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第三章
24.「いらない訳がない」*俊輔
しおりを挟む監視カメラの映像から、車のナンバーは割れて、和義が調べ上げたその持ち主の連絡先。
けれど連絡がつかず、実際その人間が真奈を連れ出した本人なのかすら、分からない状態だった。盗難車だったらもはや分からないかもしれない。
「……」
真奈が、この屋敷に、居ない。
怒りという感情は不思議と沸いてこない。
どんなひどいことをしたのか、自分でも分かってる。
今まで何とか我慢してきた真奈が、耐えられなくなったって、文句は言えない。けれど。
……よりによって、あんな体調の時に。
どこまであの車で行ったのか分からない上、その後どこへ向かうか、全く見当も付かない。
多分、友達の所には頼らないだろうし、前の家にも戻らない。そうでないと見つかること位分かるだろう。と言うことは、真奈自身ですら、自分の行き先が決まっていないかもしれない。
そんな人間の、行く先を見つけるなんて……出来るんだろうか。
闇雲に外を駆け回ることも無意味だ。
しかも。一番の気がかりは、無事なのかということ。
どこかで倒れていたりしていないか。
そもそも、連れ出された連中に乱暴されたりはしていないか。……梨花がそこまでやらせるとは思えないけれど、どうせロクでもない連中だろう。何をするかなんて分からないと、嫌な考えすらよぎってしまう。
「とにかく車の持ち主の住所を直接あたらせてきます。それから近辺のホテルに宿泊してないか、調べさせます」
言って、和義が部屋を出ていった。
何も出来ることもないのに、座っていられず、窓から外を見上げる。
外はもう真っ暗だった。
ホテルに居るなら、それで良い。
とりあえず今、真奈が無事で居るなら、どこに居ても良い。
「……真奈 …… 」
あの夜までは、必ずこの部屋に、その姿があったのに。
その存在が、ここに無いというそれだけなのに。どうして、こんなに胸が、痛むのか。
「……」
その時。
ポケットのスマホが不意に震えた。名前を見ると、凌馬から。
今は、何の話をする気分にもなれず、鳴り続けるのを無視していると、切れた。
けれど、すぐにもう一度、鳴り始める。
「っ……」
苛ついて、電話に出た。
『あぁ、しゅんす……』
「取込中」
言うだけ言って、ぷち、と通話を切る。
他の奴ならいざ知らず、凌馬ならそれで分かる。何かしらあったんだと察するはず。
……そう思った数秒後。再びスマホが鳴り始めた。
「取込中だって言ってん……」
電話に出て、こっちが声を荒げたのにかぶせるように。
『真奈ちゃんのことだが、切っていーんだな!』
そう凌馬が声を荒くした。
「……は?……」
真奈?
……今、真奈のこと、っつったか……?
「……凌馬……今なんつった?」
『……真奈ちゃんの話だ。それでも切るか?』
「真奈の話……何だよ?」
『拾ってきてて、今一緒に居る』
「……何……」
思いも掛けなかった、凌馬の言葉。
何を聞くべきか戸惑っている間に、和義が部屋に戻って来た。
「若?」
「……ああ……凌馬、だ。真奈が……」
「真奈さんが?」
和義の顔を見たまま。
思いつくまま、オレは言葉を吐いた。
「真奈がそこに居るのか?」
『ああ。今、ソファに寝かせてる』
「凌馬、今どこに居る? 今すぐそこに……」
『……俊輔』
「……」
凌馬の声が妙に神妙で。一瞬黙るしかなかった。
すると。
『……拾ったは拾ったけど…… あんまり無事じゃねえよ?』
「何……」
『下の奴が倒れてるとこ見つけてきたんだけどよ。多分元々具合悪いとこ……乱暴されたみてえだな』
「……乱暴?」
何だよ、その、曖昧な言葉は。
……嫌な予感に、背筋が凍る。
『……犯されたみてえでな……血と精液まみれで意識ないとこを一応拾ってはきたけど……正直一目見た時は死にかけてんのかと思った位。熱もひでえし』
「――――……」
ぐらり、と目眩がした。
「若……?」
和義が目の前で少し眉を顰めた。
『……どうする? 他の男にヤられた男なんか、もういらねえか?』
「……いらない……?」
『ああ。俊輔がいらないってんなら、こんなとこで会ったのも何かの縁だ。……とりあえずあの子が元気になるまでは面倒見てやるけど?』
凌馬の言葉に、一瞬で、いらない訳がない、と思った。
真奈は、今どんな状態なのか。
もともと傷つけてたのに、この上、どれだけ……。
傷もだが、気持ちの方が心配だった。
それから……あんなことをして、結果的にこんなことを引き起こした、自分への怒りと。
真奈にそんなことをした見知らぬ奴らへの、憎悪。
色んな物が一気に込み上げて、収集がつかない。
胸が張り裂けそうに苦しくなる。初めての感覚。
けれど、とりあえず、最初にやらなければならないひとつのことを、すぐに口にした。
「……すぐ、迎えに行く」
『……』
爆発しそうな、たくさんの想いを必死に堪えたまま、そう告げると、凌馬からの返事はなかった。
けれど、続けた。
「……すぐ迎えに行くから。それまで、真奈のこと頼む」
『……へえ……』
「……何だよ?」
『お前が頼む、なんて言うの……すげえ、珍しい。分かった、お前が来るまで、大事に預かる』
「ああ。 ……凌馬、今どこだ? すぐに行く」
和義に目を向けると、和義は、車を回してくると言い残して足早に部屋を出ていった。
溜まり場の喫茶店と聞いて、すぐに頷く。
「すぐ行く」
『あ、待て待て! お前慌てすぎて、バイク飛ばしてくんなよ? 事故ったらしゃれんなんねえからな』
「……和義の車で行く」
『ならいい。待ってる』
「ああ」
頷くと、スマホを切って、玄関へと急いだ。
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