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第四章
7.「笑う」*真奈
しおりを挟むやっぱりこういう、なんかすごい家の執事さんとなると、色々考えることも多そうだし……ちょっと怖いのかなと、今更ながらにオレが内心ビクビクしていると。当のご本人は、にっこり優しくオレに微笑んだ。
「せっかく持ってきたので、チェリーも置いていきますね。よかったらどうぞ」
お礼を言って受け取ると、西条さんは部屋を出て行った。
「……強いの、わざとか」
は、と俊輔が忌々し気に呟いた。
「ほんと、意味わかんね……」
そう言った俊輔のスマホが、震え始めた。
ちら、と画面を見てから立ち上がって、窓辺で話し始める。
「……もしもし」
だるそうだけど、電話は普通に話してる。
「……は? 今から? 近くに居るって…………あー、分かった。飯は?」
誰かと今から会うのかな。
……これからどっか、行くのかなあ。
なんて思いながら、オレンジを剥いて食べていると、電話を終えた俊輔が席に座りなおした。
「……凌馬が来るって」
「…………」
一瞬、なんだか分からない。
「……あ、凌馬さん? ……ここに?」
「バイクで走ってて、近くまで来たからだと。あの感じだとすぐ来る」
ここに来ること、あるんだ。ずっと誰も来ないから、ここには人が入らないのかと思い込んでた。
「……ここに来るって」
「ん?」
「オレ、ここに居ていいの?」
そう言ったら、俊輔がオレを見て、ふ、と笑んだ。
「居ていいっつーか……あいつはお前に会いにくるらしいけど?」
え、そうなの? ……ていうか。今、俊輔。
……笑った。
そっちの方に見惚れてしまって、反応ができずにいると。
「お前が元気かを見たいんだってよ」
もう一度、そう言われて、こくこく頷く。
そうなんだ。オレが、元気か?……あれから俊輔とちゃんとやれてるかどうか、見に来てくれるってことかな。
……ていうか。俊輔……笑った、今。
そういえばあの前も、少しは笑ってたような気もするようなしないような。
でも、やっぱり、ほとんど笑ってなかったような……。
とりあえず、帰ってきてからは、初めて、かも……?
オレが何だかうろたえていると。
コンコン、とノックの音。すぐに西条さんが入ってきた。
「若、凌馬さんが門のところに来られたので、開けさせましたがよろしいですよね?」
「あぁ。近くに居るから寄るって。夕飯はまだだから、あいつ、何でも食うからほんと何でもいい」
「何かお持ちしますね」
俊輔の言い方に、西条さんは苦笑いを浮かべて頷いた。
「バイクだって言ってたから酒はいらない」
「はい。とりあえず、お連れします」
「あぁ、良い。オレが行く」
そう言って、西条さんと俊輔は、一緒に部屋を出て行った。
……凌馬さん。
…………オレの様子、見に来てくれるんだ。
ていうか。うん。……俊輔。笑ってた。
……ああやって普通に笑ってくれてたら。オレも笑えるかもしれないのでは……。
しばらくして、ドアが開いたので、振り返る。
「よお、真奈ちゃん。元気か?」
「凌馬さん」
なんだかあの時、朦朧としてた中で見てた顔だから、なんだか不思議な感覚で。もうこの人は怖くない、頼れる人っていう印象になってる。立ち上がろうとしたら、「あぁ、座ってていいぞ」と制された。
すぐ近くまで来て、オレを見下ろす。
「こないだ、ありがとうございました」
「ん。少し良くなったって聞いたから見舞いにきた。……顔色、良くなったな。良かった良かった。これ、やるから食べな」
紙袋を渡されて、中を覗くと、アイスクリームがたくさん入ってた。
「なんだ?」
俊輔に聞かれると、凌馬さんが「アイス差し入れ」と答えてくれた。
「食べるなら一つ取れよ」
そう俊輔に言われて、せっかくだからと一つ取ったら、俊輔は紙袋を受け取って冷凍庫に入れに行ってくれた。
くす、と笑って、オレを見下ろす凌馬さん。
「……なあ」
「?」
顔を寄せられて、首を傾げると。
「……俊輔、ひでえ事してねえ?」
こそ、と囁かれた言葉に、凌馬さんを見つめて、頷く。
「ほんとに?」
「……ほんとです」
「ふうん。そっか……じゃ良いか」
クスクス笑いながら。
「……少しは優しくなった?」
「……」
少し、ていうか……別人みたいだけど。
思いながらも無言で頷くと、凌馬さんはニッと笑った。
「頑張って優しくしてるんだと思うからよ……素直に受け止めとけよ?」
「……」
辛うじて頷くと、くしゃ、と頭を撫でられた。
「ワガママ言っても今ならたぶん何でも聞くぜ、あいつ」
おかしそうにニヤニヤしながら、凌馬さんが囁いた。
戻ってきた俊輔がオレにスプーンを渡してくれてから、怪訝そうに凌馬さんを見る。
凌馬さんは可笑しそうに笑ってから、ふ、と、俊輔を覗き込んだ。
「さっきから思ってたんだけど、お前ちょっと酔ってる?」
「……酔ってねえし」
一瞬答えるのが遅れた俊輔に、凌馬さんはクスクス笑った。
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