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第三章
26.「和義と凌馬」*俊輔
しおりを挟む「おっと……真奈ちゃん?」
凌馬は中に入らず、そのままそこに立ち尽くして、どうやら支えたらしい、真奈の名を呼んだ。
「どした?」
「凌馬さん、 あの……?」
……真奈の、声が聞こえた。
久しぶりに、まともに聞く、真奈の声。
「……ああ、殴ったのはオレ。 少し位痛い思いさせねえとな」
はは、と笑いながら、凌馬がオレを振り返る。
眉を顰めて…視線を逸らす。
そのまま、真奈を、ソファに寝かせるのを後ろから見ていると。
……まともに立てないのかと。
――――……自己嫌悪しか浮かばない。
凌馬が少し体を下げて。やっと真奈と視線が合うと。
真奈が、少し震えた。
「大丈夫だよ、こいつ。もう落ち着いてるから」
凌馬がそう言うが、真奈は固まってる。
「とりあえずオレは一回出る。すぐそこに居っから。……大丈夫だよな?」
凌馬がオレに言うので、頷く。
「少し話してやって」
真奈に向けてそう言った凌馬に肩を押されて、少し真奈に近づいた。
……真奈。
下から、恐る恐ると言った態で見上げてきてる真奈。
思っていたよりは、普通の状態に、ほっとしながら、何だか きょとんとしてる真奈を、黙って見つめる。
……顔をちゃんと見るのが、久しぶりだ、と、ただそう思った。
そう伝えると、真奈も、頷く。
「……本当に 無事なんだな……?」
さっき、一気に冷え切った血液は……嘘だと聞いても尚、冷えたままな気がする。真奈が頷いたことで、ようやく、少しだけほっとした。
どれくらい熱があるのかと額に触れようとしたら、真奈が震えた。仕方ないと思いつつも、こんなに怯えさせてしまったことに、胸が痛む。
真奈の状態を確認すると……まあ分かってたけど、体調は最悪。
熱も高いし、傷も痛む。まともに歩いていられない。
全部、オレのせいだと、分かってる。
だから、謝った。
――――……思うと、あまり人に謝った記憶がない。
今思うことを、全部そのまま、言ってみた。
何だかすごく驚いた顔で、オレをじっと、見ていた真奈は。
許せ、と言った時。きょとんとした。瞬きを繰り返したと思ったら。
それから。……何を思ったのか、ふ、と笑んで、頷いた。
どうして笑うんだろう。
今までで一番ひどいことをした気がする。殴り合いとかそんなんじゃなくて、完全に、ただの一方的な暴力。
あんなことをした相手に。手が触れそうになるだけで、びくついてる相手に。
「許す」と言って、わずかだとしても笑って見せる真奈が、オレにはよく分からなかった。
◇ ◇ ◇ ◇
車の中で、途中から眠り始めた真奈を、屋敷について抱き上げた。
全く、目を覚まさない。
そのまま部屋に戻って、真奈をベッドに寝かせた。
少し見下ろした後、寝室から離れてソファに腰掛けると、小さくノックをして、和義が入ってきた。
「真奈さんは あのままお休みですか?」
「ああ……起きそうにない」
「……何か、冷たいものでも、お飲みになりますか?」
「……ああ」
「すぐ持ってきます」
「和義」
立ち去ろうとした和義を呼び止める。
「はい?」
すぐに足を止めて振り返った和義を、ソファ越しに少し見上げる。
「……何でお前も、凌馬も……真奈のことでそんなに怒るんだ」
「……は?」
不思議そうに首を傾げる和義に、思わず苦笑を浮かべる。
「……今回、思った。真奈に何かすると、お前ら二人が黙ってねえんだって」
そう言うと、和義は少し黙った後、微笑した。
「私は若のことを考えてのことです。若にとって、彼が良い存在なら、大事にしますし……」
「……それだけじゃねえだろ。お前、オレに逆らって、真奈を別の部屋に隠したじゃねえかよ」
「若……」
「凌馬だって、真奈を逃がすっても思ったって、言ってたぞ」
「……そうなんですか」
和義は、苦笑いして、何も言わない。
黙って見つめていると、仕方なさそうに口を開いた。
「……彼には泣いたり悩んでたりしてるよりも、笑っていて欲しいと思います。多分、それは若と同じです」
「オレがいつそんなこと言ったンだよ」
「おっしゃらなくても、分かりますけど。多分、凌馬さんも、若の気持ちが分かってるからこその、色々だと思いますよ」
一瞬返す言葉に詰まると、また、ふ、と笑われた。
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