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第四章
4.「居た堪れない」*真奈
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4.「居た堪れない」*真奈
俊輔がバスルームから出てくる前に、西条さんがやってきた。
食事を運んできて、テーブルに並べていってくれる。
……向かい合わせで、同じものを。
「一応真奈さんも同じものを持ってきましたが、食べられそうですか?」
「あ、はい……」
「うどんとか、そういう方が良かったら言ってくださいね」
「はい。あ、でも大丈夫です」
そう言って、西条さんが準備をしているのを眺めていると、西条さんがオレを見て、ふ、と笑んだ。
「……戸惑ってらっしゃいますか?」
「――――……」
一瞬、何が、と思ったけど、聞かなかった。
俊輔のことしかない。……西条さんの前ではあんまり話してはないけど、でもきっと、色々前と違うのは分かっているはず。
「若は無理してやってるわけではないと思うので。そのまま受け止めてさしあげてくださいね」
「…………」
何だかうまく返事が出てこず、一応小さく頷く。
「……ただ」
西条さんのその言葉に、ふと目を向けると。
口元に軽く握ったこぶしを当てて、笑いを押し殺しているみたい。
何を笑ってるんだろうと、じっと見つめてしまうと。
「……らしくないですよね」
クスクス笑いすぎだと思う。
……こんな風に笑うんだなあ、この人。
俊輔が出てきたら怒られちゃうんじゃないのかな、と思いながら、でもまだシャワーの音が聞こえるからこそ、こんな感じにしてるのも分かるけど。
「若が最初、どんなつもりで真奈さんをここに連れてきたのかは、はっきりは分からないんですが……今はできたら、普通に話をしていただけたら、と思います。多分まだ、真奈さんに笑顔を見せたりがなかなかできない傾向にあるとは思いますが」
またクスクス笑ってる。
……ていうか、オレ、さっきそれ、思ってた……。
笑ってくれるとか、無いのかなって。
「もともと、そんなに笑顔が得意ではないんですよ」
「……」
…………笑顔って。
得意とか、不得意とか。……そういう言葉で表すもの、だっけ?
なんだかすごく不思議なんだけれど、なんとなく、相手が俊輔だからそんな表現も、納得してしまう。
「若のお母さまがいらした時は、よく笑ってよく泣く、普通の子だったんですが」
「――――……」
俊輔の、お母さん。
……ここに居ないし、お父さんみたいに話題にも上らないから、きっと亡くなってるんだろうなとは思っていた。
「俊輔が、いくつの時に……」
「小学生の……」
その時、バスルームのドアが開く音がした。
「ここまでにしますね。知りたいことは、若に聞いてみてください。多分、今ならきっとお答えになると思いますから」
「――――……」
オレは、西条さんを見つめながら、小さく、頷いた。
俊輔が珍しくバスローブじゃなくて、普通のパジャマみたいなのを着て出てきた。……ほんと、珍しい。
すぐ寝る時はバスローブなのかな。……すぐ、する、時はなのかな……?
……ここ最近、オレが先に寝てて、俊輔が後から一緒に寝てた時は、バスローブだったっけ。
シルクっぽい濃紺のパジャマ。
……なんかすっごい、似合うな……。
俊輔って、黙ってたら、ほんとカッコいい人なんだろうけど。
……黙ってたらって変か。別に喋っててもカッコいいんだけど、でも今までは内容がなぁ……。言ったら怒られるだろうかなと思うことを考えながら、タオルで髪の毛を拭いてる俊輔を見ていると、俊輔が西条さんに視線を向けた。
「和義」
「はい」
「何かうまい酒、頼む」
「今日は飲まれるんですか?」
「ああ」
「そうですか」
何だか意味深に笑ったと思ったら、西条さんは、ちらっとオレを見ながら。
「真奈さんがいつ具合が悪くなってもいいようにずっと飲まずに過ごしてらっしゃいましたからね。……分かりました、とびきり美味しいものをお持ちしますね」
「……」
俊輔は、西条さんのそのセリフに、途中から、西条さんを睨みつけていたけれど。
……絶対気づいてるだろうに、西条さんは素知らぬ顔で言い終えて、部屋を出て行った。
…………えっと……。
――――……そう、なんだ。オレの、ため……。
多分、睨んでたってことは、余計なこと言うなって感じだから。
……ほんとに、そうなんだ……。
