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第四章

5.「母親」*真奈

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5.「母親」*真奈

 西条さんが持ってきてくれたお酒を飲み始めた俊輔が、オレを見て「座れよ」と言った。仕方なく俊輔の正面に座ると、西条さんはオレの所にはお茶を出して、部屋を出て行ってしまった。

「……いただきます」
 そう言って、食事を始める。

 ここに来て、俊輔と向かい合ってごはんを食べるのが初めて。
 その事実に、ほんと、びっくりだよねと思う……。
 だって、もう結構経つのに。
 
 だけど、実際こうなって面と向かい合ってると、いったい何を話せばいいんだか、何も、浮かばない。

「あんまり食欲ないか?」
「……動いてないからかも。あ、でも、食べるから」

 辛うじて答えたきり、声が出ない。

 ていうか。もう。
 会話が……思い浮かばない。

 西条さん、居てくれないかな……何か喋っててほしいよう……。
 静かにただ食べているだけの時間を、過ごしていると。

 しばらくして、俊輔がふう、と息をついた。

「……これ、すげえ強い」
 
 言いながら、酒瓶のラベルを見ている。

 俊輔は、すごくお酒強そうって思ってた。
 たまに飲んでるの見かけたけど、全然赤くもならないし、酔ってる感じもしないし。西条さんは美味しい日本酒だと言って、小さめの瓶を2本、置いていったけど。グラスに注いで、一気飲みしたのをさっき見た。
 熱い、とか言ってるの、珍しいような……まあそんなに熱いとか言う程は、赤くはなってないけど。

 よく考えると俊輔って、朝早いし、帰ってくるの遅いし、最近は夜中もオレに合わせて起きたりなんかしてくれてたし、絶対寝不足だよね。……だからかな? ちょっと酔った?

「……お前の母親って、どんな人?」
「……」

 不意に聞かれて、俊輔と視線を合わせた。
 ……急な質問が、それなんだ。

 何を話せばいいんだろう、と思いながら。

「……オメガだったよ」
 そう言うと、俊輔はオレを見ながら、小さく頷いた。

「体調悪いことも多かったけど……優しかった」
「……似てるか?」
「目とかは少し似てたかな。母さんが死ぬ前に、初めて父さんが居るって教えられて……ずっと、亡くなったと思ってたから」
「……愛人、てことか?」
「うん。そうみたい。すごい大きな会社の社長さんだって」
「……だから一緒に暮らしてないのか」

 その質問に、うん、と頷くと、少し沈黙。

 何だか俊輔……やっぱり少し酔ってるのかな。
 それとも……これからオレと、色々話してく、つもりなのかな……。

「……オレの、母親もオメガだった」
「…そう、なんだ」

 頷きながら、箸を置いた。

「もういいのか?」

 気づいた俊輔に聞かれる。

「うん。結構食べたよ」
「果物とか、食べるか?」
「……うん」

 そんなに食べたくはなかったけど、要らないっていうのに気が引けて、なんとなく頷くと、スマホで多分西条さんに何か入れてる。

「……知ってるだろ、アルファの出生率が下がってるの」
「うん」

 もともと少ないけど、二、三十年くらいの間にますます下がってるってニュースでやってるのは知ってる。

「アルファを産む確率が高いのがオメガって、言われてるのも知ってるか?」
「……そうなの?」

「本当か知らないが、アルファの中ではそう言われてる」

 そうなんだ。
 ……それは知らなかったかも。


「……だから、オレの母親は選ばれた」
「――――……」

 ……選ばれた?


「アルファの子供が欲しいから、親父は、母さんと結婚した」
「……」

 ……なんとも、言えない話に、俊輔をただ、見つめてしまう。


「……まあ。政略結婚みたいな見合い結婚も多かったらしいし。無い話じゃないとは思うけどな」
「…………」

  何も言えないオレに、俊輔は苦笑した。

「……何とも言えないよな」
「…………」

 少し俯いて、それから、小さく、頷く。
 俊輔は、軽く頬杖をついて、それきり少し、黙ってる。
 

 ……詳しく聞いて、いいんだろうか。
 なんか微妙というか、デリケートな話で、なかなか、言葉が出てこない。




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