114 / 138
第四章
25.「久しぶりの大学」*真奈
しおりを挟むそのまま涼しい部屋着に着替えたオレ達は、西条さんが運んできてくれた夕飯を食べ始めた。外で色々つまんでたことを話したのか、軽めの食事。
この屋敷には料理人の人達がいるって前に聞いた。
……ていうか。俊輔の為だけに、居るんだよね。すごい。だって俊輔、普段あんまり居ないのに。それで、オレが朝昼晩いるから頑張って作ってくれてる、みたいなことを、西条さんが前に言ってて、オレの為に一生懸命作ってもらってもなぁ、なんてちょっと申し訳なく思ったりしたけど。
「若が家で食べるので喜んでますよ」
「……ふーん」
そんなふうに返しながらも、俊輔が少しだけ口角を緩めた気がする。
「真奈、これうまい」
「うん」
俊輔ってこのセリフよく言うなぁ。そんなにオレに食べさせたいのかな。なんて思いつつ、俊輔が指さした料理を、口に運ぶ。あ、おいしい。と口元が綻ぶ。
……おいしいものって幸せだなぁ。
と思いながらも、ここで、食べ物をおいしいと思えるようになったのは、最近なような気がするけど。
西条さんが、となりで、お茶を注いでくれながら、ふふ、と微笑んだ気がして、見上げると、やっぱり笑ってる西条さんと瞳が合う。
「あ、いえ。……真奈さん、学校はいつから行かれますか?」
「――――明日、からとか行けるんですか?」
そう聞いてみると、西条さんは、そうですね、とオレを見つめた。
「体調がご自分で大丈夫でしたらどうぞ。しばらくは、車で送り迎えをしますよ」
「電車で通えると思うんですけど」
車で大学まで送って貰うとか、なんか慣れなくてそう言ったのだけれど、すぐに俊輔がオレに視線を向けてきた。
「本調子になるまで、そうしろよ。最初は疲れるだろ」
「……うん」
俊輔にも言われてしまったので、仕方なく頷く。
大学の話を西条さんも込みで話してたので、今日の夕飯は割と、話が弾んで、そこまで気まずくならなかった。
凌馬さんとか、西条さんとか、誰かが間に居てくれると、なんかいいのかも……。
その夜も、俊輔と一緒にベッドに入ったけど。すごい近くで。腕枕みたいな感じで。
……オレ、このままこの先ずっと、俊輔とこうやって寝るのかな??疑問たくさんだったけど、今日は疲れたみたいで、割とすぐに眠りについていた。
翌朝。俊輔に起こされて、早めに準備。
朝ごはんを俊輔と食べた後、西条さんに大学の近くまで送られた。
言われた通り、授業の後、教授のところに行くと、ぞれぞれ課題の提出を言われた。結構大変そう。まあ……休みすぎたよね。無理言ったのかな。あんまり事情を聞かれなかったけど、それも、そういうことになってるんだろうか。なんか触れない方が良い気がして、提出物の説明だけ色々聞いて退散した。
そっちも大変だったけど、久しぶりに学校に行ったオレは、会う人会う人に、詰め寄られた。
ちょっと病気で……と言うと、もう大丈夫なの? と聞かれて、もう元気。また通えるから、と言ったら、皆、よかったー、と受け入れてくれた。
忘れられてなくて良かった。と思いながらも、なんかオレの方が、現実から離れすぎてて、まだ、完全に戻れてないけど。でも一緒にお昼を食べたりして、だんだん、友達と話す感覚が戻ってくる。そっか、オレ、結構長い間、俊輔と西条さん、たまに凌馬さん……くらいとしか話してなかったんだ。
わー……特殊な環境すぎたなあ……。
学食懐かしすぎる……と、久しぶりに友達と食事時間。普通に楽しい。なんて思いながら、食堂を出た時。
「真奈?」
不意に大きな声で呼ばれた。今日何回かあったので、今度は誰だろ、と振り返ると少し離れた所に、びっくりした顔の。
「あ。想」
一番、仲良かった友達の顔に、なんだかホッとして、笑顔になっていた。想は、何やらすごい勢いでゴー――ッと歩いてくる。止まるかと思ったら、全然止まらなくて、そのままぎゅーーー、と抱き締められた。
「……っっ」
「真奈……!」
ぎゅー、と抱き締められて、周りは笑ってるし、オレは、すごくびっくりだし。
「何してたんだよ、全然連絡つかないしー!! ほんとにもー!」
「ごめん……連絡、できなくて」
なんか少し泣きそうになりながら。
――――……なんか、戻ってきたんだなーと、少しだけ、実感できた。
490
お気に入りに追加
1,312
あなたにおすすめの小説
風俗店で働いていたら運命の番が来ちゃいました!
白井由紀
BL
【BL作品】(20時毎日投稿)
絶対に自分のものにしたい社長α×1度も行為をしたことない風俗店のΩ
アルファ専用風俗店で働くオメガの優。
働いているが1度も客と夜の行為をしたことが無い。そのため店長や従業員から使えない認定されていた。日々の従業員からのいじめで仕事を辞めようとしていた最中、客として来てしまった運命の番に溺愛されるが、身分差が大きいのと自分はアルファに不釣り合いだと番ことを諦めてしまう。
それでも、アルファは番たいらしい
なぜ、ここまでアルファは番たいのか……
★ハッピーエンド作品です
※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏
※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m
※フィクション作品です
※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです
※長編になるか短編になるかは未定です
溺愛オメガバース
暁 紅蓮
BL
Ωである呉羽皐月(クレハサツキ)とαである新垣翔(アラガキショウ)の運命の番の出会い物語。
高校1年入学式の時に運命の番である翔と目が合い、発情してしまう。それから番となり、αである翔はΩの皐月を溺愛していく。
普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。
山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。
お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。
サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。
1人のαと2人のΩ
ミヒロ
BL
αの筈の結月は保健室で休んでいた所を多数に襲われ妊娠してしまう。結月はΩに変異していた。僅か12歳で妊娠してしまった結月だったが。
※表紙イラスト as-AIart- 様(素敵なイラストありがとうございます!)
·.⟡┈┈┈┈┈︎ ✧┈┈┈┈┈⟡.·
BLを書くに辺り、ハッシュタグでオメガバースを知り、人気なんだな、とネットで調べて初めて書いたオメガバースものです。
反省点、多々。
楽しみながら精進します☆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる