「Promise」-α×β-溺愛にかわるまでのお話です♡

悠里

文字の大きさ
上 下
88 / 141
第三章

26.「和義と凌馬」*俊輔

しおりを挟む

「おっと……真奈ちゃん?」 
 
 凌馬は中に入らず、そのままそこに立ち尽くして、どうやら支えたらしい、真奈の名を呼んだ。
  
「どした?」
「凌馬さん、 あの……?」
 
 ……真奈の、声が聞こえた。
 久しぶりに、まともに聞く、真奈の声。
  
「……ああ、殴ったのはオレ。 少し位痛い思いさせねえとな」
 
 はは、と笑いながら、凌馬がオレを振り返る。
 眉を顰めて…視線を逸らす。
 そのまま、真奈を、ソファに寝かせるのを後ろから見ていると。

 ……まともに立てないのかと。
 ――――……自己嫌悪しか浮かばない。
 
 凌馬が少し体を下げて。やっと真奈と視線が合うと。
 真奈が、少し震えた。


「大丈夫だよ、こいつ。もう落ち着いてるから」

 凌馬がそう言うが、真奈は固まってる。


「とりあえずオレは一回出る。すぐそこに居っから。……大丈夫だよな?」
 凌馬がオレに言うので、頷く。

「少し話してやって」
 真奈に向けてそう言った凌馬に肩を押されて、少し真奈に近づいた。
 
 
 ……真奈。
 
 下から、恐る恐ると言った態で見上げてきてる真奈。
 思っていたよりは、普通の状態に、ほっとしながら、何だか きょとんとしてる真奈を、黙って見つめる。 
 
 ……顔をちゃんと見るのが、久しぶりだ、と、ただそう思った。
 そう伝えると、真奈も、頷く。

「……本当に 無事なんだな……?」

 さっき、一気に冷え切った血液は……嘘だと聞いても尚、冷えたままな気がする。真奈が頷いたことで、ようやく、少しだけほっとした。
 どれくらい熱があるのかと額に触れようとしたら、真奈が震えた。仕方ないと思いつつも、こんなに怯えさせてしまったことに、胸が痛む。

 真奈の状態を確認すると……まあ分かってたけど、体調は最悪。
 熱も高いし、傷も痛む。まともに歩いていられない。

 全部、オレのせいだと、分かってる。


 だから、謝った。
 ――――……思うと、あまり人に謝った記憶がない。

 今思うことを、全部そのまま、言ってみた。
 何だかすごく驚いた顔で、オレをじっと、見ていた真奈は。
 許せ、と言った時。きょとんとした。瞬きを繰り返したと思ったら。
 それから。……何を思ったのか、ふ、と笑んで、頷いた。

 どうして笑うんだろう。

 今までで一番ひどいことをした気がする。殴り合いとかそんなんじゃなくて、完全に、ただの一方的な暴力。

 あんなことをした相手に。手が触れそうになるだけで、びくついてる相手に。


 「許す」と言って、わずかだとしても笑って見せる真奈が、オレにはよく分からなかった。


 
 
◇ ◇ ◇ ◇ 

 
 
 
 車の中で、途中から眠り始めた真奈を、屋敷について抱き上げた。
 全く、目を覚まさない。
  
 そのまま部屋に戻って、真奈をベッドに寝かせた。
 少し見下ろした後、寝室から離れてソファに腰掛けると、小さくノックをして、和義が入ってきた。
  
「真奈さんは あのままお休みですか?」
「ああ……起きそうにない」
 
「……何か、冷たいものでも、お飲みになりますか?」
「……ああ」
 
「すぐ持ってきます」
「和義」
 
 立ち去ろうとした和義を呼び止める。
 
「はい?」
 すぐに足を止めて振り返った和義を、ソファ越しに少し見上げる。
 
「……何でお前も、凌馬も……真奈のことでそんなに怒るんだ」
「……は?」
 
 不思議そうに首を傾げる和義に、思わず苦笑を浮かべる。
 
「……今回、思った。真奈に何かすると、お前ら二人が黙ってねえんだって」

 そう言うと、和義は少し黙った後、微笑した。
  
「私は若のことを考えてのことです。若にとって、彼が良い存在なら、大事にしますし……」
「……それだけじゃねえだろ。お前、オレに逆らって、真奈を別の部屋に隠したじゃねえかよ」
「若……」

「凌馬だって、真奈を逃がすっても思ったって、言ってたぞ」
「……そうなんですか」

 和義は、苦笑いして、何も言わない。
 黙って見つめていると、仕方なさそうに口を開いた。
  
「……彼には泣いたり悩んでたりしてるよりも、笑っていて欲しいと思います。多分、それは若と同じです」
「オレがいつそんなこと言ったンだよ」

「おっしゃらなくても、分かりますけど。多分、凌馬さんも、若の気持ちが分かってるからこその、色々だと思いますよ」

 
 一瞬返す言葉に詰まると、また、ふ、と笑われた。




 


しおりを挟む
感想 112

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。 ※(3/14)ストック更新終わりました!幕間を挟みます。また本筋練り終わりましたら再開します。待っててくださいね♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

処理中です...