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第三章
7.「後悔」2*俊輔
しおりを挟む「俊、おかえりなさいっ」
屋敷に戻ると、玄関から入った途端、梨花が飛びついてきた。
「どうしたの? 帰ってくるの早くない? ね、俊、どこか出かけない?」
「……悪い、気分じゃねえ」
梨花を遮り、和義を呼んだ。
「若?」
和義が驚いたように近づいてくる。。
「今日は午後サボることにした。和義、真奈は――――……」
真奈の名前を口にした瞬間、和義の視線がきつくなった。
それを見た瞬間、ホッとした。
この態度は、真奈がどうなったか知っているということだ。和義が、あの真奈を治療せずに放っておく訳はない。
「若、少しお話があります」
「分かってる、が――先に、部屋に戻る。話はそれから別の部屋で聞く」
話があるのは覚悟していたので、和義の言葉にはすぐに頷いた。
けれどそれより真奈の様子が気になって、先に確認したかった。
腕を掴んでいる梨花の腕を解き、後ろをついてくる和義と共に、部屋に戻る。
部屋に入るとまっすぐに寝室に向かった。けれど、そこに真奈の姿はなく、綺麗に整えられたベッドがあるだけで。
オレは、和義を振り返った。
「真奈は?」
「……別の部屋で寝ています」
瞬間、イラっとした感情が胸を灼いて。
「どこだ」
そう短く聞くと。
「……教えられません」
和義が、強い視線でオレを真正面から見返した。
「今日は若をお連れするつもりはありません」
「何……?」
「……若にお聞きしたい事があります」
まるで睨み付けるような強い、視線。
オレに対してそんな目を向けるのは……和義が本当に、怒っている時だけで。
オレは、眉を寄せながら、次の言葉を待った。
「真奈さんをどうされたいんですか」
「――――……」
自分でだって出ていない問いを、いきなり投げかけられて、黙るしか、無かった。
かなり長い間、無言しか返せないで居ると、和義は、再び口を開いた。
「……もう一度、お聞きします。真奈さんをどうされたいんですか」
「――そんな事、お前に関係」
「関係ない訳がありません。彼がここに居ることを、私が咎めるのをやめたのは、彼が若にとって大切なのだと思っていたからです。でなければ、今頃、彼がここにいることを、私は許していません」
途中で言葉を奪われて、キツイ口調でそう告げられた。
「真奈さんは、高い熱を出されてます。……手首の傷も、あなたが痛めつけた箇所もヒドイ傷で、診た医者が驚いてました」
「熱?」
「……あんな真似をする為に、彼をここに置いているのなら」
「――――……」
「彼が回復次第、私は彼をここから出します」
「……んだと……」
「若がどんなに反対されても、これに関して若の意見は聞きません。絶対に彼をここから出します」
強く言いきった和義に、言葉を奪われる。
「真奈さんが来てから、若は少しずつ変わられました。他人のことを考えるようにもなられましたし、穏やかになられました。それは決して悪いことではないと思っていたので、だからこそ、私は真奈さんがここに居ることを、黙認することに決めたんです。……ですが、やはり、間違いだった気がしています」
それは、初めて聞いたことだった。
真奈のことを強く反対していた和義が、途中から全く何も言わなくなって、進んで真奈の世話までするようになったのが、何故なのか。
ずっと不思議だったその理由が、突然分かった。
「とにかく酷い状態です。傷的にも体力的にも、精神的にもだと思います。朝は一度目を覚ましましたが、シャワー中に気を失って倒れました。……それを聞いて、何を感じますか?」
「気を失った……?」
「はい」
「真奈は……無事か?」
「ですから、無事じゃないと、申し上げています」
苛ついてるのを無理無理押さえつけているような口調で、和義が言う。
「……無事じゃねえのは分かった。……じゃなくて、今はどうしてるんだよ」
「点滴を打って、寝かせてます……今は落ち着いてます」
その言葉にやっと、少しだけほっとして……疲れて、ソファに沈んだ。
同時に目に飛び込んできたのは、目の前のテーブルに、並んで置いてある、バングル。
昨日投げつけたそれに、嫌でも昨日の自分が、脳裏によみがえった。
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