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第四章

29.「怖くない」*真奈

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 何だかとっても豪華でおいしそうなお弁当。

「俊輔は、ごはんは?」
「帰ってすぐ食べてきた」
「あ、そうなんだ。……じゃあ、頂きます」
「ん」

 袋から出した水筒、見せてくれながら。

「緑茶だって。死ぬほどうまいからって、和義が言ってた」
「え。なんかすごい……」

 そう言うと、少し笑んだ俊輔が、水筒の蓋になってたコップにお茶を入れてくれて、渡してくれる。
 ……俊輔に、お茶を注いで貰ってしまった。
 なんだか目をパチパチ、何度も瞬きしてしまいながら、受け取って、少し飲んだ。

「わ。ほんとだ。美味しい。なんか甘い」
「――――……」

 思わず、笑顔になってしまって、もう一口。なんだかすごく視線を感じるので、俊輔を見つめ返すけど、何も言ってくれない。

「……俊輔も、飲む?」

 はい、と渡すと、一応受け取ってくれて、コップをあおる。

「美味しい?……よね?」
「……ん。そうだな」

 あ、良かった。微笑んでくれたという、こんなことになんだかホッとしてしまう。
 変なの。ほんとオレ。

 別に今、俊輔のこと、もう怖くないし。俊輔の反応にいちいちビクビクしてる訳でもないんだけど……。

 なんとなく。俊輔が嫌なことはしたくない、と思ってるみたい。
 俊輔が、少しでも笑ってくれると、嬉しくて、答えてくれると、ほっとして。

 ――――……ここに、居てくれることも、なんか、謎だけど、嬉しいような……?

 追加で入れてくれたお茶のコップをオレの隣に置いて、俊輔が取り出したのは、もう一つの水筒。

「何が入ってるの?」
「コーヒー。和義に持たされた」
「ブラック?」
「あぁ。……でも、砂糖とクリーム、お前用に持たされた」
「――――……ふふ」

 なんかありがと、と言いながら、くす、と笑ってしまう。
 俊輔がまたオレを見てるので。

「……?」

 何だろうと、目を合わせると、俊輔はふ、と視線を逸らした。

「……食べたら、戻るぞ」
「あ、うん」 

 何となく急いで食べようと思ってたら、コーヒーを飲んでる俊輔が、「ゆっくりでいい」と、ぽそ、と呟く。

 ――――……。

 ん、と頷いて、また普通のスピードで。

「――――……」

 なんか。
 オレ。どうしてたらいいか、分かんなくなってくるなあ……。

 怖いわけじゃないけど、いつもドキドキしながら、俊輔の反応を気にしてて。はっきり、喋れてない気もするし。……俊輔は、こんなオレと居て、何が楽しいのかなあって、思ってて……。

「真奈」
「……?」

「――――……一つ、いいか」
「……うん?」

 改まって何だろうと、ドキドキしていると。


「こないだも、言ったけど…… 今も、オレのこと、怖いか?」

 そんな質問に、ぽけ、と俊輔を見つめてしまう。

「まあ、仕方ないけどな。でも、怖がってる相手と、ずっと居るのきついだろうから」
「――――……」

「怖がらなくていい。何もしない。お前が例えば、あの時と同じことをオレに言っても、大丈夫だし、それ以外の何を言っても、別に変わらない。だから、そういう意味では、安心してろよ」

 オレから目をそらしたまま、言い切ると。
 黙ったままのオレを見て、ふ、と首を傾げた。

「無理か?」
「…………っ」

 オレは、首を横に、何度も振った。


「今オレ、怖いって、もう、思ってない」
「――――……そうか?」

 納得して無さそう。

「お前、よく困った顔、するから」

「……それは……あの…… ……挨拶……」
「ん?」

「…………挨拶、しても、いい?」
「――――……は?」

「おはよう、とか……おやすみ、とか……」
「――――……」

 何だか俊輔は、ものすごく、不思議なものを見る顔をして、オレを見てる。

「あの……今まで俊輔とはずっとしないで来たから……していいのかなって」
「――――……」

「オレ、母さんとずっと二人で、母さんとはしてきたけど……そういうの俊輔は、しないのかなとか……?」

 ……やばい。何言ってんのか、分かんなくなってきた。
 変なことを聞いてるよな、絶対、オレ……。

 ……挨拶ってきっと普通だと思うのに、俊輔は普通じゃないって言ってるみたいに聞こえるかな。うう。どうしよう。でももう言っちゃったから、取り消せないし。

 ううう……。箸を持つ手に、ぎゅ、と力が入ってしまう。




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