なんだか、居た堪れない空気が。
……声が出せなくて、かなり、苦しい……。
俊輔がバスルームから出てくる前に、西条さんがやってきた。
食事を運んできて、テーブルに並べていってくれる。
……向かい合わせで、同じものを。
「一応真奈さんも同じものを持ってきましたが、食べられそうですか?」
「あ、はい……」
「うどんとか、そういう方が良かったら言ってくださいね」
「はい。あ、でも大丈夫です」
そう言って、西条さんが準備をしているのを眺めていると、西条さんがオレを見て、ふ、と笑んだ。
「……戸惑ってらっしゃいますか?」
「――――……」
一瞬、何が、と思ったけど、聞かなかった。
俊輔のことしかない。……西条さんの前ではあんまり話してはないけど、でもきっと、色々前と違うのは分かっているはず。
「若は無理してやってるわけではないと思うので。そのまま受け止めてさしあげてくださいね」
「…………」
何だかうまく返事が出てこず、一応小さく頷く。
「……ただ」
西条さんのその言葉に、ふと目を向けると。
口元に軽く握ったこぶしを当てて、笑いを押し殺しているみたい。
何を笑ってるんだろうと、じっと見つめてしまうと。
「……らしくないですよね」
クスクス笑いすぎだと思う。
……こんな風に笑うんだなあ、この人。
俊輔が出てきたら怒られちゃうんじゃないのかな、と思いながら、でもまだシャワーの音が聞こえるからこそ、こんな感じにしてるのも分かるけど。
「若が最初、どんなつもりで真奈さんをここに連れてきたのかは、はっきりは分からないんですが……今はできたら、普通に話をしていただけたら、と思います。多分まだ、真奈さんに笑顔を見せたりがなかなかできない傾向にあるとは思いますが」
またクスクス笑ってる。
……ていうか、オレ、さっきそれ、思ってた……。
笑ってくれるとか、無いのかなって。
「もともと、そんなに笑顔が得意ではないんですよ」
「……」
…………笑顔って。
得意とか、不得意とか。……そういう言葉で表すもの、だっけ?
なんだかすごく不思議なんだけれど、なんとなく、相手が俊輔だからそんな表現も、納得してしまう。
「若のお母さまがいらした時は、よく笑ってよく泣く、普通の子だったんですが」
「――――……」
俊輔の、お母さん。
……ここに居ないし、お父さんみたいに話題にも上らないから、きっと亡くなってるんだろうなとは思っていた。
「俊輔が、いくつの時に……」
「小学生の……」
その時、バスルームのドアが開く音がした。
「ここまでにしますね。知りたいことは、若に聞いてみてください。多分、今ならきっとお答えになると思いますから」
「――――……」
オレは、西条さんを見つめながら、小さく、頷いた。
俊輔が珍しくバスローブじゃなくて、普通のパジャマみたいなのを着て出てきた。……ほんと、珍しい。
すぐ寝る時はバスローブなのかな。……すぐ、する、時はなのかな……?
……ここ最近、オレが先に寝てて、俊輔が後から一緒に寝てた時は、バスローブだったっけ。
シルクっぽい濃紺のパジャマ。
……なんかすっごい、似合うな……。
俊輔って、黙ってたら、ほんとカッコいい人なんだろうけど。
……黙ってたらって変か。別に喋っててもカッコいいんだけど、でも今までは内容がなぁ……。言ったら怒られるだろうかなと思うことを考えながら、タオルで髪の毛を拭いてる俊輔を見ていると、俊輔が西条さんに視線を向けた。
「和義」
「はい」
「何かうまい酒、頼む」
「今日は飲まれるんですか?」
「ああ」
「そうですか」
何だか意味深に笑ったと思ったら、西条さんは、ちらっとオレを見ながら。
「真奈さんがいつ具合が悪くなってもいいようにずっと飲まずに過ごしてらっしゃいましたからね。……分かりました、とびきり美味しいものをお持ちしますね」
「……」
俊輔は、西条さんのそのセリフに、途中から、西条さんを睨みつけていたけれど。
……絶対気づいてるだろうに、西条さんは素知らぬ顔で言い終えて、部屋を出て行った。
…………えっと……。
――――……そう、なんだ。オレの、ため……。
多分、睨んでたってことは、余計なこと言うなって感じだから。
……ほんとに、そうなんだ……。
なんだか、居た堪れない空気が。
……声が出せなくて、かなり、苦しい……。
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