94 / 136
第四章
5.「母親」*真奈
しおりを挟む
5.「母親」*真奈
西条さんが持ってきてくれたお酒を飲み始めた俊輔が、オレを見て「座れよ」と言った。仕方なく俊輔の正面に座ると、西条さんはオレの所にはお茶を出して、部屋を出て行ってしまった。
「……いただきます」
そう言って、食事を始める。
ここに来て、俊輔と向かい合ってごはんを食べるのが初めて。
その事実に、ほんと、びっくりだよねと思う……。
だって、もう結構経つのに。
だけど、実際こうなって面と向かい合ってると、いったい何を話せばいいんだか、何も、浮かばない。
「あんまり食欲ないか?」
「……動いてないからかも。あ、でも、食べるから」
辛うじて答えたきり、声が出ない。
ていうか。もう。
会話が……思い浮かばない。
西条さん、居てくれないかな……何か喋っててほしいよう……。
静かにただ食べているだけの時間を、過ごしていると。
しばらくして、俊輔がふう、と息をついた。
「……これ、すげえ強い」
言いながら、酒瓶のラベルを見ている。
俊輔は、すごくお酒強そうって思ってた。
たまに飲んでるの見かけたけど、全然赤くもならないし、酔ってる感じもしないし。西条さんは美味しい日本酒だと言って、小さめの瓶を2本、置いていったけど。グラスに注いで、一気飲みしたのをさっき見た。
熱い、とか言ってるの、珍しいような……まあそんなに熱いとか言う程は、赤くはなってないけど。
よく考えると俊輔って、朝早いし、帰ってくるの遅いし、最近は夜中もオレに合わせて起きたりなんかしてくれてたし、絶対寝不足だよね。……だからかな? ちょっと酔った?
「……お前の母親って、どんな人?」
「……」
不意に聞かれて、俊輔と視線を合わせた。
……急な質問が、それなんだ。
何を話せばいいんだろう、と思いながら。
「……オメガだったよ」
そう言うと、俊輔はオレを見ながら、小さく頷いた。
「体調悪いことも多かったけど……優しかった」
「……似てるか?」
「目とかは少し似てたかな。母さんが死ぬ前に、初めて父さんが居るって教えられて……ずっと、亡くなったと思ってたから」
「……愛人、てことか?」
「うん。そうみたい。すごい大きな会社の社長さんだって」
「……だから一緒に暮らしてないのか」
その質問に、うん、と頷くと、少し沈黙。
何だか俊輔……やっぱり少し酔ってるのかな。
それとも……これからオレと、色々話してく、つもりなのかな……。
「……オレの、母親もオメガだった」
「…そう、なんだ」
頷きながら、箸を置いた。
「もういいのか?」
気づいた俊輔に聞かれる。
「うん。結構食べたよ」
「果物とか、食べるか?」
「……うん」
そんなに食べたくはなかったけど、要らないっていうのに気が引けて、なんとなく頷くと、スマホで多分西条さんに何か入れてる。
「……知ってるだろ、アルファの出生率が下がってるの」
「うん」
もともと少ないけど、二、三十年くらいの間にますます下がってるってニュースでやってるのは知ってる。
「アルファを産む確率が高いのがオメガって、言われてるのも知ってるか?」
「……そうなの?」
「本当か知らないが、アルファの中ではそう言われてる」
そうなんだ。
……それは知らなかったかも。
「……だから、オレの母親は選ばれた」
「――――……」
……選ばれた?
