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10.秘書さんと弁護士さん
しおりを挟むその後は、料理の話ばかりしていた。
味付けとか、ただただおいしい、とかそんな。
調理法とかも話してくれるので、瑛士さんは多分料理できる人だな、という感想。
まあでも忙しくてやってる暇なさそう。とにかくいろいろ忙しそうっていうのも、話してて分かった。
「失礼します」
扉が開いて、お店の人と一緒に、二人の男の人が入ってきた。
二人とも、スーツ。一人が少し年上っぽいけど。弁護士さんのことは悪友って言ってたから、年上っぽい人が、秘書さんかなぁ。なんかちょっと、ドキドキする。
「悪い、呼び出して。食べる?」
瑛士さんの言葉に、二人はそろって首を振った。
「揃って、急いで来てと呼び出されて、何事かと思ってるところですので。話を先にしてほしいです」
秘書さんぽい人の、言葉。
店員さんが椅子を持ってきて、丸いテーブルに二つ、椅子を追加した。
「拓真さん、コーヒーでいいですか?」
「お願いします」
「ふたつお願いします」
秘書さんぽい人が店員さんにお願いして、店員さんが出ていくと、新しく来た二人は、オレに視線を向けた。ドキ。入ってきた時から、食べるのはやめて、その様子を見ていたのだけれど。二人とも、近づいてきて、順番に名刺を差し出した。慌てて立ち上がって、名刺を受け取る。
秘書さんぽいって、合ってた。秘書課と書いてある名刺の名前は「楠 京也」さんと。もう一人の弁護士さんは「有村 拓真」さん。
「三上 凛太です……医大の三年生です」
言って、お辞儀をする。
ここからどうしたら、と思ったところで、瑛士さんが「とりあえず三人とも座って」と笑った。
「凛太、食べてていいよ。オレが説明する」
え、いいのかな、と思っていたら、「どうぞ」と秘書の楠さんが笑ってくれた。弁護士の有村さんも、頷いてくれる。コーヒーが運ばれてきて、二人も飲み始めたので、オレはとりあえず食べてることに決めた。
「三上凛太くん。Ωの子で、さっき、知り合ったんだけど」
瑛士さんがそう言うと、二人がこちらに視線を向けた。オレがΩなのか、不思議に思ってそう。
……ていうか、この二人は、多分、αなんだろうなあ。αの周りって、αが集まるよね。家柄も関係あるのかもしれないけど。
「ほら、オレさ。ずっと言ってたよな、見合いとか交際の申し込みも、全部いらないって」
瑛士さんが自分の現状について話し出すと、二人はまた瑛士さんに視線を戻した。オレは、静かに食事をしながら、二人をちょっと観察。
楠さんは、アクセサリーは全くついてない。ネクタイピンだけ。穏やかな色のスーツ。髪の毛はこげ茶っぽい。前髪は分けてて、サイドに流してて、なんかすごく、整った印象。
椅子に座るとすぐにさりげなく手帳と筆記用具をテーブルに置いた。なんか色々、手際が良さそう。――きちんとしてて、この人が秘書なら、仕事、すごくスムーズにできそう……とか思ってしまう感じの人。優しい感じの笑みを浮かべてる。
有村さんは――ちょっとパッと見、怖いかな。銀のブレスレットが目立つ。すごく、弁護士さんってイメージ。何があっても守ってくれそうな、意志を感じる瞳。……強そう。
でもさっき、名刺を渡してくれた笑顔は優しかったから……多分、味方としてなら頼もしいかも……。短めの整った黒髪。姿勢がすごく良い。悪友って言ってたから……瑛士さんと友達ってことだよね。ちょっとタイプ違うように見えるけど……でも仲良しってことは、普段はもっとくだけてる感じなのかなあ。
と、今、分かる感じはそんな感じ。
とりあえず。
オレの人生では、この人達みたいな人も。会ったこと無いかも。
今日はほんと。
不思議な日になりそう。
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