「Promise」-α×β-溺愛にかわるまでのお話です♡

悠里

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第四章

13.「何で?」*真奈

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「真奈さん、今日、マンションに行けそうですか?」

 朝食を終えた時、オレは、西条さんにそう聞かれた。

 あ、本気だったんだ、俊輔。……そう思った。
 じゃあ本気で、大学に行って良いって言ってるのかな……。
 半信半疑だったのが、西条さんの言葉で、やっと現実なのかと思えた。

「はい……」
 戸惑いながら頷くと、西条さんはオレの顔を見つめた。

「体調が悪いならやめておきますか?」
「あ、大丈夫です」
「というか、そもそも話は、若から聞いてますか?」
「……はい」

「とりあえず、持ち出したい荷物だけ分かれば運ぶのは私がしますので。出かけられる準備だけしておいてくださいね」

 そう言って、部屋を出て行った西条さんに、オレは、ため息。

 全部を捨てて、俊輔のところに来い、と、言われて。
 ……一度、全部、捨ててきたみたいな感じで。

 もう、捨てなくていいってこと、なのかな……分かんないけど。
 何考えてるんだろう。俊輔。

 その後、西条さんの車でオレは自分のマンションに向かった。二人きりの車内。でも何となく俊輔と二人きりよりは、気まずくないのだけど……。

「……西条さん」
「はい」

「話しても平気ですか?」
「大丈夫ですよ?」

 車を走らせたまま、西条さんが笑みを含んだ声で返してくれる。

「あの……オレ、大学、こんなに休んでて、普通に行けるんですか?」
「あ、はい。そうですね。……病欠ということになっています。これから課題が増えるかもしれませんが、それさえクリアすれば、留年もないと思います」
「……それって、ありなんですか?」
「……普通はないかもしれませんが……まあ運よく、そこそこ縁がある大学で。……これ以上は聞かなくて良いですよ。迷惑をかけたのは若なので、最大限で利用できるものはした感じです」
「…………」

 ……聞かなくていい。聞かない方がいいんだろうなと、なんとなく分かって、黙る。

「妙にならない程度で、教授たちには話してあるはずなので、変に気にしなくて大丈夫ですよ」
「……分かりました」

 他に何か聞きたいことがあるような思いつかないような。
 そのまま黙っていると、信号で止まった時に、西条さんがオレを振り返った。

「真奈さんが元気になったら、大学に行かせる、と少し前から若が言ってたんです」
「……」
「このまま閉じ込めていく訳にはいかないと、思ったのだと思います」
「――――……」

「……真奈さんは戸惑うかもしれませんが、全部を捨てさせて将来どうなっても知らないとか、そんな風に思えなくなったんだと思うので……」

 何だか首を傾げてしまいながらではあったけれど、オレは頷いた。

 将来、か。

 ……なんかもう、俊輔のところが異空間すぎて、オレが全然考えられなくなってことを、俊輔が考えたってこと?  なんか、不思議。

 オレを、大学に戻させて、将来とか考えさせて……。
 それでも、オレを追い出すってことには、ならないんだろうか。

 オレのこと、毎晩抱いてた時は、意味が分からないけど、それが目的なんだって気がした。男、抱いたら意外と良かったのかなとか。……オレをいじめるの、楽しいのかなとか……聞いてないからほんとのとこは、分からないけど、それのためって、思えなくもなかった。

 ……でも、今は……それもないし。
 話するのだって気まずいし、それは俊輔だって一緒だろうし。昨日一緒に食べたけど、絶対一人で食べた方が、俊輔だって、いいと思う……。
 オレは、自分が何をするためにあそこにいるのか、よく分からない。

「あの……西条さん」
「はい」

「……オレが、あの家を出るってことは、無い……と思いますか?」

 オレがそう言うと、少し黙った西条さんが、前を向いたまま、静かに言った。

「……真奈さんは、出たいですか?」 
「…………」

「もしそうなら、折を見て、そういうことも若に進めてみます」
「――――……」

「真奈さんが出たいと言ってたとは言いませんよ。私が、私の判断でそろそろ、とお伝えするだけですが」
「――――……」

「伝えた方がいいですか?」


 そう言われて、頷くべきだと思うのだけど。
 何だか頭の中、ぐちゃぐちゃになって、頷けない。


 そもそもオレ自身が、逃がしてくれるって言った凌馬さんに、俊輔のところに戻るって言ったのは。
 何でだったんだろう。
 


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