「アルファの子供が欲しいから、親父は、母さんと結婚した」
「……」
……なんとも、言えない話に、俊輔をただ、見つめてしまう。
「……まあ。政略結婚みたいな見合い結婚も多かったらしいし。無い話じゃないとは思うけどな」
「…………」
何も言えないオレに、俊輔は苦笑した。
「……何とも言えないよな」
「…………」
少し俯いて、それから、小さく、頷く。
俊輔は、軽く頬杖をついて、それきり少し、黙ってる。
……詳しく聞いて、いいんだろうか。
なんか微妙というか、デリケートな話で、なかなか、言葉が出てこない。
西条さんが持ってきてくれたお酒を飲み始めた俊輔が、オレを見て「座れよ」と言った。仕方なく俊輔の正面に座ると、西条さんはオレの所にはお茶を出して、部屋を出て行ってしまった。
「……いただきます」
そう言って、食事を始める。
ここに来て、俊輔と向かい合ってごはんを食べるのが初めて。
その事実に、ほんと、びっくりだよねと思う……。
だって、もう結構経つのに。
だけど、実際こうなって面と向かい合ってると、いったい何を話せばいいんだか、何も、浮かばない。
「あんまり食欲ないか?」
「……動いてないからかも。あ、でも、食べるから」
辛うじて答えたきり、声が出ない。
ていうか。もう。
会話が……思い浮かばない。
西条さん、居てくれないかな……何か喋っててほしいよう……。
静かにただ食べているだけの時間を、過ごしていると。
しばらくして、俊輔がふう、と息をついた。
「……これ、すげえ強い」
言いながら、酒瓶のラベルを見ている。
俊輔は、すごくお酒強そうって思ってた。
たまに飲んでるの見かけたけど、全然赤くもならないし、酔ってる感じもしないし。西条さんは美味しい日本酒だと言って、小さめの瓶を2本、置いていったけど。グラスに注いで、一気飲みしたのをさっき見た。
熱い、とか言ってるの、珍しいような……まあそんなに熱いとか言う程は、赤くはなってないけど。
よく考えると俊輔って、朝早いし、帰ってくるの遅いし、最近は夜中もオレに合わせて起きたりなんかしてくれてたし、絶対寝不足だよね。……だからかな? ちょっと酔った?
「……お前の母親って、どんな人?」
「……」
不意に聞かれて、俊輔と視線を合わせた。
……急な質問が、それなんだ。
何を話せばいいんだろう、と思いながら。
「……オメガだったよ」
そう言うと、俊輔はオレを見ながら、小さく頷いた。
「体調悪いことも多かったけど……優しかった」
「……似てるか?」
「目とかは少し似てたかな。母さんが死ぬ前に、初めて父さんが居るって教えられて……ずっと、亡くなったと思ってたから」
「……愛人、てことか?」
「うん。そうみたい。すごい大きな会社の社長さんだって」
「……だから一緒に暮らしてないのか」
その質問に、うん、と頷くと、少し沈黙。
何だか俊輔……やっぱり少し酔ってるのかな。
それとも……これからオレと、色々話してく、つもりなのかな……。
「……オレの、母親もオメガだった」
「…そう、なんだ」
頷きながら、箸を置いた。
「もういいのか?」
気づいた俊輔に聞かれる。
「うん。結構食べたよ」
「果物とか、食べるか?」
「……うん」
そんなに食べたくはなかったけど、要らないっていうのに気が引けて、なんとなく頷くと、スマホで多分西条さんに何か入れてる。
「……知ってるだろ、アルファの出生率が下がってるの」
「うん」
もともと少ないけど、二、三十年くらいの間にますます下がってるってニュースでやってるのは知ってる。
「アルファを産む確率が高いのがオメガって、言われてるのも知ってるか?」
「……そうなの?」
「本当か知らないが、アルファの中ではそう言われてる」
そうなんだ。
……それは知らなかったかも。
「……だから、オレの母親は選ばれた」
「――――……」
……選ばれた?
「アルファの子供が欲しいから、親父は、母さんと結婚した」
「……」
……なんとも、言えない話に、俊輔をただ、見つめてしまう。
「……まあ。政略結婚みたいな見合い結婚も多かったらしいし。無い話じゃないとは思うけどな」
「…………」
何も言えないオレに、俊輔は苦笑した。
「……何とも言えないよな」
「…………」
少し俯いて、それから、小さく、頷く。
俊輔は、軽く頬杖をついて、それきり少し、黙ってる。
……詳しく聞いて、いいんだろうか。
なんか微妙というか、デリケートな話で、なかなか、言葉が出てこない。
94
お気に入りに追加
1,289
あなたにおすすめの小説
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。
運命の番から逃げたいです 【αとΩの攻防戦】
円みやび
BL
【αとΩの攻防戦】
オメガバースもの ある過去から人が信じられず、とにかく目立ちたくないがないために本来の姿を隠している祐也(Ω)と外面完璧なとにかく目立つ生徒会長須藤(α)が出会い運命の番だということがわかる。
はじめは暇つぶしがてら遊ぼうと思っていた須藤だったが、だんたん遊びにできなくなっていく。
表紙は柾さんに書いていただきました!
