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第四章
39.誰なの。*真奈
しおりを挟む最初は、この人は誰なんだろうと思いながらだったけど、時間が経つにつれて、それも無くなった。だって、なんだか、すごく説明が上手なんだもん。分かりやすい、聞きたいこと、分かってくれて、レポートがめちゃくちゃ捗ったし、絶対、レベルが格段に上がったと思う。
「わー、なんか、すごくいいレポートになりそうです……」
ありがとうございます、と言ったら、瀬戸さんは微笑んだ。
「それは良かった」
さすがだ―。やっぱり塾の先生って頭良いなぁ。オレの良く分かんない質問に、あんな的確に答えてくれるとか。ほんとすごい。
「瀬戸さん、コーヒーは、好きですか?」
「うん」
「淹れてきますね」
そう言うと、「ありがと」と笑う瀬戸さん。単純だけど、あっという間に、この人は、良い人だという認識に収まってしまった。
キッチンでコーヒーメーカーを準備してると、瀬戸さんも近づいてきて、オレを見て、笑う。
「俊輔の部屋で、普通にコーヒー淹れてる君が、やっぱり不思議なんだけど」
「あ……ですよね」
やっぱり、良い人認定は早かったかな。……ちょっと探られてる??
そう、この人、俊輔の何なんだろう。聞いても、良いかな。
電源を入れてから、オレは、瀬戸さんを見上げた。瀬戸さんの目はとても穏やかで、悪い人ではないと思う。そもそも中で待っててってことなんだから、親しい、のかなとも思うし。
関係を聞きたいけど、オレは自分のことを説明できないから、やっぱり聞かない方がいいのかな。どうしよう。心の中で葛藤が続く。
悩みまくっていたその時、がちゃ、とドアが開いて、俊輔が入ってきた。俊輔が、オレと瀬戸さんを見つけた瞬間に、部屋の空気が変わった。離れてても分かるくらい、俊輔は、はっきりと眉を寄せた。
とっさに「おかえり」と言ったオレに頷いて見せながら、俊輔が近づいてきた。
「瑛貴、なんでここに居るんだよ? 客間に居ろっつったじゃん」
「暇だったから、本を借りようと思ったんだよ。つか、久しぶりなのに、第一声が機嫌悪すぎ」
「……」
瀬戸さんはあくまで穏やかだ。俊輔がムッとして一瞬黙ると、瀬戸さんがオレを見て、クスッと笑った。
「ていうか、おかえり、なんだね」
「え?」
「真奈くんが、俊輔にいう言葉。おかえり、なんだなーと思って」
……今だけは言わなきゃよかったのかもしれない……。
どうしよう、と思っていると、瀬戸さんは、すぐ俊輔に視線を移した。
「オレだって、すぐ本を借りて客間に行こうと思ってたんだけどさ。なんか、一人で、俊輔の机にちょこんと座っててさ。誰かなって話してたら、なんか課題やってるし。しかも、オレの得意分野だったから。見てあげてた訳。ね?」
「はい。すごく助かりました」
「ほらね? 真奈くんの役に立ってあげてんだから、許せよ」
クスクス笑って言う瀬戸さんに、俊輔は、ちら、とオレを見る。
うう。なんか気まずい。
あ、オレ、まだ余計なことは、話してないからね、と言いたいけど、なんかそれもどうかと思うので言えない。
と、そこに、西条さんが現れて、オレ達三人を見つけると、「瑛貴さん、こちらにいらしたんですね」と苦笑した。多分、この場の雰囲気を、何か悟ってるんだろうなと、思うけど。……そもそも、誰なの―この人―。と心の中は、そればかり。
「なあ、西条さん、この子、誰? 西条さんは知ってる?」
瀬戸さんの言葉に、西条さんは苦笑して、それからオレを見た。
「真奈さんは話してらっしゃらないんですか?」
「そう。真奈くんは、俊輔に聞いてくれって言うから」
ね、と瀬戸さんは笑顔でオレを見る。
なんとなく、微妙な感じで、小さく頷いた。
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