125 / 141
第四章
36.「本当にいやなこと」*真奈
しおりを挟む「――変な顔してるな?」
俊輔がオレを見て、少し考え風で、そんな風に言う。
「……変な顔って?」
「自分で分かってるんじゃねえの?」
俊輔は電気を消してオレに近づいてくると、ベッドの端に腰かけた。
「――――」
何も言わない俊輔に、オレも何も言えずにいると、「真奈」と呼ばれて、腕を取られた。そのまま、俊輔の腕の中に入って、ベッドに横になる。
しぱらく、黙ったまま。
「――――何考えてる?」
すぐ近くから、俊輔の静かな声がする。
「……なんか、よく分かんない」
「――――……」
しばらく、返事がないし。オレも言葉が出ないし。
……なにか言った方がいいかな。
でも……オレ、いつまでここにいる? とか聞くのも、変だよね。きっと分かんないだろうし。ていうか、俊輔が、オレのこと、居なくていいと思った時が、オレがここを出る時、なんだろうし。
そんなのきっと、俊輔にも、分かんないだろうから、聞いても無駄なんだろうなって、思うし。
――――なんかオレって、俊輔のところに来るまでは、思ってたこと、隠したり、言わなかったりすることは無かったような気がするんだけど。飲み込むことが増えて、それに慣れちゃってたなぁ。あんまよくない変化だと思うから……これは、直したいけど。
そう思いながらも黙っていたら、俊輔が、ふ、と笑ったような気がした。
「……?」
気のせい? 思わず顔を見上げると。
小さなルームランプの中で、俊輔がちょっと可笑しそうに笑ってる。
「同じだと思う」
「……え?」
「オレも色々よく分かんねぇから」
「――――……」
何が? と思ってると、動かされて、枕の上に仰向けにされたオレを、上から腕で囲った。
俊輔をただ、まっすぐ見上げる。
――――ほんとに、顔。整ってるなあ。こんな綺麗な顔した人、いるかな、と思ってしまうくらい。
……出会った当時は、整ってるからこそ余計に、死ぬほど怖かった。
なんかもう、この綺麗な冷めた瞳からは何も読み取れず、ほんとに何考えてるか全然分かんなかった。
……今も、何考えてるかは、分からないんだけど。
まっすぐ、俊輔の瞳を見つめ返していると。
俊輔は、ニヤ、と笑った。
「真奈」
「……うん」
「――――オレは、お前を無理矢理ここに連れてきただろ」
「え。……あ、うん……」
なんだかものすごく答えにくいながらも、頷くと俊輔が続けた。
「それでお前は逃げただろ」
「……うん」
「――――凌馬が逃がすと言っても、それでも、ギリギリ、ここに戻ることを選んで、帰ってきてくれたから」
帰ってきてくれた、という言い方が何だか、嬉しくて。
……ん、と頷くと。
「分かんねえこと、たくさんあるけど」
「……」
「……とりあえず少しずつ、クリアしてくつもりだから」
「……ん」
「何か嫌なことがあったら、言えよ」
「……うん」
嫌なこと。
多分俊輔が想定してる「オレが嫌がること」とは、かけ離れてるんだろうなと、なんとなく感じる。
今オレが考えてる、本当に嫌なことは、多分。
ここから追い出される日は、いつだろう、とか。
――そういうのだって、言ったら、俊輔は、何ていうかな。
かなりドキドキ。言ってみようかなと、一度、きゅ、と唇を噛みしめたら。多分何か勘違いしたみたいで。俊輔は、オレの上からずれて、隣に寝転がると、オレを引き寄せた。軽く、肩に手を置いて、「とりあえず、明日も早いから。寝ようぜ」と呟いた。
「明日も図書館でやるか?」
「……ぁ、うん。パソコン、持っていって打ち込んで、終わるものから終わらせてくるね」
「じゃあまた迎えに行く」
「……ありがと」
頷いて、そのまま瞳を閉じていると。
――――……ゆっくりと、眠気が襲ってくる。
……こんな風に近くに抱き寄せられて、毎日眠れちゃうのは。
やっぱりオレは、俊輔のことが怖くはないし、むしろ、なんか、安心してるってことだと思うのだけれど……それは、俊輔には、伝わってないのだと思う。
……言わないと。
そう思いながらも、思考がだんだん霞んでいって、何も、言えないまま、眠りに落ちていた。
420
★読んでくださってありがとうございます(^^)
★楽しんで頂けてましたら、ブクマ&感想などよろしくお願いします♡(好き♡とか短くても嬉しいです♡)
★楽しんで頂けてましたら、ブクマ&感想などよろしくお願いします♡(好き♡とか短くても嬉しいです♡)
お気に入りに追加
1,398
あなたにおすすめの小説
トップアイドルα様は平凡βを運命にする
新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。
ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。
翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。
運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。
運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー
白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿)
金持ち社長・溺愛&執着 α × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω
幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。
ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。
発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう
離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。
すれ違っていく2人は結ばれることができるのか……
思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいαの溺愛、身分差ストーリー
★ハッピーエンド作品です
※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏
※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m
※フィクション作品です
※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです
「トリプルSの極上アルファと契約結婚、なぜか猫可愛がりされる話」
悠里
BL
Ωの凛太。オレには夢がある。その為に勉強しなきゃ。お金が必要。でもムカつく父のお金はできるだけ使いたくない。そういう店、もありだろうか……。父のお金を使うより、どんな方法だろうと自分で稼いだ方がマシ、でもなぁ、と悩んでいたΩ凛太の前に、何やらめちゃくちゃイケメンなαが現れた。
凛太はΩの要素が弱い。ヒートはあるけど不定期だし、三日こもればなんとかなる。αのフェロモンも感じないし、自身も弱い。
なんだろうこのイケメン、と思っていたら、何やら話している間に、変な話になってきた。
契約結婚? 期間三年? その間は好きに勉強していい。その後も、生活の面倒は見る。デメリットは、戸籍にバツイチがつくこと。え、全然いいかも……。お願いします!
