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第四章
43.来てくれて*真奈
しおりを挟む西条さんが用意してくれた部屋は、二階、俊輔の部屋のちょうど上の辺りだった。
窓が大きくて、明るい。
一通り生活に必要なものはあるような。冷蔵庫を開けたら、飲み物とかも色々入ってた。トイレとシャワーとかも全部中にあって、「部屋」というよりは、「マンションの一戸」みたいな感じ。……このお屋敷、どれだけ広いんだろう。三階とか、何があるんだろ。この部屋、一人で夜戻って寝るだけに使うには、もったいない位、広い。
――荷物を運びこんで、ちょっと息をついてると、ドアを開けたままだったからか、下の階から声が聞こえた。
あ。帰ってきた。
「真奈は?」
俊輔の声が聞こえた。西条さんが「お部屋の方に」と言ってるのも聞こえて、オレは、二階の廊下から、下を覗きこんだ。
「おかえりなさい」
そう言うと、俊輔と瀬戸さんが一緒に振り仰いだ。
「ただいま」
なぜか瀬戸さんの方がちゃんと返事してくれてる。なんかおかしいな、と思いながら、階段を下りると、俊輔と目が合う。
「レポートは? 進んだか?」
「うん。瀬戸さんのおかげで、いっこあと少し。もう終わる。明日までにもうひとつふたつくらいはやっちゃおうかなって思うけど」
そうか、と頷いた俊輔の隣で、瀬戸さんがちょっと首を傾げた。
「真奈くんの大学って、そんなにいくつも、この時期にレポートしないといけないの? なんだか大変だね」
「――――」
いや……ほんとは無いかなぁ、この時期は。ただオレが、俊輔のとこに居て、学校に行けてなかったかわり、だし……。
ちょっと答えに困って、考えていると。
「たまたま重なったんだよな?」
俊輔の言葉に、うんうん頷いておく。
「手伝えることがあったら言って。とりあえず一週間くらいはいるから」
「はい。ありがとうございます」
お礼を言って、瀬戸さんを見上げると、ふ、と微笑む。
「真奈くんて、お酒飲める? 二十歳?」
「はい。二十歳になったばかりで……まだちゃんと飲んだことはなくて。飲めないです」
「なったばかり? そうなんだ。じゃあ、今日一緒に少し飲んでみる? ……と思ったけど、夜もレポート?」
「あ、はい。少しやろうかなって……」
お酒とかは二人で飲んでてほしいと思って、そう伝える。ていうかオレがそこに入る意味……。なんかまだ、凌馬さんなら、なんかいろいろ知られてるし気を使わなくて済みそうだけど、なんかこの人、まだ良く分からない。勉強教えてくれて、そこはすごく分かりやすかったけど。
俊輔があまり言わないんだから、オレも余計なこと言わない方がいいのだと思うけど、うっかりしそうだから、オレはなるべく絡まずに居たい。
その後、二人は俊輔の部屋に入っていったので、オレは、そこに置いたままだったパソコンとか本を持って、新しくできた部屋に行くことにした。一人で課題やってきます、と言って出てきたから、不自然じゃないよね。
――って、何でオレが、こんなに気を使わなければいけないのかは、なんだか謎すぎるのだけれど。
俊輔は、オレにここに居てほしいみたいっていうのは、こないだ分かったし。……嫌なことはしないって言ったからなのか、抱いたりもしなくなったし。抱かなくても、ここに居てほしいんだって思うと、それは何のためにって、逆に思う。……まだ、嫌がるオレをいたぶるのが好きなドSだとか、性欲処理みたいなのにちょうどよかったんだなーと思ってた前の方が、居てほしい理由っていうのは、分かってたような。
それが無くなっちゃったのに、なんかやたら気を使ってくれるし、学校に迎えに来てくれちゃったり、課題手伝ったくれたり。こないだ脱走して迎えにきてくれて、帰ってからの俊輔だけ見てたら――俊輔は、すごく普通に、いい奴だったりするから。
…………って今オレ、「迎えに来てくれて」とか言ったな。
普通に迎えに来てほしかったみたいだなぁ……。
……俊輔も分かんないけど、オレ、自分もよく分かんないんだよな……。
ふと気付いた自分の思考の中の、何気ない言葉に、なんだかモヤモヤしながら、とりあえず課題を進めることにした。
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