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第三章
10.「後悔」5*俊輔
しおりを挟む「真奈さんの姿が見えません」
「何? ……あれじゃどこにも行けないだろ?」
「そう思うのですが……」
言ったオレに、和義が言い難そうに伝えた言葉は。
オレを愕然とさせた。
「看病を任せた者の話ですと、梨花さまが替わられたという話で……」
「……梨花? 何であいつが……」
嫌な感覚を振り払えず、すぐさま梨花の部屋に向かった。
「梨花……」
「……俊……おかえりなさい」
振り向いた梨花の表情が緊張する。
もう、確信だった。
「真奈をどこかに連れ出したのか?」
「…………出たがってたから」
「どこだ?」
「知らない」
逸らした視線に、この上なく苛ついて、近づくと梨花の腕を掴んだ。
「……梨花。いますぐ言わないと……ただじゃおかない」
梨花にこんな言葉をぶつけたのは、多分、生まれて初めてだった。
幼い頃からよく一緒に過ごした。梨花は可愛いと思える存在だったし、関係をもってからも、比較的優しく接してきたとも思う。
咄嗟に出た自分の言葉に、自らも驚いたけれど、梨花も相当驚いたようで、信じられないという目で、オレを見上げた。
「……っ……知らないわよ…… どこに行ったかなんて……」
「……どういう事だ? あいつを連れ出したんじゃないのか?」
「……ッ……だって、ここから出たいって言ってたわ! あたしもここにあんな人、居て欲しくなかった、だから出してあげたのよ……!」
「……梨花、お前……」
「あんな……俊を嫌がってる、しかも男なんかいらないでしょ? いいじゃない、別に!」
「どこまで一緒に行ったんだ? 真奈は大丈夫だったのかよ?」
「きゃ……」
「若!」
腕を掴む手に自然と力がこもり、梨花が短く悲鳴を上げた瞬間、和義が間に入って、止めた。
「……ッ……」
和義は、オレの視線に、静かに首を振った。
「……ッ知らないわよ……出たいって言うから、お金あげて出ていってもらっただけだもの!!」
梨花がそう叫んで泣き出して、和義が静かにそれをなだめ始める。
それを横目に、梨花の部屋を出た。
梨花を見ていたら、何を言うか、自分でも分からなかった。
……部屋の外に出て、和義が出てくるのを、ただ、待つ。
しばらくして出てきた和義は、オレに、こう言った。
「……どうやら何でも屋みたいな連中を人づてに頼んだらしいです……数人に紛れ込ませて車に乗せて連れ出した後は、真奈さんの好きな所で下ろすように伝えたらしく、場所は分からないし、その頼んだ人間も直接は知らないので連絡も取れないし……取る気もないと、泣いてらっしゃいます」
「……ッ……」
男だったら殴り倒してるとこ、なのに。
ぎり、と唇を噛みしめて、オレは拳を握り締めた。
「……和義、屋敷を出た車のナンバーから、持ち主が、分かるよな」
「偽造のナンバーでなければ良いんですが……とにかく調べてきます」
和義は早足で歩いていった。
梨花の部屋のドアを開ける。
ドアのところで立ったまま、こちらを振り返った梨花を見下ろす。
「はっきり言っておく。真奈が戻ろうとこのまま居なくなろうと……どっちにしても、お前とそういう関係になるつもりはない。……明日、家に帰れ。分かったか?」
「――――……」
梨花は、唇を噛みしめて、オレを見ている。
「いいな?」
「……」
頷いたのか俯いたのか、判別はできなかったが。
オレは、その場を離れた。
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