トリプルエスランク、紫の瞳を持つスーパーαのエリートの瑛士さんの、超高級マンション。最上階の隣の部屋を貰う。もし番になりたい人が居たら一緒に暮らしてもいいよとか言うけど、一番勉強がしたいので! 恋とか分からないしと断る。たまに一緒にパーティーに出たり、表に夫夫アピールはするけど、それ以外は絡む必要もない、はずだったのに、なぜか瑛士さんは、オレの部屋を訪ねてくる。そんな豪華でもない普通のオレのご飯を一緒に食べるようになる。勉強してる横で、瑛士さんも仕事してる。「何でここに」「居心地よくて」「いいですけど」そんな日々が続く。いろいろ距離がちかくなってきたある時、久しぶりにヒート。三日間こもるんで来ないでください。この期間だけは一応Ωなんで、と言ったオレに、一緒に居る、と、意味の分からない瑛士さん。一応抑制剤はお互い打つけど、さすがにヒートは、無理。出てってと言ったら、一人でそんな辛そうにさせてたくない、という。もうヒートも相まって、血が上って、頭、良く分からなくなる。まあ二人とも、微かな理性で頑張って、本番まではいかなかったんだけど。――ヒートを乗り越えてから、瑛士さん、なんかやたら、距離が近い。そんな風に見つめるの、なんかよくないと思いますけど。というと、おかしそうに笑われる。そんな時、色んなツテで、薬を作る夢の話が盛り上がってくる。Ωの対応や治験に向けて活動を開始するようになる。夢に少しずつ近づくような。そんな中、従来の抑制剤の治験の闇やΩたちへの許されない行為を耳にする。少しずつ証拠をそろえていくと、それを良く思わない連中が居て――。瑛士さんは、契約結婚をしてでも身辺に煩わしいことをなくしたかったはずなのに、なぜかオレに関わってくる。仕事も忙しいのに、時間を見つけては、側に居る。なんだか初の感覚。でもオレ、勉強しなきゃ!瑛士さんと結婚できるわけないし勘違いはしないように! なのに……? と、αに翻弄されまくる話です。ぜひ✨
表紙:クボキリツ(@kbk_Ritsu)さま
素敵なイラストをありがとう…🩷✨
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

それ以上近づかないでください。
ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」
地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。
まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。
転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。
ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。
「本当に可愛い。」
「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」
かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。
「お願いだから、僕にもう近づかないで」
元ベータ後天性オメガ
桜 晴樹
BL
懲りずにオメガバースです。
ベータだった主人公がある日を境にオメガになってしまう。
主人公(受)
17歳男子高校生。黒髪平凡顔。身長170cm。
ベータからオメガに。後天性の性(バース)転換。
藤宮春樹(ふじみやはるき)
友人兼ライバル(攻)
金髪イケメン身長182cm
ベータを偽っているアルファ
名前決まりました(1月26日)
決まるまではナナシくん‥。
大上礼央(おおかみれお)
名前の由来、狼とライオン(レオ)から‥
⭐︎コメント受付中
前作の"番なんて要らない"は、編集作業につき、更新停滞中です。
宜しければ其方も読んで頂ければ喜びます。
皇帝にプロポーズされても断り続ける最強オメガ
手塚エマ
BL
テオクウィントス帝国では、
アルファ・べータ・オメガ全階層の女性のみが感染する奇病が蔓延。
特効薬も見つからないまま、
国中の女性が死滅する異常事態に陥った。
未婚の皇帝アルベルトも、皇太子となる世継ぎがいない。
にも関わらず、
子供が産めないオメガの少年に恋をした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる