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第三章
16.「気まずい」*真奈
しおりを挟む「俊輔な、ひでぇんだぜ?」
「……?」
笑いを含んだ声に、凌馬さんを見上げる。
「電話かけてもさ、一回目は無視されて、二回目は電話に出た瞬間、取り込み中だって、オレの言葉を何も聞かずに、二秒で切りやがった。……ひどくねえ、アイツ?」
「……」
俊輔らしすぎて、特にひどいとも思わない……などとは言えずに居ると、凌馬さんは特に気にせずに先を続ける。
「で、三回目かけて、取り込み中だって言ってんだろって怒鳴られてんのと一緒にこっちも、真奈ちゃんのことだが、切っていーんだなって怒鳴ってやったら、すっげえ沈黙があって……」
思い出したように、クックッと笑いながら、凌馬さんは椅子に腰掛けた。
「……付いた嘘、教えて欲しいか?」
「……」
何だか聞くのが怖い。でも聞きたい。
……かなり、複雑な気持ちで咄嗟に答えられずにいると、凌馬さんはクスクス笑って話し始めた。
「ふらふらしてっとこちんぴらに絡まれて乱暴されて、血と精液塗れになってんとこを、たまたま通りかかって、一応拾ってきたけど、どーする? って、聞いた」
「血と……せいえ…………」
……殴られたんじゃなくて、……犯されたって事か……。
うう。アリエナイ。この状況で、更にそんなのがホントだったら、もう、死んだ方がマシだ。
あんまりな嘘の内容に、目眩がする。
俊輔も凌馬さんも。……やっぱりちょっと普通じゃない。
普通は思いつかないような嘘だし……俊輔だって、驚くとかじゃなくて事実かと疑うとこだと思うし。
……だってオレ、そもそも、男だし。
……はー ……。
「まあぐったりしてんの拾ったのは本当だし。手首んとこが血塗れだったのもほんとだしな。熱あるから余計血がとまんねえんだろ。……逆か? 血がとまんねえから熱出てんのか? どっちなんだろうな……」
どっちなんだろ? 首を傾げていると。凌馬さんは、オレの額に触れた。
「つか、もう温いのな。どんだけ熱いの、真奈ちゃん」
ぴりぴり、と冷却シートが剥がされた。
「タオルのが良いかもな。……今持ってくる。真奈ちゃん、医者には診て貰ってるよな? 西条さんがそこらへんはフォローしてるだろ?」
「……」
頷いて、視線を落とす。
西条さんの名を聞いて、気持ちが沈む。
せっかく……多分、俊輔に逆らう覚悟で、別の部屋、寝かせてくれてたのに。
勝手に黙って出て来ちゃって、なんだか申し訳なさすぎて。
……秀人の事頼めたら、なんて思ってたけど、やっぱり言えた義理じゃない。
これから、俊輔に会うかもって事は……西条さんにも会うって事だけど。……気まずい。
一人暗く落ち込んでいると、凌馬さんが立ち上がった。
「待ってろよ、タオル持ってくる」
「あ」
「ん?」
行ってしまおうとする凌馬さんに、オレは咄嗟に声を出した。
「どした?」
「……俊輔は……何て?」
「あ。ああ、そっか。大事なとこ言ってなかったな」
「……」
クスクス笑いながら、凌馬さんは再び椅子に腰掛けた。
「オレ、聞いたんだよ。他の男にヤラれた男なんかもう要らないか?って」
「……」
「俊輔が要らないってんなら、通りかかったのも何かの縁だし、とりあえず元気になるまでは面倒見てやるって言った訳よ。あ、もちろん、こんな笑いながらじゃねえぜ? ちゃんとシリアスにな、話したんだけどよ」
クスクス楽しそうに笑う凌馬さん。
オレがじっと凌馬さんを見つめていると。凌馬さんはオレを見つめ返して、ふ、と笑った。
「……俊輔何つったと、思う?」
「……」
他の奴にされたと思ってるなら要らないって言う気がするんだけど……。
……どんな言葉で拒否されるかは、見当も付かない。
無言で首を振ると。
凌馬さんは、ニヤ、と笑って、オレの頭を撫でた。
「……すぐ迎えに来るってよ」
「……え」
それは、予想外の、言葉だった。
「行くまで頼むって。……頼む、なんて珍しい言葉まで聞いちまったし」
「……」
「だから、頼まれてやった」
笑顔の凌馬さんに、ただ硬直するばかり。
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