「ひゃーきもちいい……」
くるんとひっくりかえって、むぎゅ、と抱き着いてみる。
気持ちよすぎる。
全然眠くなかったのに、眠たくなってきそうな気が……。
「きもちー……」
うわぁぁ、と心のなかでちょっと叫んでる気がする。完全に埋まってたところに、瑛士さんが戻ってきて、オレを見て笑う。
「それ気持ちいいでしょ」
「これだめですね……勉強できないです」
「まあまあ。寄りかかって、本読んだら?」
「んー……」
むぎゅ、と抱き着いていると、瑛士さんは、オレの横にしゃがんで、クスクス笑いながら、オレの頭を撫でた。
「――ほんと可愛い」
その言葉に、オレは瑛士さんをちらっと見つめた。
「瑛士さん、あの……」
「ん?」
「……可愛いって――口癖ですか?」
「え?」
「すごくよく言われてる気がするのですけど」
「――そう、だっけ? ああ、まあ……言ってるかな」
顎に手を当てて、考えてから、瑛士さんは再び、オレを撫でた。
「だって、なんか、すごく可愛いから」
「――口癖ですよね、きっと」
色んな人に言ってるんだろうな……。だとしたら言わないでっていうのも自意識過剰かな……。うーん。
と思った瞬間。コーヒーメーカーが鳴った。あ、と起き上がって、コーヒーを淹れに行く。なんとなく一緒にきた瑛士さんが、ふと、オレのスマホの画面が目に入ったみたいで。
「SNSやってるの?」
「――あ、はい」
「情報収集?」
「んー……Ωの情報収集というか。集まるとこ、というか」
「ああ、そうなんだ……少し、聞いてもいい?」
マグカップを出してくれながら、瑛士さんがオレを見つめる。
「はい?」
「そういうΩが集まるSNSって、たくさんあるのかな」
「……どう、でしょう。わかんないですね。オレは、オレのとこにしか居ないので……」
「ああ、そっか。んー」
「何でですか?」
「いや。知らないならいいよ。ありがと」
「いえ……すみません、知らなくて」
言いながらオレが、牛乳を片方に入れる。瑛士さんは「軽く聞いただけだから」と笑いながら、コーヒーをテーブルの方に持っていってくれた。
「どっちに座りたい? 凛太はテーブル使う?」
「はっ。オレ、読書なので、そのクッションの上に乗りたいです……!」
「めちゃくちゃ乗りたいんだね」
食い気味で言うと、瑛士さんは、ぷ、と笑った。
「じゃあオレ、この端座って、テーブル使うね」
「はーい」
こうして。でっかいクッションにオレは埋まって読書。瑛士さんはその端に座って、パソコンでお仕事。
めっちゃくちゃ広い部屋なのに、なんだか真ん中でひっついて座ってて、変だなぁ、と思うのだけど。どうしても、顔が勝手に綻んだ。
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