106 / 136
第四章
17.「分からないまま」*真奈
しおりを挟むスープもサラダも、すごく美味しいと思った。
特にコンソメスープ。すごく好きな味で、口に入れた瞬間、わ、と思った。
……母さんが作ってくれたスープに似てたから、なんだか懐かしくて、ふ、と嬉しくなった。
「それ、好きか?」
俊輔の声に顔を上げると、なんだか少し、笑ってる。
「あ、うん。……好き」
そう言うと、そんな嬉しそうに飲むか?と、からかわれるみたいに言われるけど。
俊輔にしてはなんだかとっても穏やかに言ってるから、嫌な気持ちはしなくて、頷いた。
久しぶりの外食。
外の世界と離された一人の世界じゃない。まあ相手は、俊輔だけど。
ふと、気付くと、周りに座ってる女の子たちの視線が、俊輔に向いてることに気づく。俊輔は気づいてないのか、慣れてて気にならないのか、分かんないけど。
……やたら目立つもんね。……ちょっと怖いと思うんだけど。怖くないのかなぁ? オレがそう思うだけ?
女の子って、ちょっと悪っぽいのに惹かれるって聞いたことがあるような。……知らないけど。
こないだの集会の時も思ったけど、ほんとに、そういう相手には困ることはなさそう。
「真奈」
「ん?」
「ここまで来て、バイク乗るのきつかったか?」
「ううん、大丈夫。もうオレ、大分普通だと思うよ?」
「今日午前も出てたしな。急に動いても……」
「出てたって言っても、車で連れて行ってもらって荷物とってすぐ帰ってきただけだから」
大丈夫だよと伝えると、きつかったら言えよ、と言われた。
きついって言ったら、どうするんだろ。ここにもうバイクで来てるのに。
と、なんだか不思議に思って、聞いてみることにした。
「……きついって今言ったら、どうするの?」
「和義に車で来てもらってオレらは車。和義はバイクで帰ってもらう」
「ぇ。西条さん、あのバイク乗れるの?」
「ああ」
「……スーツで??」
うわー。なんか、すごく違和感。
俊輔はオレの複雑な顔を見て、ふ、と笑った。
「バイク乗る時はスーツは脱いでくると思うけどな?」
「そう、なんだ」
……そういえば、スーツじゃない西条さん、見たことない。
ということに、今更ながらにびっくりだけど。
「あ、でも、きつくないから大丈夫だから」
そう言うと、俊輔も頷く。
こんなとこまで車で迎えに来てくれて、バイク持って帰ってくれるって。
西条さんのお仕事って大変。……もう、仕事って感じじゃないのかなあ?
そういうのが普通の、俊輔と西条さんの関係って、オレにはよく分かんないけど。
そういうものなのかなあ……。そういえば、テレビとかで見る、「じいやさん」は、「ぼっちゃん」とか「だんなさま」とかを最優先してたような。そういうイメージで見てればいいのかなあ……。謎だけど。
そんなことを考えながら、食事の続き。
サラダとスープを食べ終わる頃に、ちょうどよくパスタも運ばれてきた。
「……美味しい」
なんかすごくおいしく感じる。
……外だから? ふと、これからもし学校とか行くなら、外でお昼ご飯とか食べれるのかなと思いついて、聞きたくなった。
「あのさ、俊輔……」
「ん」
「オレ、本当に、学校行って、いいの?」
「いいのって。……行けなくてもいいのか?」
返された質問に、それは嫌だけどと思って、咄嗟に何とも言えず、黙って俊輔を見つめていると、俊輔は苦笑いを浮かべた。
「冗談」
「え」
……冗談だったのか。って何の冗談……? 良く分からなくて、じっと見つめていたら、俊輔はさらに苦笑した。
「……ずっと一人で閉じ込めておくわけにいかないって思ったのと……」
そっか、と頷くと。俊輔はオレを見つめて、ふ、と笑った。
「屋敷から出ても、今は逃げねえだろ?」
「……ん」
まあ。……逃げないけどさ。
……あの時、自分から、戻るって決めたんだし。
あの日、戻ってから、大分感覚が変わったのは、俊輔の態度が変わったからってだけじゃない。
無理やり連れこられたんじゃなくて、オレが、自分で戻るって決めたっていうのが大きいんだと思う。
でも戻ると決めたとはいっても、これから俊輔がどうしたいのかとか分からないし、オレだってどうなりたいとかある訳じゃないのに、あの時、凌馬さんに聞かれて、オレは戻るって決めたわけで。どうしたらいいのかは、今も良く分からないまま。
「……大学、行けるのは嬉しい」
思ったことをそのまま伝えると、俊輔はオレを見つめ直した。
少しだけ唇を上げて……ほんとに少しだけ、笑って見せてくれて。
……それだけなのに、なんか。
なんか、すごく、心の中が、ほわ、として。
……なんか、不思議、だった。
128
お気に入りに追加
1,287
あなたにおすすめの小説
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
R18禁BLゲームの主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成りました⁉
あおい夜
BL
昨日、自分の部屋で眠ったあと目を覚ましたらR18禁BLゲーム“極道は、非情で温かく”の主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成っていた!
弟は兄に溺愛されている為、嫉妬の対象に成るはずが?
三十路のΩ
鱒
BL
三十路でΩだと判明した伊織は、騎士団でも屈強な男。Ω的な要素は何一つ無かった。しかし、国の政策で直ぐにでも結婚相手を見つけなければならない。そこで名乗りを上げたのは上司の美形なα団長巴であった。しかし、伊織は断ってしまい
風俗店で働いていたら運命の番が来ちゃいました!
