115 / 141
第四章
26.「疲れた後に」*真奈
しおりを挟む西条さんに「帰る時間が分かったら早めに教えてください」と言われていたので、最後の授業の前に連絡を入れておいた。裏の大学の駐車場で待ってると返事がきたので、授業の後、皆と別れて駐車場に向かう。
皆と、また明日ねと、別れる。……日常すぎて、不思議。
この普通の生活、しばらくしてなかったから、こっちの方が夢みたいな気すらする。
……色んな人に話しかけられた。
イイ感じだったはずの女の子にも話しかけられたのだけれど。
やっぱり、何も感じなくて。うん、そうだよね……と思った。
だってオレの世界に、今、一番強烈に居るのは、俊輔だもん。
特に恋愛で女の子を好きとか、そんな気持ち、今は……。
「真奈さん」
西条さんが車から出て、オレを呼んでくれた。
「あ、すみません、西条さん」
「おかえりなさい」
促されるまま車に乗ってシートベルトを締めると、オレは、無意識に、ふ、と息をついていた。「疲れましたか?」と言われて、はい、と頷く。
「課題は出ましたか?」
「あ、はい。本を読んで、レポートを書く感じでした。そんなにたくさんて感じじゃないので良かったですけど……」
それでも結構な教科数があるから、ちゃんとやんないと。
「西条さん、オレ明日とか、帰りに大学の図書館寄ってもいいですか?」
「もちろん。良いですよ」
「もう早めにひとつずつ終わらせていこうと思うんですけど……二十二時まで開いてるので……」
「そうですね。時間が時間なので、若に聞きましょうか」
「あ、はい……」
オレって大学生で……。しかも男だし、二十二時が遅いってことはそこまでは無いと、思うんだけど……。
うん、でもまあ。……そんな気はした。
◇ ◇ ◇ ◇
後から帰ってきた俊輔と、今日も一緒にご飯中。ていうか、ほんとに最近帰り、早い。
西条さんが、そういえば、とオレを見る。その視線を追って、オレを見た俊輔に、レポートと図書館の話をした。しばらく聞いてた俊輔は、ふうん、頷いてから。
「――良いんじゃねえの」
「え」
「良いんじゃねえのってよりも、仕方ないだろ。早く終わらせた方がいいよな?」
「あ、うん」
……ダメって言われると思ってたのか、オレ。
俊輔が良いって言ってくれたことにびっくりしてしまったところで、そのことに気付いた。
「いいんですか、若」
西条さんも俊輔に聞いてる。……てことは、西条さんも、俊輔がだめって言うと思ってたってこと? そっか、そもそも、若に聞きましょうって言ったの、西条さんだもんね、と、お水を飲みながら、聞いていると。
「レポートを出さなきゃいけないなら仕方ないだろ。迎えに行くから、問題ない」
え? ぱっと顔を上げて、俊輔を見つめる。
ん。迎えに行くって、言った? ……誰が?
「オレが迎えに行けばいいだろ」
「――――……」
西条さんは、ふ、と笑って、「だそうです、真奈さん」とオレを見た。
「……えと」
「何」
「……あり、がと」
それ以外に言葉はないかなと思って、そう言ってみたら。
俊輔はちらっとオレを見てから、「別に」と言って、すぐに西条さんに視線を移して、「今日どこに迎えにいったかあとで教えろよ」とか、言ってる。
迎え。自分の大学が終わってから、オレの迎えに来てくれるってことか。
……なんか西条さんのお迎えより、ちょっと申し訳ないと思ってしまう。
ソファで、西条さんが淹れてくれたコーヒーを飲みながら、ぼー、と時計を見上げる。まだ、二十時過ぎなのに、なんかすごく眠い。
俊輔はシャワーを浴びに行ったので、なんとなく気が抜けてると。
「眠そうですね? 真奈さん」
優しい声で聞かれて、西条さんを見上げた。
「あ。はい、ちょっと……まだこんな時間なんですけど」
「ずっと出てなかったのが、朝から一日でしたしね」
ふ、と笑われて、送迎してもらってるのにすみません、と言うと、いえいえ、とまた笑われてしまう。
「すみませんとかは、私に対しては、いらないですよ」
今までも何度か言われた言葉だけど、ついつい言ってしまう。色んなこと、してもらうのとか、慣れないし。
そこに出てきた俊輔。オレを見て、「眠そうだな」と苦笑。
「コーヒーなんか飲まずに、飲むならホットミルクとかにすればいい」
「そうですね、用意します」
俊輔の言葉に、西条さんが微笑みながら即座に返して、部屋を出て行った。ぇ。コーヒーで大丈夫なんだけど……と思いながら、髪の毛をタオルで拭いてる俊輔を見てしまう。
「図書館もいいけど、無理すんなよ。欲しい本があるなら取り寄せればいいし」
「……でも多分、その時しか使わないから」
もったいない、と言いそうになったけど、多分これ言っても、俊輔には分かんないんだろうなあ……。そういう価値観の違いはうめられそうにないなぁ……。
うーん。と考えてしまう。
450
お気に入りに追加
1,401
あなたにおすすめの小説


【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。
※(3/14)ストック更新終わりました!幕間を挟みます。また本筋練り終わりましたら再開します。待っててくださいね♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜
トマトふぁ之助
BL
某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。
そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。
聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。
元ベータ後天性オメガ
桜 晴樹
BL
懲りずにオメガバースです。
ベータだった主人公がある日を境にオメガになってしまう。
主人公(受)
17歳男子高校生。黒髪平凡顔。身長170cm。
ベータからオメガに。後天性の性(バース)転換。
藤宮春樹(ふじみやはるき)
友人兼ライバル(攻)
金髪イケメン身長182cm
ベータを偽っているアルファ
名前決まりました(1月26日)
決まるまではナナシくん‥。
大上礼央(おおかみれお)
名前の由来、狼とライオン(レオ)から‥
⭐︎コメント受付中
前作の"番なんて要らない"は、編集作業につき、更新停滞中です。
宜しければ其方も読んで頂ければ喜びます。
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる