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第四章
15.「ポカポカ」
しおりを挟むあの後、換気を終えてから、荷物を持って、車に戻ってきた。
「真奈さん、外で何か食べたいものはありますか?」
「外で?」
「ずっと屋敷のものが作ったものなので、美味しいとは思いますが、たまにはファーストフードとかも、食べたくなるんじゃないですか?」
「あー……食べたい、かも」
思わずぽろ、と漏れた言葉に、西条さんは笑った。
「ですよね、買って帰りましょう。昼はそれでいいですか?」
「ありがとうございます」
と、そんな流れで、ファーストフードのお店に寄って、買って帰ることに。
なんかすごく、久しぶりな気がした。
俊輔の屋敷に着くと、西条さんがオレの荷物を部屋に置いてくれて、ゆっくり食べてくださいね、と言って部屋を出て行った。
手を洗ってから、テーブルについて、紙袋を開けて、中からポテトを一つ。
「……うま」
久しぶりに食べた。……ここ来てからは食べてなかったし。
ここのごはんって、いつも、どっかのお店みたいで、美味しいんだけど。
いつも一人だしなあ。たまに、西条さんが来て、何か用事をしながら話してたりする時もあるけど。なんかここって本当に、閉鎖されてる空間で。
……オレ、よく、こんなとこに戻りたいなんて、凌馬さんに言ったなあ。
そんな風に思うと、なんだか自分が可笑しくなってきてしまう。
久しぶりに、てりやきバーガー。
西条さんが、屋敷から近い店で買ってくれたから、まだ温かい。
前に食べたのいつだっけなと、思いだすと、多分大学の帰りに、友達と寄ったのが最後かなと。すごく、遠い昔な気がする。
……戻れるのかな。大学に。元居た場所に。
……俊輔はそれでいいのかな。
オレを、少し自由にして……その内、離れる準備かな。
……ってなんかまた、考え方おかしいか。……そうだよね、話していた時、その通りにするのは嫌そうだったけど、オメガと結婚してアルファの後継ぎとか言われてるみたいだし。
オレがずっと俊輔のところに居る未来は、無い。ていうかもともと帰りたいって思ってたんだし。別にそんなの当たり前っていったら、当たり前だし。
「――――……」
じゃあ何で、こんなよく分からない気分になるのかな。
……久しぶりに、ジャンキーな味。……美味しいけど。なんか、気持ち的に美味しくない気がして、ふー、と息をついた時。
「……だから、午後の授業がふたつ休講になったんだって」
ドアが開いて、そんな声とともに、俊輔が中に入ってきた。
「で、真奈を昼に連れてこうと思って帰って来たんだけど」
俊輔は、オレが食べてるファーストフードを見て、ちょっと止まってる。
「ただいま」
「おかえり」
珍しい言葉をかけられて、自然と出た言葉。俊輔はオレの隣に近づいてくると。
「……半分食べていい?」
「……?? いいよ?」
食べたいの?と思いながら頷くと、俊輔が手を洗って来て、向かい側に腰かけた。
「ハンバーガーも半分食べる?」
頷くので、食べてない方を半分、俊輔に渡した。
「これじゃ足りないだろ? 何か食いに行こうぜ」
「何かって?」
「バイク出すから、好きなもん」
「オレの、好きなもの?」
「珍しく昼、あいたから」
「……うん」
頷きながらも、せっかくお昼があいたら、オレとご飯食べてくれるって。
……他の人と食べないのかなと思ってしまう。
「……あの」
「ん?」
「俊輔って、オレと居て、楽しい……?」
「――――……」
俊輔に、びっくりした目で見られてしまう。
近くに居た西条さんが、ふ、と笑うのが分かって、オレと俊輔は、ぱっとそちらに視線を向けた。
「あ、すみません」
クスクス笑いながら、西条さんはすぐにオレ達に背を向けて、窓を開けに行った。
「……お前と居たくないなら、ここに連れて帰ってない」
「――――……」
「……お前と色々話したい」
「――――……」
気まずいとか。オレもそうだけど、俊輔も、一緒に居て話しにくそうとか、つまんないとか。
今まで話もせず、夜抱かれるだけだったのが、それが無くなって……居る意味、あるのかなって思うのは、そういうところだったから。
……話したいって言ってくれるんだ。そっか。
なんだか急にふわっと、心の中の重たいものが無くなって、なんだか、ポカポカした気分。
さっきより、ポテトが、美味しいような気がする。
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