白井由紀
BL
【BL作品】(20時毎日投稿)
絶対に自分のものにしたい社長α×1度も行為をしたことない風俗店のΩ
アルファ専用風俗店で働くオメガの優。
働いているが1度も客と夜の行為をしたことが無い。そのため店長や従業員から使えない認定されていた。日々の従業員からのいじめで仕事を辞めようとしていた最中、客として来てしまった運命の番に溺愛されるが、身分差が大きいのと自分はアルファに不釣り合いだと番ことを諦めてしまう。
それでも、アルファは番たいらしい
なぜ、ここまでアルファは番たいのか……
★ハッピーエンド作品です
※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏
※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m
※フィクション作品です
※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです
※長編になるか短編になるかは未定です
魔導書の守護者は悪役王子を護りたい
Shizukuru
BL
前世、面倒くさがりの姉に無理やり手伝わされて、はまってしまった……BL異世界ゲームアプリ。
召喚された神子(主人公)と協力して世界を護る。その為に必要なのは魔導書(グリモワール)。
この世界のチートアイテムだ。
魔導書との相性が魔法のレベルに影響するため、相性の良い魔導書を皆探し求める。
セラフィーレが僕の名前。メインキャラでも、モブでもない。事故に巻き込まれ、ぼろぼろの魔導書に転生した。
ストーリーで言えば、召喚された神子の秘密のアイテムになるはずだった。
ひょんな事から推しの第二王子が所有者になるとか何のご褒美!?
推しを守って、悪役になんてさせない。好きな人の役に立ちたい。ハッピーエンドにする為に絶対にあきらめない!
と、思っていたら……あれ?魔導書から抜けた身体が認識され始めた?
僕……皆に狙われてない?
悪役になるはずの第二王子×魔導書の守護者
※BLゲームの世界は、女性が少なめの世界です。
エリートアルファの旦那様は孤独なオメガを手放さない
小鳥遊ゆう
BL
両親を亡くした楓を施設から救ってくれたのは大企業の御曹司・桔梗だった。
出会った時からいつまでも優しい桔梗の事を好きになってしまった楓だが報われない恋だと諦めている。
「せめて僕がαだったら……Ωだったら……。もう少しあなたに近づけたでしょうか」
「使用人としてでいいからここに居たい……」
楓の十八の誕生日の夜、前から体調の悪かった楓の部屋を桔梗が訪れるとそこには発情(ヒート)を起こした楓の姿が。
「やはり君は、私の運命だ」そう呟く桔梗。
スパダリ御曹司αの桔梗×βからΩに変わってしまった天涯孤独の楓が紡ぐ身分差恋愛です。
「トリプルSの極上アルファと契約結婚、なぜか猫可愛がりされる話」
悠里
BL
Ωの凛太。オレには夢がある。その為に勉強しなきゃ。お金が必要。でもムカつく父のお金はできるだけ使いたくない。そういう店もありだろうか。父の金を使うより、どんな方法だろうと自分で稼いだ方がマシ、と悩んでいたΩ凛太の前に、何やらめちゃくちゃイケメンなαが現れた。
凛太は自らを欠陥と呼ぶレベルで、Ωの要素がない。ヒートたまにあるけど、不定期だし、三日こもればなんとかなる。αのフェロモンも感じない。
なんだろこの人と思っていたら、何やら話している間に、変な話になってきた。
契約結婚? 期間三年。その間は好きに勉強していい。その後も、生活の面倒は見る。デメリットは、戸籍にバツイチがつくこと。え、全然いいかも。お願いします!
トリプルエスランク、紫の瞳を持つスーパーαのエリートの瑛士さんの、超高級マンション。最上階の隣の部屋を貰う。もし番になりたい人が居たら一緒に暮らしてもいいよとか言ってくる。良いです、勉強したいんで! 恋とか分からないしと断る。たまに一緒にパーティーに出たり、表に夫夫アピールはするけど、それ以外は絡む必要もない。はずだったのに、なぜか瑛士さんは、オレの部屋を訪ねてくる。そんな豪華でもない普通のご飯を一緒に食べるようになる。勉強してる横で、瑛士さんも仕事してる。「何でここに居るんですか?」「さあ……居心地よくない?」「まあいいですけど」そんな日々が続く。ある時、久しぶりにヒート。三日間こもるんで来ないでください。この期間だけは一応Ωなんで、と言ったオレに、一緒に居る、と、意味の分からない瑛士さん。一応抑制剤はお互い打つけど、さすがにヒートは、無理。出てってと言ったら、一人でそんな辛そうにさせてたくない、という。もうヒートも相まって、血が上って、頭、良く分からなくなる。まあ二人とも、微かな理性で頑張って、本番まではいかなかったんだけど。――ヒートを乗り越えてから、瑛士さん、なんかやたら、距離が近い。何なのその目。そんな風に見つめるの、なんかよくないと思いますけど。というと、おかしそうに笑われる。そんな時、瑛士さんのツテで、参加した講義の先生と話す機会があり、薬を作る話で盛り上がる。先生のところで、Ωの対応や被験をするようになる。夢に少しずつ近づくような。けれどそんな中、今まである抑制剤の治験の闇やΩたちへの許されない行為を耳にする。少しずつ証拠をそろえていくと、それを良く思わない連中が居て――。瑛士さんは、契約結婚をしてでも身辺に煩わしいことをなくしたかったはずなのに、なぜかオレに関わってくる。仕事も忙しいのに、時間を見つけては、側に居る。なんだか初の感覚。とオレ、勉強しなきゃいけないんだけど! という、オレがαに翻弄されまくる話です。ぜひ読んでねー✨
第12回BL大賞にエントリーしています。
応援頂けたら嬉しいです…✨
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる