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第三章
12.「思わぬ再会」*真奈
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「……っ……?」
目を開けた瞬間、驚いて見開いた。
……どこ、ここ……?
見覚えがない。
……俊輔の部屋じゃない。そうだ、逃げ出したんだ。
逃げ出して……車を降りて、商店街を、歩いて……その後……?
……ホテルに、辿り着いた?
いや、どう見たってホテルじゃ無い。 かといって病院でもないし。
なんだろう、どこかの部屋。今寝てるソファと机と……大した家具は無い。休憩室、みたいな……?
何だここ……どこ……。
何でオレここに……。
その時、ドアが開いて、人が入ってきた。
「……目ぇ覚めたか?」
穏やかな声に少し安心しながら、肘を突いて何とか体を起こし、声のする方を確認しようとする。その人が、オレの肩に手を掛けた。
「……まだ寝てな。見つけた時は死んでんのかと思ったからな?」
「――――……」
「……良かった、生きてて」
苦笑交じりの優しい声に戸惑う。
「……」
……誰……? 眉を顰める。そんなに暗くもないのに、目がはっきりしない。しかも至近距離過ぎて、見えるのは、その男の胸の辺りだけで。
肩に掛けられた大きな手に、再びソファに横にさせられる。抵抗する気が起きないのは、力が入らないせいと。
……その手の仕草が何だか優しいので、身の危険を感じないから。
「……オレの事、分かる?」
「……あ」
覗き込まれて……やっと顔がちゃんと見えた。
誰だったかを思い出した瞬間、体が竦んだ。
「……凌馬、さん……?」
暴走族の集会に連れて行かれた時の、俊輔の友達。族のリーダー。
浮かんだ名前を口に出すと、相手は、ふ、と笑った。
「おう。覚えてたか、ちゃんと」
よしよし、と頭を撫でられた。
強張っていると、凌馬さんはオレの寝ていたソファの横に椅子を持ってきて腰掛けた。
「……安心しな、俊輔には言ってねえから。まだ、言う気も、ねえから」
「……」
何を思っての言葉なのか分からないけれど、その言葉に一瞬気が緩んだ。
そんなオレをじっと見つめて、凌馬さんはため息をついた。
「……何であんなとこで死にかけてたんだよ?」
「死にかけて……?」
別に……死にかけていたつもりはないんだけど……。
突然の、あんまりな表現に、目をパチクリさせていると。
「熱。 自分が何度あるか知ってるか?」
「……?」
熱?
……額に触れようと手を動かして、そこにぺったりくっついていた何か。
「もうそれ、温いだろ。貸しな」
ぺりぺり、と額からそれを剥がす。熱冷ましの冷却シート。剥がしたそれを凌馬さんが受取ってくれて、新しいシートが額に置かれた。
その冷たさに肩を竦めて……「すいません」と言うと、凌馬さんは「良いけどよ……」と苦笑い。
「三十九度超えてんだぜ? そんなんで外でぐったりしてたらほんと、死にてえのかと思うだろ」
「……そんなつもりじゃなくて」
再び側に腰掛けて、凌馬さんはまっすぐにオレを見やる。
「……真奈ちゃんは 俊輔んトコから逃げてきたのか?」
「……」
何と答えたらいいのか分からず、凌馬さんから少し視線を逸らした。
「手首。何だよそれ。 ……アイツがやったの?」
「……」
答えられずにいると、ため息とともに、凌馬さんが話し出す。
「あのな、ここら辺、うちの族の連中がたまってるトコなんだよ」
「……」
……よりによって、何でこんなとこで下ろすんだ……
どこよりも、ここが一番、最悪……。
……凌馬さんの事は、別に嫌じゃないけど、でもこの人は俊輔の友達で。
いつ、俊輔に連絡されてもおかしくない訳で……。
「んでな。様子のおかしな奴が居るっつーから、とりあえず拾って来いって言ったのに、要らないって言われたって戻ってきやがってさ。 仕方ないからオレが一緒に行って……そしたら、呼びかけても反応ねえだろ。 顔見る前に手首の包帯から血が滲んでるの見てさ。……正直、ヤバイ奴かと思ったんだけど。そしたら、顔見たら真奈ちゃんでさ。……さすがに、目ぇ疑ったけどな」
苦笑いの凌馬さんに、何とも言えずに俯いた。
「……ここは……?」
「この一階がよく来る喫茶店なんだよ。 二階には誰も入れさせねえから気にすんな」
凌馬さんの言葉に、小さく頷く。
「それにしてもよ? 逃げるにしたって、そんな体の時に逃げなくても良いんじゃねえかと思うのはオレだけか?」
「……」
「それとも、そんな体にされたから逃げたのか?」
「……」
いくつも聞かれる質問にまるでまともに答えられない。
けれど多分、この人は聞いた時の反応で分かってるんじゃないかと、思ってしまう。だって、答えてないのに、質問がどんどん先へと進んでいってしまうし……。
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