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第四章

33.「キスなんて」*真奈

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 西条さんから、スマホを返してもらって、手の中にある。
 ……久しぶりに、触った。メッセージアプリを開くと、すごく懐かしく感じる、皆の名前。大学の人には結構会ったからもういいとして、それ以前の友達が……なんか結構な数の連絡が来ていて、ヤバいなぁこれ、と思いながらソファに座った。

 うわー……。
 開けば開くほど、眉が寄っていく。

「真奈、シャワー浴びるか?」
「あ。あの。先に浴びて? ……オレ、この、ヤバそうなやつだけ、返事先にしてもいい?」

 じっと見つめられて、そう返すと。俊輔は頷いて、そのままバスルームに入っていった。

 ……良かった。
 なんか。一緒に入るの……ドキドキしてしまいそうで。

 …………まあスマホがヤバいのも本当なんだけど。
 返事しろーっていってるのは、まあ、病気で入院しててスマホ壊れてて、っていう理由を言えば、許してくれそうかな。なんかこれ、オレが返事しないで関係絶ったって思ってる奴も居そうだなあ。と、どんよりな気分……。既読がついてないからまだマシかな……壊れてたっていう理由が通るかも?

 キリがないので、説明を打って、コピペで送信していく。
 入れた瞬間に返事が来るのもあるけど、とりあえずまずは、必要そうな友達に送信。それが終わってから、すぐ来た返事に、それぞれ対応していく。

 ……結構大変……。
 うー、と必死でポチポチし続けていたら、いつの間にか出てきていた俊輔が、すぐ後ろに立って、オレの肩に触れた。見上げると。……なんだかお風呂上り、色っぽい感じがかなり増す、迷惑な感じの人が、オレを見つめた。

「入ってこい」

 そう言われて、ん、と頷いて、スマホを下に置いた。置いた瞬間、ぶぶ、と震動。そのまま置いていこうかなと思ったけれど、またすぐ震える。これはうるさいな、と、オレは、マナーモードに切り替えてから、スマホを置いた。

「入ってくるね」
 そう言って、着替えを持ってバスルームへ。

 ――――俊輔、あんまり連絡とってると、怒るかなあ。
 そう思いながら、頭を洗う。
 んーでもなあ。とりあえず今のやりとりはちゃんとしちゃいたいよな。また音信不通みたいになるのも変だし。


 と、そこまで考えて、ふと、止まった。


 オレが、誰かと連絡とってるのを、俊輔が怒るって。
 あれ。……何でそう思うんだろう。
 さっきも、貰ったスマホに、友達の連絡先入れたら怒るかなあって。
 それって、何が理由で怒るって、思ってるのかな……。

 ……嫉妬……とか。
 …………俊輔が嫉妬するってオレ、思ってるのかな。

 ………………それ言ったら、そっちですごい怒られそう。自意識過剰って、絶対怒られる……!

 ていうか、もう、オレ、もう何言っても怒られそうな気がしてきた。
 怒ったからって、何かするとか、そういうのは無いって思ってるから怖いとかじゃないけど。やっぱ、怒られるのはやだなぁ。

 うーん、と考えながら、パジャマを着て、髪を乾かす。

「ただいま……」

 西条さんは居なくて、俊輔と二人。そう言って、オレは、俊輔が座ってるソファの隣に腰を下ろした。

「飲むか?」
 俊輔が飲んでたペットボトルの水を見せられる。うん、と頷いて受け取る。何の気もなく、一口飲んで、ふと。
 ……普通は、同じので、飲まないよね。とか。気になってしまった。

 ――――……ていうか。
 普通は、一緒に暮らしてないか。

「ありがと……」
 なんかオレ、考えすぎかも、と思いながら俊輔にペットボトルを返す。受け取った俊輔の手が、オレの手首をつかんだ。そのまま引き寄せられて、気付いたら、その腕の中に埋まっていた。


「――――……」

 ……えっと。
 ベッドで寝る時以外で、こんな感じは、久しぶり、かも。

 何だかドキドキしてしまって、動けない。
 心臓の音が。……うるさい。何でこれ、こんな……。



「――――……」

 至近距離で見つめられる。
 少しも逸らすことができない位、まっすぐ。

 俊輔の瞳が少し伏せて。
 ……キス、される時の。雰囲気。

 ドキドキが、ますますひどくなって。
 あと、少しで触れる、となった時。


 ノックの音とともに、すぐに、ドアが開いた。


「若、紅茶などいかがです……」

 言いかけた言葉を止めて、西条さんがこっちを見てるけど。
 俊輔とオレは、びく! と震えて、咄嗟に離れた後だったけど。

 座ってる俊輔と、そのそばで、赤くなって立ってるオレ。絶対何か思われてるだろうけど何も言えない。俊輔が、ちら、と西条さんを見た。 

「……前から思ってたけど、お前のノック、何の意味も無いよな」
「今まであまり困ったことがなかったので。これからはノックの後、待ちましょうか?」

 クスクス笑う西条さんに、俊輔は、もういい、とため息をついてる。


「パ、ソコン、持ってくるね……」
「ん……ああ」

 何か言いたげだったけど、そのまま離れて、さっき鞄と一緒に置いてきたパソコンの所に逃げることにした。
 

 ……キスなんて。
 死ぬほどしてたのに。


 
 なんでこんなに、胸がヤバいんだろう。





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