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第三章
11.「遠のく」*真奈
しおりを挟む「なあ、アンタ」
「……?」
立てた膝に顔を埋めて突っ伏していたオレの腕が、誰かに掴まれた。
「具合悪いの?」
そんな風に呼びかけられた事を怪訝に思い、思わず泣いてるのも忘れて、振り仰ぐ。目の前に居るのは、髪を赤茶に染めた、一目見る限りお世辞にも柄の良くない若い男。オレの顔を見て、硬直していた。
「……何?」
息を呑んだままの相手に聞くと。
「……何って……そんな泣いといて、何って言われても……」
「あ……」
泣いてる事、気にしてられなかった。……やっぱ、オレ、おかしいな。ぼーっとしてる……。そう思いながら、目を拭い、再び俯いた。
「……ラリってんじゃねえよな? 具合悪いんなら拾って来いって言われたんだよ」
「……拾って……?」
あんまりな物言いに、眉を寄せ、相手をぼんやりと見つめる。
何だか視界が白い。周りのネオンが、勝手に目に飛び込んできて、世界を白くしてしまっているみたいだった。
「さっきあんた絡まれてたじゃん? そん時オレ、見ててさぁ、様子おかしかったから、うちのアタマに話したらさ、具合悪いなら死なれても困るから連れて来いってさ」
アタマ……。ろくなグループじゃなさそう。
こんな具合悪い時に、そんなとこ、連れて行かれたくはない。
「……大丈夫。休んでるだけで、死なないから……目障りかもしんないけどしばらく放っといて欲しいんだけど……」
昔なら、こんな柄の悪そうな奴も。
さっきの連中にしたって。 多少なりとも怖さや、関わり合いになる厄介さを感じたと思うんだけど。
……俊輔以上に怖かったり厄介な奴が、そうそう居るとは思えなくて。
何だか、そういう感覚が麻痺してしまってるみたいだった。
「なあ、一緒に来てくんない? 別にアヤしいトコじゃねえからさ。うちのアタマ、すげえデキた人だし」
「……悪いけど……一人になりたいから……」
首を振って、また頭を伏せる。
しばらく一緒にしゃがんでた男は、仕方なさそうに立ち上がって、消えた。
もう……今は、誰とも、会いたくない。話したくもない。
手首の痛みに、何となく目を向けると、包帯に滲んだ血が、より濃くなっていた。
「……痛た……」
少し熱ありそうだし……動いたからか、かな。
はあ、と息をついて、目を伏せた。
「……」
……俊輔。
……俊輔……。
今頃、何、してんのかな……。オレが居ないことには、まだ気づかないかな。
西条さんも帰ってないだろうし。まだ、オレが居ないこと、誰も知らないだろうけど……。
気づいたらどうするんだろう。
面倒くさいって言って、終わりかもしれないけど。
少しは……探すのかな。どうだろう。探さないか……。
……って、探してほしいのか、オレ。……そんなはずないよな。せっかく、逃げられたのに。
さっきから、頭の中には、俊輔のことしかなくて。
自分から離れた俊輔の事を、なぜこんなに鮮明に思い出すのか。
泣きたい気分が何故なのか……。
はっきりしない意識の中で、浮かぶのは俊輔の、顔だけで。
もうどうなっても良い、なんて。
せっかく逃げられたのに、こんなになげやりな感じで思ってしまうのは、何でなのか。
何だか、どんどんぼんやりしてきて。
気が遠くなってきて。だんだん、白く。 考えられなくなっていった。
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