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第四章

14.「居ることの意味」*真奈

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 黙ったオレに西条さんは、考えがまとまったらでいいですよと言ってくれたので、オレはただぼんやりと窓の外を眺めた。見慣れた駅を通り、見慣れた景色。マンションの客用駐車場に西条さんが車をとめた。
 車を降りて、周囲を見回す。久しぶりに、ここに立った。

「行きましょうか」
「あ、はい」

 並んでエントランスに入る。エントランスのロック解除も、エレベーターも、迷わず階数を押す西条さん。
 そっか、空気を入れ替えに、家に入ってもいいか聞かれたっけ……。

「もしかして、何度か来てくれてますか?」
「あ、はい。換気に何度か」
「すみません」
「いえ。若の我儘ですからね……」

 苦笑の西条さん。
 何とも言えないまま、手渡された鍵で、自分のマンションの鍵を開けた。

 久しぶりの、我が家。
 ……我が家と言っても、母さんが亡くなってからしか住んでないし、ここでは一人で住んでいたから、なんだか静かな空間で、そこまで愛着がある訳ではないけど。
 ……まあ、でも、それなりには懐かしの我が家、なのかなと思いながら、靴を脱いで上がった。

 変な匂いとかもないし、あけといてくれたからかな、思っていたよりずっと普通の空間だった。
 俊輔のところに行くまで、オレはここで、一人で暮らしてたんだよな、と部屋を見回す。

 一人で暮らすには、大分広いこの部屋。

「必要なものをこちらの鞄に入れてください。手伝いますか?」
「あ、大丈夫です、すぐ入れてくるので」
「分かりました」

 リビングの大き目の窓を開けながら、西条さんが頷く。

 とりあえず、一つのカバンには大学の教材と勉強道具。もう一つの大き目の鞄には着慣れた服。
 あっという間に入れ終えてしまった。

 持っていきたいもの、これしかないのか、オレ。
 何だか、周りを見回して、他にないか考えてしまうけれど。

 ――――そんなには、物に執着もなくて、こんなものか、と思ってしまう。

 俊輔のところに居る時、ずっと、帰りたいって、オレ、思ってたけど。

 よく考えると、ここに帰っても別に……と考えてしまう。
 母さんももう、居ないし。
 ここには、オレを待つ人は、居ない。

 そこまで考えて、ふと、気付く。
 ……今の考え方って。ここでは誰も待ってないけど、向こうでは……俊輔が待っててくれるとか、オレ、思ってるのかな。

 俊輔がオレを自分のところに置いておこうとしてるのが、何でか知らないけど。
 ……オレが俊輔のところに戻ったのは――――……。

「真奈さん、どうですか?」

 西条さんに声をかけられて、振り返る。

「あ、大丈夫です」
「全部の部屋の窓を開けて少し換気してから、戻りましょうか」
「はい。ここ開けます」

 部屋の窓を開けて、空を見上げる。
 西条さんが隣の部屋で窓を開けてる音が聞こえる。


 オレ、どんな意味でも。……俊輔に必要とされてるみたいで。
 ……嬉しかった、のかな。

 ずっと、あんな感じだったけど……側に居させようとしてくれたのが、嬉しかったのかも。
 それがどんな意味かとかは、今考えても、分かんないし。
 抱かれたりするのが嬉しかったわけじゃないから、複雑ではあるけど。


「――――……」


 でも、あれから、抱かれなくなって、それはそれで、何でって思ってる自分が居る。

 別にそうされたい訳じゃないけど、でも、それが無いなら、オレを置いておく意味あんのかなって思う。
 

 楽しく話すわけでも、遊んだりするわけでも、何か俊輔の役に立つわけでもないし……。


 …………ていうか、何なの。オレ。
 オレが俊輔の側に居ることの意味。そんなのオレが考えてるとか、絶対おかしい。

 だって、最初はほぼ無理無理で。オレは早く離れたくて、しょうがなかったのに。
 今は、意味が欲しい、なんて。なんだかおかしい。

  


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