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第三章
14.「憎いかどうか」*真奈
しおりを挟むすぐに答えられないオレに、凌馬さんは続けて問いかけた。
「俊輔が二度とこんな事しないなら、戻っても良いか? それともこのまま逃げるか?」
「……」
「逃げても、いつ見つかるかとか、隠れて暮らすの嫌じゃねえか?」
それは確かに……嫌だけど。ずっと隠れてるなんてできないだろうし。いつまで逃げてればいいかも分かんないっていうのも……すごく嫌だけど。
「ずっと逃げてるみたいなのは、嫌だよな?」
オレは小さく頷いて。それから、息を、止めた。
「……だけど……」
戻るのは……怖い。
あんな目にあった後、一度も会わずに逃げ出してきて。たとえ自分から帰ったとしたって……一回逃げ出したんだし、怒ってたら何されるんだろうかと、考えただけだって怖い。
いつまで隠れてる必要があるかっていうのは、俊輔がオレのことなんかどうでもよいと思うかどうかで変わってくる話だと思う。興味なければ、すぐにでも元の生活に戻れるかもって思うんだけど……。自分のモノが逆らうのは許せないって感じなら……捕まったら、今度はまた別の誰かに、とか。そんなこと無いとは思いたいけど……すごく怒ってたら、分かんないし。やっぱり、怖い……。
「戻ンのは怖ぇ、よなぁ?」
今度は速攻頷くと、凌馬さんは「だよな」と、クスクス笑った。
「安心しろよ。ただ引き渡したりしない。戻すなら、もう二度と傷つけたりしないか確認してからだし。逃げたいなら……考える。とりあえず、真奈ちゃんは、どうしたい?」
「……」
「……真奈ちゃんは、俊輔が嫌いか? 殺したい位、憎いか?」
そんな風に聞かれて、しばし、思考が停止。
嫌いに決まってる、憎いに決まってると思うのだけれど。
……何でオレはそれをすぐに口にできないんだろうって、思って。
「この世で一番憎んでるっていうかなら、このまま逃がしてやるよ。俊輔にも、追わせないようにしてやる」
「…………」
「親友としてはな……俊輔を殺したいほど憎んでる奴を、いくら俊輔が望んでるからって、部屋に戻すのもどうかと思う訳」
苦笑いといえる笑みを浮かべながら。
凌馬さんはオレをまっすぐ、見つめた。
「……返事は?」
そう言われて……オレは、俊輔を、思い浮かべた。
好きな訳が、ない。
最初から全然意味分かんなくて、意地が悪くて、嫌なこと敢えてするし、毎晩しつこいし。オレが普通の日常生活送れてないの、全部、俊輔のせいだし。
好きな訳が、ない。
けど。
殺したい程、憎いかと。
世界中で、一番憎いかと、聞かれたら。
「……」
それだって本当なら……即、憎いと答えるべき所なのに。
そう言えば、逃がしてくれると、言ってるんだから……言えば、いいと思うのに。
「……俊輔……のこと……」
すう、と息を吸って……。
それから。
まっすぐに凌馬さんを見つめ返して、オレは答えた。
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