エブリスタで過去投稿していた物を少しだけ修正しつつ投稿しています。
初めての作品だった為、拙い部分が多いとおもいますがどうか暖かい目で見てください。
モッテモテの自信ありまくりの俺様が追いかけるというのが好きでできた作品です。
愛され奴隷の幸福論
東雲
BL
両親の死により、伯父一家に当主の座を奪われ、妹と共に屋敷を追い出されてしまったダニエル。
伯爵家の跡継ぎとして、懸命に勉学に励み、やがて貴族学園を卒業する日を間近に迎えるも、妹を守る為にダニエルは借金を背負い、奴隷となってしまう──……
◇◇◇◇◇
*本編完結済みです*
筋肉男前が美形元同級生に性奴隷として買われて溺愛されるお話です(ざっくり)
無表情でツンツンしているけれど、内心は受けちゃん大好きで過保護溺愛する美形攻め×純粋培養された健気素直故に苦労もするけれど、皆から愛される筋肉男前受け。
体が大っきくて優しくて素直で真面目で健気で妹想いで男前だけど可愛いという受けちゃんを、不器用ながらもひたすらに愛して甘やかして溺愛する攻めくんという作者が大好きな作風となっております!
スパダリαは、番を囲う
梓月
BL
スパダリ俺様御曹司(α)✖️虐げられ自信無しβもどき(Ω)
家族中から虐げられ、Ωなのにネックガード無しだとβとしか見られる事の無い主人公 月城 湊音(つきしろ みなと)は、大学進学と同時に実家を出て祖父母と暮らすようになる。
一方、超有名大財閥のCEOであり、αとしてもトップクラスな 八神 龍哉(やがみ たつや)は、老若男女を問わず小さな頃からモッテモテ…人間不信一歩手前になってしまったが、ホテルのバンケットスタッフとして働く、湊音を一目見て(香りを嗅いで?)自分の運命の番であると分かり、部屋に連れ込み既成事実を作りどんどんと湊音を囲い込んでいく。
龍哉の両親は、湊音が自分達の息子よりも気に入り、2人の関係に大賛成。
むしろ、とっとと結婚してしまえ!とけしかけ、さらには龍哉のざまぁ計画に一枚かませろとゴリ押ししてくる。
※オメガバース設定で、男女性の他に第二の性とも言われる α・β・Ω の3つの性がある。
※Ωは、男女共にαとβの子供を産むことが出来るが、番になれるのはαとだけ。
※上記設定の為、男性妊娠・出産の表記あり。
※表紙は、簡単表紙メーカーさんで作成致しました。
1人のαと2人のΩ
ミヒロ
BL
αの筈の結月は保健室で休んでいた所を多数に襲われ妊娠してしまう。結月はΩに変異していた。僅か12歳で妊娠してしまった結月だったが。
※表紙イラスト as-AIart- 様(素敵なイラストありがとうございます!)
·.⟡┈┈┈┈┈︎ ✧┈┈┈┈┈⟡.·
BLを書くに辺り、ハッシュタグでオメガバースを知り、人気なんだな、とネットで調べて初めて書いたオメガバースものです。
反省点、多々。
楽しみながら精進します☆
奴の執着から逃れられない件について
B介
BL
幼稚園から中学まで、ずっと同じクラスだった幼馴染。
しかし、全く仲良くなかったし、あまり話したこともない。
なのに、高校まで一緒!?まあ、今回はクラスが違うから、内心ホッとしていたら、放課後まさかの呼び出され...,
途中からTLになるので、どちらに設定にしようか迷いました。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
風俗店で働いていたら運命の番が来ちゃいました!
白井由紀
BL
【BL作品】(20時毎日投稿)
絶対に自分のものにしたい社長α×1度も行為をしたことない風俗店のΩ
アルファ専用風俗店で働くオメガの優。
働いているが1度も客と夜の行為をしたことが無い。そのため店長や従業員から使えない認定されていた。日々の従業員からのいじめで仕事を辞めようとしていた最中、客として来てしまった運命の番に溺愛されるが、身分差が大きいのと自分はアルファに不釣り合いだと番ことを諦めてしまう。
それでも、アルファは番たいらしい
なぜ、ここまでアルファは番たいのか……
★ハッピーエンド作品です
※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏
※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m
※フィクション作品です
※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです
※長編になるか短編になるかは未定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる