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第三章
27.「らしくない」*俊輔
しおりを挟む考えてみると、和義がこんな風に笑うのを見るのが、最近になって急に増えた気がする。真奈の影響だろうか。それとも。……オレが真奈のことで、和義と話す機会が増えたからか。
……今まで、和義とちゃんと話をしてきていなかったかもしれない。
そんなことにふと気付いた。
「和義と、ちゃんと話してるの……最近か、オレ……」
「……そうですね」
「……」
「長い反抗期かと思ってましたから、大丈夫ですよ」
クス、と笑う和義に、何だかバツが悪くて視線を逸らした。
「……ついでに話していいか」
「もちろん。 何ですか?」
「……さっき迎えに行く時……真奈がどうしても嫌だというなら、ここから出してやろうと、思ってたんだ。元気になったら」
「……」
「……顔を見たら、それも出来ねえと、思った」
「若……」
「つか……オレ、ほんと、何なんだろうな」
ふと、俯く。
「らしくねえよな」
「……小さい頃の若は、そんな感じでしたよ」
言われた言葉に思わず一瞬固まって、大きく息をついた。
「そんな感じって何だよ……」
「……欲しいと思ったものは、泣き喚いて欲しがりましたから。いつからか、早々に諦めるようになった気がしますけど」
小さい頃のことを知られているのは、こういう時、分が悪い。
もう一度大きくため息を付いた。
「だから……ガキん頃と比べんなって、言ったろうが」
「……ですね」
和義は一瞬視線を落として、それから再び視線を上げた。
「最近のあなたは、今までの若らしくはないですが……本当の若らしいと、私は思ってますよ」
「あ? 何だ、それ……」
怪訝そうに見上げたオレに、和義は首を振って見せた。
「いえ…… 今のは忘れてもらって構いません。 若」
「……?」
少し口調の変わった声に、黙って和義を見やる。
「これから、どうなさるおつもりですか?」
「……」
「真奈さんのことです。……すぐに、とは言いません。ですが、近い未来ではなく、遠い未来のこと。少し、考えてみて下さい」
「……分かった……いや……分かってる」
頷くと、和義はふ、と視線を和らげ、それきり何も言わなかった。
遠い、未来。 ……否、そう遠くはない未来。
父の跡を継ぐ自分。真奈のことを父が許すはずが無い。
女なら、人のことは言えない父だけれど、ベータの男では話が全く違う。
いつまで、真奈と居られるのか。
……そもそも、閉じこめておいていい訳がない。
元気になったら。外に出してやらねえとだし。
いつか離さなければならないなら、早いうちにとも、思う。
「……とりあえず飲み物をお持ちします」
言って、和義が部屋を出ていった。
ゆっくりと立ち上がって、真奈の寝ているベッドに静かに腰掛けた。
そっと、額に触れる。……熱い。 吐く息も、熱いのが、分かる。
それでも…… 無事に、ここに戻せたこと。
部屋に、真奈が居ること。
「……真奈……」
さっき、真奈に触れた時。
……どれだけ嬉しかったか、知れない。
真奈がここに戻ることを望んでいないのが、分かっていても。
真奈にここに居て欲しいと、自分がどれだけ望んでいるのか、思い知らされた。
そっと触れて、見つめる。
いま感じるこの気持ちを、何と表すのかはよく分からない。
けれど、大事でたまらないのだけは……嫌でも、分かる。
今度、目が開いた時。
……真奈は、どんな表情で、何と言うのか。
目を閉じている真奈を見ている方が穏やかで楽だけれど。
やっぱりこの目が開いていて欲しい。
まっすぐな瞳で、見つめられたいと、思ってしまう。
「――――……」
そっと髪の毛を掻き上げさせて…… その額にキスを、した。
そんな、らしくなさすぎる、自分の行動に。キスしてしまってから改めて気付いて。
真奈から手を離すと、落ち着かずに、立ち上がり、少し離れる。
「若?」
部屋の真ん中で立ち尽くして居たオレに、戻ってきた和義が不思議そうな表情を見せたけれど。
特に何も答えられないまま窓際まで移動して、真っ暗な空を見上げた。
いくつか光る小さな星を目に映して。
それから、ため息とともに、瞳を伏せた。
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