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5.戸籍にバツ?

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「――君は、Ωなんだよね? 全然なにも感じないけど。でもそれ、お互い様っぽいよね? オレのフェロモンとか、少しでも感じて……なさそうだよね?」

 なんか面白そうな顔してそんなことを聞かれる。

「んと……オレは――あなたと真逆ですね」
「真逆?」
「ランクを判定できないって言われました。Ωの要素が薄すぎて」
「そんなこと、あるんだ?」

 意外そうに聞いてくる北條さんに、オレは静かに頷いた。

「あるみたいです。でも一応、Ωみたいで。でも、フェロモンとか、普段はほとんど感じないです」
「そうなんだ。そっか……んー……なんかそれ、オレにとって、すごく助かってしまうかも……」

「――? 判定不能が、ですか?」

 助かるって何だろう。と首を傾げていると。

「いや、そっちじゃなくて――ごめんね、オレの話、聞いてくれる時間、ある?」
「――うーん……」

 オレのさっきまでの予定としては、あの店に話を聞きに行って、とりあえず、今後どうするか決めて、それから、昼と夜のご飯の買い出しして、帰って勉強、だったんだけど。

「じゃあさ、あそこのレストランで好きなものを奢るよ。話を聞いてもらう報酬ってことで。で、おまけに、夕飯も何かテイクアウトで渡す。一時間くらいで、話は済ませるから。その後のことは、その話の流れ次第で」

 えーどうしようかなあ、と思いながら、北條さんが指差した店に視線を向けると。
 そこは、絶対行けないと思う、超高級料理店。

 まあ、お金は持ってるけど、使いたくないから、日々、貧乏学生みたいな暮らしだし。
 使うとしたって、あんなお店、メニューすら良く分からなそうだから一人では入れないし。この機会を逃したら一生入れないかもって思うと。頷く以外の選択肢はなかった。

 ニッと笑った北條さんは、オレの背にぽんぽん、と優しく触れて、歩き出した。


 なんだか重そうに見える扉を、北條さんが開けてくれる。中に入ると、柔らかい照明と、絨毯。なんだろう、美術館とかみたいだ。
 すごく静かで、飾られてる花や絵が綺麗で、ドキドキしてしまう。

 ――絶対この店、この人が居なかったら、入ってからもどうしていいか分からないよなぁ。と苦笑してると、迎えてくれた店員さんに、北條さんが話しかける。

「今日は個室がいいんだけど、空いてますか?」

 ドキドキしながらただ立ってるオレ。
 ――んー。服装だけでも、オレ、かなり場違いだなぁと、今更なことに気付く。

「ご案内します」
 にっこりと微笑む店員さんは、奥に案内してくれた。そこは完全に個室で、二人きり。二人で使うには広すぎると思うくらいの部屋だった。

「肉と魚、どっちが好き?」
 不意にそう聞かれて、「どっちも好きです」と答えると、ん、と微笑んで。

「――じゃあ両方。全体的に食べやすそうなものを」
「かしこまりました」

 優雅に微笑んで、店員さんは出て行った。オレが密かに、ふー、と息をついていると。

「緊張しなくていいよ。もうここから二人だし。好きに食べてくれていいから」
「――ありがとうございます」

 優しい言い方に、ちょっと肩の力が抜ける。椅子に腰かけて、部屋を見回す。壁には絵が飾られていて、テーブルには白いテーブルクロス。綺麗なガラスに飾られた花が、とても綺麗。

 テーブルの上に、丁寧にたたまれたナプキン。

「――なんかこれ、芸術作品みたいですね」
「ん? ああ、ナプキン? 確かに。そうだね」
 嫌味じゃなく、ふ、と微笑んで北條さんは頷いてくれる。あほなこと言っても、馬鹿にもしないんだなぁ。
 やっぱり、αっぽくはない。これがトリプルSかぁ……。

「あ。お話って、何ですか?」
「ん。そうだね……何から話そうかな」
「――はい」

 少し考えから、北條さんは、オレをまっすぐに見つめた。

「これだけ先に聞いておきたいんだけど……あ、その前に、名前、りんたくんって、どんな字?」
「凛としてる、に、太いって書きます」
「凛太くんか。良い名前だね。凛とするって字は綺麗だけど、太がつくと、可愛いし」

 ふふ、と笑われて、「ありがとうございます」と笑ってしまう。可愛いって初めて言われたかも。


「凛太くんさ――戸籍にバツがつくことについて、どう思う?」
「……離婚とかで、ですか?」
「そう。名前、大事だよね。その戸籍に……ってこと」
「別に……離婚したら、バツがつくのは仕方ないんじゃ……?」


 北條さんの質問に答えながらも、何の話だろ? と不思議に思う。




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