「トリプルSの極上アルファと契約結婚、なぜか猫可愛がりされる話」

悠里

文字の大きさ
上 下
43 / 85

43.「絶対」

しおりを挟む
「そうだ、一回ちゃんと言っとくけど」
「?」

 瑛士さんは、その綺麗な瞳を、煌めかせて、オレを少し睨んだ。

「ああいう店で働こうなんて、二度と思わないで。いい? 絶対、二度と」
「――」
 真剣な瞳を見つめ返して、オレは、頷いた。

「あの時は、とりあえず話を聞きにチャレンジしようと、確かにしてましたけど……実際何するとこだったのか、今も分かんないですし……」
「チャレンジって……だめだよ、何をするかも分からず、チャレンジしたら」
「はい」
「危ないなぁ、もう……」
 心底困ったように苦笑してる瑛士さん。

「オレが生きてればちゃんと助けるし――オレに何かあった時も、どうにかできるようにちゃんとしておくからね」
「大丈夫ですよ、オレ、わりと逞しいので。今までもなんだかんだでどうにかやってきましたし。ていうか、瑛士さんに何かあったらとか、聞きたくないです……」
「あ、ごめん。まあもしもの時の話だけど」

 可愛いなあ、と笑いながら、瑛士さんはオレを見つめる。

「なんかそういう風に聞くと、凛太も、Ωっぽくはないよね。オレに、αっぽくないって言うけどさ」
「まあ……あ、でもオレは、抑制剤とか飲まなくてもいられるし、体調が悪くないからだと思います。やっぱり、体調悪いΩは――逞しくは、いられないですよね。まあでもおかげで、オレは、運よく元気なので、瑛士さんにもそんなにご迷惑かけたりしないでいられると思います」

 ふふ、と笑ってみせると、目を細めて笑い返してくれる瑛士さんはとっても優しく見える。食事を終えると、和智さんがデザートを持ってきてくれた。目の前に置かれたお皿のデザートにびっくり。

「わぁ……綺麗ですね、なんですか??」
「さっき言ってた、カッサータ」
「宝石みたいですね。食べるのもったいない。何でこんなに綺麗なんですか?」
「チーズと生クリームの中に、ナッツとか、ドライフルーツが入ってるんだよ。綺麗に色が出るように、作ってある」
「初めて見ました~!」
 食べていいのかな。というか、いいんだろうけど、本当に食べちゃうのもったいない。
 瑛士さんと和智さんがクスクス笑いながらオレを見て言う。

「凛太、ものすごい、目がキラキラしてるよね」
「期待通りの反応、いいですね」
「新一、期待してたのか?」
「……なんか、してましたね」
「はは。可愛いでしょ」
「そうですね」

 また言ってる、瑛士さんてば。二回目……。
 なんか瑛士さんは、オレのことを「可愛いでしょ」って言うのだけど。うーん。べつにオレ、可愛くないし。瑛士さんの感覚がちょっと変わってるだけで。「可愛いでしょ」と人に聞くのはちょっと。聞かれた人も困ると思うんだよね。後でちょっと、言わないようにお願いしておこう。
 和智さんは、間髪入れずに、そうですねって笑ってくれてるけど。大人な反応な気がする。……瑛士さんの周りの人は、なんだか皆、大人で、しっかりした人ばかりだな。だから、オレみたいな年下は、可愛いってなるのかもなぁ……そんな風に思いながら。
 口に入れると、めちゃくちゃ、おいしい。

「おいしい?」
 和智さんに聞かれて、思い切り頷く。そっか、と笑いながらコーヒーを注いで、「ごゆっくり」と和智さんが離れていった。

「――なんか、瑛士さんと食べる物って……今までオレの世界には存在しなかったものがいくつもありますね」
「そっか。良かった。おいしいんでしょ?」
「はい」
「なら何より」

 ふ、と微笑む瑛士さんに、不思議になる。

「瑛士さんて。絶対αですよねぇ?」
「トリプルSだけど?」
「――どうしてそんなに、穏やかで優しいんですか? ランクが強いほど、偉そうになりそうなのに」
「んー……。嫌なαにしか会ってきてないのかな?」
 と瑛士さんが苦笑い。

「……そう、ですね……まあ一番が父なんですけど……割と、そうです。あ、もちろん、良い人も居ますけど」
「αにだって、いろいろ居るよ。それに――凛太がいい子だから、オレは今こんな感じだけど――まあ、思うことをしようって時には、多少強引なこともするし、力も使うよ」
「力ですか?」
「オレ自身の力もだし、北條家の力も。いくらでも、使うから――まあ、そっちは、君の嫌いな、オレになるかもね」
「――……」
「凛太は、バースが強い、家柄が強いとか、好きじゃないよね……嫌われないように気を付けないと」

 そんな風に言って、苦笑してる瑛士さん。

 ……嫌う? 
 オレが、瑛士さんを??

「無いですよ。嫌うなんて」
「――ん?」

「瑛士さんみたいな立場だと、優しくだけしてても駄目な時もあると思うし」
「――」

「嫌いになんて、ならない――」

 なんかすごく勢いづいて言ってしまって、はっと気づいてちょっと口を紡ぐ。

「……うん。たぶん……ならないと、思います」

 最後、ちょっと弱めに言ってみたのだけれど。
 少し真顔だった瑛士さんが、なんか、ニヤ、と笑った。

「へえ。凛太は、オレのこと――嫌いにならない?」
「――あ、えと……多分、てことですけど……」
「多分なの?」
「……まあ……多分」

 あんまりはっきり言いすぎて、ちょっと恥ずかしいので、もごもご言いながら、デザートをもぐもぐ頬張っていると。

 瑛士さんは、クスクス笑った。

「オレは――凛太を嫌いには、絶対ならないと思う」
「――え」

「絶対だよ。分かる」

 絶対。――とか言われると。
 なんか。恥ずかしいかも。


「あり、がとうございます……」
「うん」

 宝石みたいなデザートをじっと見つめる振りをして、俯いてるオレに。
 瑛士さん、ふふ、と笑いながら、頷いた。
しおりを挟む
感想 57

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。 ※(3/14)ストック更新終わりました!幕間を挟みます。また本筋練り終わりましたら再開します。待っててくださいね♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

家族になろうか

わこ
BL
金持ち若社長に可愛がられる少年の話。 かつて自サイトに載せていたお話です。 表紙画像はぱくたそ様(www.pakutaso.com)よりお借りしています。

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

手の届かない元恋人

深夜
BL
昔、付き合っていた大好きな彼氏に振られた。 元彼は人気若手俳優になっていた。 諦めきれないこの恋がやっと終わると思ってた和弥だったが、仕事上の理由で元彼と会わないといけなくなり....

処理中です...