102 / 141
第四章
13.「何で?」*真奈
しおりを挟む「真奈さん、今日、マンションに行けそうですか?」
朝食を終えた時、オレは、西条さんにそう聞かれた。
あ、本気だったんだ、俊輔。……そう思った。
じゃあ本気で、大学に行って良いって言ってるのかな……。
半信半疑だったのが、西条さんの言葉で、やっと現実なのかと思えた。
「はい……」
戸惑いながら頷くと、西条さんはオレの顔を見つめた。
「体調が悪いならやめておきますか?」
「あ、大丈夫です」
「というか、そもそも話は、若から聞いてますか?」
「……はい」
「とりあえず、持ち出したい荷物だけ分かれば運ぶのは私がしますので。出かけられる準備だけしておいてくださいね」
そう言って、部屋を出て行った西条さんに、オレは、ため息。
全部を捨てて、俊輔のところに来い、と、言われて。
……一度、全部、捨ててきたみたいな感じで。
もう、捨てなくていいってこと、なのかな……分かんないけど。
何考えてるんだろう。俊輔。
その後、西条さんの車でオレは自分のマンションに向かった。二人きりの車内。でも何となく俊輔と二人きりよりは、気まずくないのだけど……。
「……西条さん」
「はい」
「話しても平気ですか?」
「大丈夫ですよ?」
車を走らせたまま、西条さんが笑みを含んだ声で返してくれる。
「あの……オレ、大学、こんなに休んでて、普通に行けるんですか?」
「あ、はい。そうですね。……病欠ということになっています。これから課題が増えるかもしれませんが、それさえクリアすれば、留年もないと思います」
「……それって、ありなんですか?」
「……普通はないかもしれませんが……まあ運よく、そこそこ縁がある大学で。……これ以上は聞かなくて良いですよ。迷惑をかけたのは若なので、最大限で利用できるものはした感じです」
「…………」
……聞かなくていい。聞かない方がいいんだろうなと、なんとなく分かって、黙る。
「妙にならない程度で、教授たちには話してあるはずなので、変に気にしなくて大丈夫ですよ」
「……分かりました」
他に何か聞きたいことがあるような思いつかないような。
そのまま黙っていると、信号で止まった時に、西条さんがオレを振り返った。
「真奈さんが元気になったら、大学に行かせる、と少し前から若が言ってたんです」
「……」
「このまま閉じ込めていく訳にはいかないと、思ったのだと思います」
「――――……」
「……真奈さんは戸惑うかもしれませんが、全部を捨てさせて将来どうなっても知らないとか、そんな風に思えなくなったんだと思うので……」
何だか首を傾げてしまいながらではあったけれど、オレは頷いた。
将来、か。
……なんかもう、俊輔のところが異空間すぎて、オレが全然考えられなくなってことを、俊輔が考えたってこと? なんか、不思議。
オレを、大学に戻させて、将来とか考えさせて……。
それでも、オレを追い出すってことには、ならないんだろうか。
オレのこと、毎晩抱いてた時は、意味が分からないけど、それが目的なんだって気がした。男、抱いたら意外と良かったのかなとか。……オレをいじめるの、楽しいのかなとか……聞いてないからほんとのとこは、分からないけど、それのためって、思えなくもなかった。
……でも、今は……それもないし。
話するのだって気まずいし、それは俊輔だって一緒だろうし。昨日一緒に食べたけど、絶対一人で食べた方が、俊輔だって、いいと思う……。
オレは、自分が何をするためにあそこにいるのか、よく分からない。
「あの……西条さん」
「はい」
「……オレが、あの家を出るってことは、無い……と思いますか?」
オレがそう言うと、少し黙った西条さんが、前を向いたまま、静かに言った。
「……真奈さんは、出たいですか?」
「…………」
「もしそうなら、折を見て、そういうことも若に進めてみます」
「――――……」
「真奈さんが出たいと言ってたとは言いませんよ。私が、私の判断でそろそろ、とお伝えするだけですが」
「――――……」
「伝えた方がいいですか?」
そう言われて、頷くべきだと思うのだけど。
何だか頭の中、ぐちゃぐちゃになって、頷けない。
そもそもオレ自身が、逃がしてくれるって言った凌馬さんに、俊輔のところに戻るって言ったのは。
何でだったんだろう。
153
お気に入りに追加
1,401
あなたにおすすめの小説


義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。
※(3/14)ストック更新終わりました!幕間を挟みます。また本筋練り終わりましたら再開します。待っててくださいね♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

それ以上近づかないでください。
ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」
地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。
まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。
転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。
ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。
「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」
かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。
「お願いだから、僕にもう近づかないで」
オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜
トマトふぁ之助
BL
某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。
そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。
聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる