77 / 138
第三章
15.「憎んでは」*真奈
しおりを挟む「……憎んでは……ない……です」
オレの口にしたその言葉に、凌馬さんは意外そうに、へえ、と呟いた。
「良いのか? ……逃がしてやるって言ってんだぜ?」
「……」
答えられずに居ると、凌馬さんは少し笑んだ。
「……俊輔は……怖い、ですけど……」
不意にあの夜の事を思い出した瞬間、辛くて、思わず眉を顰めてしまったけれど。その後、小さく首を横に振った。
俊輔の事は、怖い。それは、嘘じゃない。
怖くないなんて、ある訳がない。
だけど。……憎んでいるか、嫌いか、と聞かれて。
即答出来ない時点で、オレは……。
「憎んでは……ないと、思います」
自分の言葉に、自分でも戸惑いながら。
けれど、やっぱりそうとしか思えないので、まっすぐに伝えた。
すると、凌馬さんはニヤリと笑うと……オレを良い子良い子と、撫でてきた。
「じゃあ……分かった。 オレこれから、嘘付いてくる」
「……うそ?」
不思議に思って、立ち上がった凌馬さんを見上げると、ふ、と少し楽し気に笑った。
「その嘘で、俊輔が心配して飛んできたら、とりあえず今回は帰ってやれよ。あの屋敷出たいなら、ちゃんと俊輔に認めて貰ってからでねえと、真奈ちゃんこの先どうすんだよって話だろ? まさかずっと見つからないように逃げ隠れる訳にもいかねえもんな」
「……」
「心配して飛んで来ねえんなら、オレが責任もって俊輔を止めてやるよ。大体あいつは、ほんとなら男を囲ってるなんてマズイ立場なんだからよ。和義さんに頼んででも、止める術はあると思うんだよな……」
「あの……嘘って……何ですか?」
凌馬さんを見上げると、今度はとても楽しそうに、ニヤリと笑った。
「それは任せろよ」
「……はい」
その笑みには、かなり俊輔に似たものを感じて。
とんでもない嘘を付きそうな気がして戸惑うのだけれど、今この人以外に頼れる人もなく。
仕方なく、頷いた。
「オッケー。んじゃ、電話してくるわ」
……凌馬さんが消えて数十秒。
ソファに横になって、あれこれ考えていたオレはなんだか急に怖くなってきて、起き上がった。
どんな嘘つくのか知らないけど。
たとえ、怒ってなくて心配して来たとしたって……。
あんな鬼みたいな俊輔に会ったまま逃げてきた後だと。……やっぱり、次に会う時が死ぬ時な気がする……。
たとえ、本当に一生逃げる人生になったとしても、逃げた方が良かったんじゃ。何なら海外で暮らすとか。
何だか思考は支離滅裂なものになっていく。
それが分かって、一旦、首をぶるぶると小刻みに振って、思考を止めた。
「――――……」
……ああ、やっぱ、すっっっっごい、怖いな……。
……ていうか、怖くない奴なんか居るのかな。
あんな類の痛みと怖い思いして、その相手を怖いと思わない奴なんて、居ないよね。
どうしよう。
今ならまだ間に合うかな。凌馬さんに言って、逃がしてもらう……?
実際に俊輔と会うのかと思ったら、嫌なドキドキで苦しくなってきた。
掛かっていた毛布を剥いで、床に足を着いた瞬間。ドアが開いて凌馬さんが入ってきた。
「あ」
凌馬さんの姿を認めた瞬間。がく、と膝から力が抜けて崩れそうになって。
「オイオイ、何してんの」
駆け寄るように側に来て支えてくれた凌馬さんの腕にすっかりはまってしまった。
「……立てねえ?」
「す……すみません……」
「いーけどよ。トイレか?」
「……」
ぷる、と首を振ると、「じゃあ寝てな」とばかりに、もう一度ソファに寝かされた。
……歩けないって、何なのオレ。
生まれて初めての、ここまでヒドイ体調の時に、何でオレ、逃げ出してきたんだっけ……。
って、ああ……そっか。
梨花が、逃がしてやるって……まあ、追い出された、というのが正しいのか……。
……せめてもう少し回復してからにすれば良かったよなぁ……
そしたら、あんな所で倒れることも、凌馬さんに捕まることも……。
……捕まる、ていうのは正しくないか。
……これで俊輔に……もしも、普通に会えるなら……。
凌馬さんに会えたことを、良かったと思えるかもしれない。
一生、自分は逃げた、と思いながら生きていく。
そんな人生を送らなくて済んだと、思えるかも。
114
お気に入りに追加
1,312
あなたにおすすめの小説
アダルトショップでオナホになった俺
ミヒロ
BL
初めて同士の長年の交際をしていた彼氏と喧嘩別れした弘樹。
覚えてしまった快楽に負け、彼女へのプレゼントというていで、と自分を慰める為にアダルトショップに行ったものの。
バイブやローションの品定めしていた弘樹自身が客や後には店員にオナホになる話し。
※表紙イラスト as-AIart- 様(素敵なイラストありがとうございます!)
溺愛オメガバース
暁 紅蓮
BL
Ωである呉羽皐月(クレハサツキ)とαである新垣翔(アラガキショウ)の運命の番の出会い物語。
高校1年入学式の時に運命の番である翔と目が合い、発情してしまう。それから番となり、αである翔はΩの皐月を溺愛していく。
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
愛しいアルファが擬態をやめたら。
フジミサヤ
BL
「樹を傷物にしたの俺だし。責任とらせて」
「その言い方ヤメロ」
黒川樹の幼馴染みである九條蓮は、『運命の番』に憧れるハイスペック完璧人間のアルファである。蓮の元恋人が原因の事故で、樹は蓮に項を噛まれてしまう。樹は「番になっていないので責任をとる必要はない」と告げるが蓮は納得しない。しかし、樹は蓮に伝えていない秘密を抱えていた。
◇同級生の幼馴染みがお互いの本性曝すまでの話です。小学生→中学生→高校生→大学生までサクサク進みます。ハッピーエンド。
◇オメガバースの設定を一応借りてますが、あまりそれっぽい描写はありません。ムーンライトノベルズにも投稿しています。
風俗店で働いていたら運命の番が来ちゃいました!
白井由紀
BL
【BL作品】(20時毎日投稿)
絶対に自分のものにしたい社長α×1度も行為をしたことない風俗店のΩ
アルファ専用風俗店で働くオメガの優。
働いているが1度も客と夜の行為をしたことが無い。そのため店長や従業員から使えない認定されていた。日々の従業員からのいじめで仕事を辞めようとしていた最中、客として来てしまった運命の番に溺愛されるが、身分差が大きいのと自分はアルファに不釣り合いだと番ことを諦めてしまう。
それでも、アルファは番たいらしい
なぜ、ここまでアルファは番たいのか……
★ハッピーエンド作品です
※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏
※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m
※フィクション作品です
※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです
※長編になるか短編になるかは未定です
【完結】守銭奴ポーション販売員ですが、イケメン騎士団長に溺愛されてます!?
古井重箱
BL
【あらすじ】 異世界に転生して、俺は守銭奴になった。病気の妹を助けるために、カネが必要だからだ。商都ゲルトシュタットで俺はポーション会社の販売員になった。そして黄金騎士団に営業をかけたところ、イケメン騎士団長に気に入られてしまい━━!? 「俺はノンケですから!」「みんな最初はそう言うらしいよ。大丈夫。怖くない、怖くない」「あんたのその、無駄にポジティブなところが苦手だーっ!」 今日もまた、全力疾走で逃げる俺と、それでも懲りない騎士団長の追いかけっこが繰り広げられる。
【補足】 イケメン×フツメン。スパダリ攻×毒舌受。同性間の婚姻は認められているけれども、男性妊娠はない世界です。アルファポリスとムーンライトノベルズに掲載しています。性描写がある回には*印をつけております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる