19 / 77
19.親友
しおりを挟む瑛士さんも、忙しいけど、オレもなかなか忙しい。
勉強しなきゃいけないことが、山ほどある。
大学によって少し違うのだろうけど、一、二年生は、医師としての基礎を学んだ。
生物学や化学、英語、統計学などなど色々な一般教養と、それから、解剖学、生理学、薬理学、病理学といった基礎医学。
二年の後半からは、臨床の実習も始まり、実際の患者さんと話したり、バイタルサインを測ったりもするようになった。
三年生になってからは、臨床医学を本格的に学んでる。症状や検査の結果から、どんな病気が考えられるか、そんな訓練もする。講義に来てくれるのは大学病院で働く医師たちも多くて、実際の症例で学ぶことも多い。その他にも、自分でも講義の動画を見て勉強したり、本を読んだり、もうとにかく、覚えること、知らなければいけないことは、山のようにある。オレは、Ωを専門にしたいから、Ωについての勉強も人一倍しないといけない。
授業時間の合間、学内の喫茶店。
図書館で借りてきた本を積んで読んでいると、隣に人の気配。目を向けると、そこには、親友の姿。
「お疲れ、凛太」
「あー、おはよ、竜」
隣に腰かけた竜に、本をいったん閉じた。
「――どう、新婚生活」
ニヤ、と笑ってくるけど。
「いや、まだ結婚してないから」
「つか、いつすんだっけ?」
「んー。瑛士さんの家族。ほら、偉いおじいちゃんとか、お父さんとかに了承貰ってから」
「ああ。いつくらいになんの?」
「段取りは、瑛士さんに任せてるから。まあ別にオレは急ぐ必要ないし」
「ふーん……」
と。言いながら、持ってたコーヒーを飲み始める、芳岡 竜。大学に入ってから出会った。まだ友達三年目だけど、なんか一番気が合うというか、楽ちんというか。
αの竜に、Ωだとバレたのは、ヒートの後だった。「なんか今日、匂う」とか言われて――まっすぐな目に、嘘がつけなかった。
最初はバレちゃってどうしようかと思ったけど、竜は誰にも言わないし、オレとは完全に友達のまま。
たまに、「ヒート三日で落ち着いた~」とか思いながら浮かれて大学に行くと、気付いた竜に「帰れ」とか注意されたり。なんか、なぜか竜は、オレの匂いが分かるみたい。
まあ、オレと竜って、まったくそういう雰囲気もないし。
竜の好みは、気が強そうな、超綺麗なαの女の子らしいから、オレとはかけらもかぶらない。
竜曰く「匂うけど、反応しないから平気」とか。え、どんだけ、オレのフェロモンて弱いの? って、そのたび思うけど。まあ他の人には気づかれもしないから、竜がものすごく敏いのか。
まあ、バレたけど、なんか全然普通に仲良し。
竜は、まっすぐな黒髪で、少し長めの髪をたまに掻き上げる。ぱっと見はクール、というか……冷たく見えるみたいで、毒舌というか、ぶっきらぼうに面倒くさそうに話すし。特にあんまり好きじゃない奴への対応はちょっと、クールすぎるけど。
眼鏡越しに、冷たく思える視線が飛んできて、ビビる人はいるけど、オレは、その視線が、たまにおかしそうに緩むとこまで見ていられるから、竜のことは怖くない。
今はお互い白衣だけど、いつも割と、きちんとした格好をしている。ジャケットとか。カッコイイ奴なんだけど、私服は崩して着るから……まあ、それも、ガラが悪くて怖いと感じる人は居るみたい。
困ってると助けてくれたりするし。――でもなんか余計なこと言って、ぐっさり刺して笑ったり。
基本的にはいい奴なんだけど。周りに「良く分からない」と思われがち。
何で仲が良いかは――オレが、竜のこと、平気だからかも。怖くもないし、圧倒されもしないし。
出来も良くて、特別視されがちな竜は、フラットに話すオレが楽って、前言ってた。
瑛士さんに、「友達一人だけ、契約結婚のこと、話したい」といった相手は、竜。
――と言っても。
契約結婚の話をしたら、すっごい、嫌そうな顔を、された。
少し説明した時点で、大きなため息とともに、
「ほんとに結婚するっていうなら、超祝福してやるけど。だって、なんかお前、一生そういうこと無さそうだから……」
と、結構ひどい言われ方もした。まあ事実だけど。
あとは、「初対面でそんなこと頼む奴、ろくでもないから関わるな」っていうのも、かなり言われた。
でも、一つ一つ、説明して、オレと瑛士さんの状況と、メリットとデメリットを話してたら、その内「まあ、ありか」と言ってくれた。
そういうとこ、結構好き。
ちゃんと考えてくれて、最初にした反対も、覆してくれるとこ、とか。
1,505
お気に入りに追加
2,771
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。
孤独を癒して
星屑
BL
運命の番として出会った2人。
「運命」という言葉がピッタリの出会い方をした、
デロデロに甘やかしたいアルファと、守られるだけじゃないオメガの話。
*不定期更新。
*感想などいただけると励みになります。
*完結は絶対させます!
鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?
桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。
前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。
ほんの少しの間お付き合い下さい。
ベータですが、運命の番だと迫られています
モト
BL
ベータの三栗七生は、ひょんなことから弁護士の八乙女梓に“運命の番”認定を受ける。
運命の番だと言われても三栗はベータで、八乙女はアルファ。
執着されまくる話。アルファの運命の番は果たしてベータなのか?
ベータがオメガになることはありません。
“運命の番”は、別名“魂の番”と呼ばれています。独自設定あり
※ムーンライトノベルズでも投稿しております
総長の彼氏が俺にだけ優しい
桜子あんこ
BL
ビビりな俺が付き合っている彼氏は、
関東で最強の暴走族の総長。
みんなからは恐れられ冷酷で悪魔と噂されるそんな俺の彼氏は何故か俺にだけ甘々で優しい。
そんな日常を描いた話である。
傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる