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第三章
25.「一発」*俊輔
しおりを挟む和義の出してきた車に乗り込んで、自分を落ち着かせるために、静かに息を吐いた。
もしも、あいつが、どうしてもここを出たいと言うなら。
そうじゃないと、生きられないと言うなら。
出してやってもいい。
ただし、 回復してから、だ。
和義に行き先を告げた後、声を荒げてしまいそうなのを必死で堪えながら、凌馬に聞いたことを端的に話した。
「和義……そいつらを探してほしい」
「若……」
「特徴を真奈から聞けたら、即探し出して欲しい」
「……分かりました」
普段ならこんな頼みは咎めるだろうが、今回は察知したのか、和義は頷いた。
……あいつに、んな真似した奴ら。ただじゃおかない。
梨花が使った奴らか、どこかで出会った奴らか知らないが、どうせ一般人じゃないだろう。見つけようと思えばすぐ引っかかる。すぐ引っかからなくても。どんな手を使っても、必ず見つけ出してやる。
「……和義……」
「……はい」
「……真奈が……こうなったのは、全部オレのせいだよな……」
「若……」
「いい、答えなくて……分かってる」
それきり黙って、背もたれに沈む。
前髪をかきあげたまま、ひどく痛む頭を押さえつける。
……なんでオレは、あんなこと……。
あんなことしてなければ……こんなことには、なっていなかったのに。
心は逸るのに、道は混んでいてなかなか進まない。ようやく辿り着いて車を降りる。
喫茶店のドアを開けると、気付いた連中が振り返ってすぐに騒ぎ始めた。メンバーの店なので、ほとんどが仲間だ。
「凌馬は?」
名を呼んで近づいてくる言葉を全て無視して、それだけ言うと、二階に居ます、との答え。皆の間を縫って奥に進み、そこのドアを開けると、思ったよりも強く開けてしまい、向こう側にガン、と当たった。そのドアを閉めて、階段を一気に駆け昇った。いくつか部屋があって、どこか分からない。
「凌馬!」
声を荒げて名を呼ぶと、凌馬が、ある部屋から出てきた。
「凌馬、真奈――――……」
この部屋か、と入ろうとしたところを、凌馬が遮る。後ろ手にドアを閉めて、凌馬が息をついた。
「ああ……俊輔、先に一つ言っとく」
「あ?」
「……さっきの電話、嘘」
何を言われたのか、とっさに理解できない。
嘘?
「何が……どれが……?」
どこからどこまでを嘘だといってるのか、頭が整理できない。
呆然と言ったオレに、凌馬は、答えた。
「拾ったのはほんと。絡まれてたっつーのも下の奴の話だとほんとらしい。んでその後、倒れてたのも、意識がほとんど無かったのも、手首が血だらけだったのも、熱がすっげえあって立てねえのもほんと」
「……じゃあ……」
「男にヤラれた、っつーとこだけは嘘」
ホッとすると同時に、ここに来るまでの時間中、煮えたぎってた思いがよみがえり、カッとして思わず凌馬に詰め寄った。
「何でそんな嘘――――……」
その瞬間。いきなり、凌馬の拳が飛んできた。
あまりに予想外でいきなりだった為、避ける間もなく見事に喰らって、背中を壁にぶつけた。
「……にしやがる!」
「それはこっちのセリフだ!」
怒鳴り飛ばした瞬間、凌馬が至近距離に詰め寄ってきて、そのまま胸ぐらを掴み上げられた。
「……っ」
至近距離で、睨み合うこと数秒。
凌馬の方が先に、静かに口を開いた。
「……お前、あの子に何しやがった」
打って変わって 静かな……けれど、強い視線と、言葉。
「あの子が大事なんじゃねえのか? 好きなら優しくしてやれって言った筈だぜ。好きでもねえなら、自由にしてやれよ」
「……」
「好きでもねえのに、ひでえことする為に閉じこめてるなら、このまま返さねえ。あの子は自由に生きてくべきだ」
「……凌馬……」
ひどいことをしたのは紛れもない事実なので、答えることが出来ず、凌馬をまっすぐ見つめ返すしかできなかった。
「大事なんだろ? あの子を、側に置いときたいんじゃねえの?」
「――――……」
何も答えられていないのに、凌馬はオレの顔を見つめて、ため息をついた。
「大事だったら、せめてあの子に優しくしてやれよ。それだけで、あの子の気持ちだって、大分違うだろうが」
何も返す言葉が浮かばず、ただただ見つめ返していると……凌馬は ふ、と苦笑い。
ゆっくりと、オレから手を離した。
「初めて過ぎて、分かんねえんだろ、大事だってのが」
しょうがねえな、お前、と呆れたように言われる。
「とりあえず、真奈ちゃんが俊輔に連絡するのを嫌がんなかったから呼んでやったんだからな。……これ以上、苛めんなよ?」
「……真奈が……?」
「ん。……オレは、そのまま逃がしてやるって選択肢も与えたんだけどな。俊輔が迎えに来るなら、戻るってさ」
「……」
「まあ嘘はオレが勝手についただけで、あの子はそこらへんは知らなかったからな」
凌馬の言葉に、眉を顰める。
「……お前の嘘……何よりも、最悪だ」
吐き捨てるように呟くと。
ふ、と凌馬は笑った。
「ああ、やっぱり? ってか、お前が、それでも心配して来んのかどうか試したかったんだからしゃあねえだろ?」
「……他に何かなかったのかよ……」
前髪を掻き上げながら睨んでみせると、凌馬はおかしそうに笑った。
「一番効く奴のがいいだろうが……んで? もう、落ち着いたか?」
「……ああ」
「さっきの勢いで、真奈ちゃんに会わせる訳にはいかねえだろ。怖がって、あの子の心臓止まるわ」
ふ、と笑った凌馬に、息を付く。
「もう、落ち着いた」
「……さっきのは、あの子の代わりの一発だ。許せよな……つか、お前も殴られたかったろ?」
笑いながら凌馬が言う。面白くはないが、何も言い返す言葉が無い。
確かに、殴られてスッキリしたのも、否めない。
オレが頷くと、凌馬はまた少し笑いながら、ドアを静かに開けた。
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