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第三章

21.「連れて帰って」*真奈

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 なんだかもう、本当に驚きすぎて、何も答えられない。

「真奈」
「……」

「聞いてるか?」
「……」

 そう聞かれて、辛うじて頷くと、俊輔はオレの肩に触れて、少しだけ、離した。
 すごくすごく繊細な、壊れ物にでも触れるみたいな触れ方。

 でも、オレはさっき俊輔を見た時よりもかなりパニック。

 こんな風な、触れ方も知らないし。
 穏やかに話す、俊輔も知らない。

 俊輔が謝るなんて。……一体、なんて答えればいいんだろう。


「……真奈の嫌がる事は、しないから」


 静かにゆっくりと、紡がれる言葉。
 

「……だから、今回だけ許せ」
「――――……」

 その言葉を聞いて、急に瞬きが、戻ってきた。


 ……許せ……?

 ……許せっ……て、そこは、やっぱり命令口調なんだ……?


「――――……」


 何だか、恐怖とか、驚きから一転。
 不意に、おかしくなってしまった。
 
「……うん」

 自然と、顔が綻んだ自分に、驚いた。

 何が楽しいんだ。オレ。
 ――――……笑うような所じゃ全然ないのに。

 だけど、俊輔がこんな風に誰かに謝るなんて。
 きっとほとんど無いんじゃないかと、容易に想像できてしまうし。
  
 誓う、なんて言い方で約束してくれる程に。
 あのことを許して欲しいと、思って……くれてる、んだ。と、思ったら。
 
 どうしても。
 どう、自分の気持ちを誤魔化そうとしてみても。
 やっぱり、どうしてもどうしても。……なんだか、嬉しいみたいで。


「……許す……」

 まっすぐに見上げてそう言うと、俊輔は、ほっとしたように、少しだけ表情を和らげた。
 笑った訳じゃないんだけど、ほっとしたのは、すごく伝わってきた。

 
「……真奈を、オレの家に連れて帰りたい」
「――――……」

「良いか?」
「――――……」

 何て答えればいいんだろう。良いよ、なのか。連れて帰って、と頼むとこなのか。
 ……何か、色々考えてたら、すぐに答えられなくて少し黙っていたら。


「……嫌って言っても……そこだけは聞いてやれねーけど……」

 ふ、と、苦笑いの俊輔に、なんだか笑ってしまいそうになる。

 ……だって。嫌なことしないって今さっき言ったのに。

 嫌って言ってもそこは、連れて帰るって。
 選択権ないなら、聞かないでほしい……なんて思うのだけれど。


 ……オレを、連れて帰って、くれるんだ。
 
 嫌なことはしないって、約束をしてでも。
 ……まだ、オレを、俊輔の近くに連れて帰ろうって、思うんだ。


 凌馬さんにも、言った。

 あんなことされても、俊輔を憎んでないって。全部が嫌いじゃないって。

 迎えに来てくれたら、帰るつもりで、凌馬さんに俊輔を呼んでもらった。
 オレを逃がしてって頼んだら、凌馬さんは絶対そうしてくれたのに、オレはそれを断って、俊輔のところに帰ることを望んだ。

 ほんとに、どうしてだろうって、自分でも思ってた。


 でも、なんだか。
 今の俊輔を見ていると。

 こういう俊輔も、居るんだって。
 オレは多分、心のどこかで感じてたから。


 憎んでなかったんじゃないかと。

 ――――……何だかすごく、思ってしまった。




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